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捕獲

 テツコは必至にもがき、側にある脇差を掴んでいたが、重さに負けて持ち上げることができないらしかった。

 彼女の首には、スズキが用いる糸が巻かれていた。恐らく、あれで神術を封じられているのだろう。

 二人を抑えているのはカワカミの「勉強会」に通ってる二名の男で、そこにはカワカミもいた。

 彼は本差しを抜いてヒサコの首元に向けているのだった。

「元から、こうする作戦だったんだ。ブンジをみせてお前が驚ろいてる間に、俺たちが侵入して捕える筈だったんだ。神術を封じる糸は、スズキに貰った。俺たちならこの家を囲んでも不思議に思わないだろうって。まさか、俺がお前を襲うとは思わないだろうって。――悪く思うな」

 カワカミはどこまでもぶっきら棒にいったし、僕から目を逸らしていた。

 そのためひどく説明的な言葉が、僕にいいきかせるためではなく、カワカミ自身を納得させるためのものだということは容易にわかった。

 卑怯だと、僕は思った。

「お前、こんなことをしていいと思ってるのか」

「悪いと思ってるよ。でも、他に仕方ないんだ。スズキを怒らせたら、どうなるかわかったもんじゃない。この家みたいに、石を投げられて村八分にされるじゃないか」

「じゃあ、俺はどうなってもいいっていうのか。テツコは? ヒサコは!」

「だから、悪く思うなっていってるだろ! 仕方ないんだ!」

 僕は暴れたくなる自分を必至になだめながら、この状況を冷静に理解していた。

 ブンジが捕えられ、カワカミが敵にまわっているのだ。

 さらには、テツコの神術まで封じられている。もう、この村で僕を助けてくれる者はいないだろう。

 よしんば助かったところで、村民はスズキの味方ばかりなのだろう。三年もの長きにわたって必至に戦い、片腕を失ってまで化け物に勝ったというのに。

 そう考えた僕は、この村にいることが堪らなく嫌になった。もうどうにでもなれ、そんな気分になった。

「わかった。捕まってやる。スズキの神術で僕を封じればいい」

「師匠!」

「だけど、テツコだけは助けてくれ。こいつはなにも悪いことなんてしてない。僕が命令して、無理にヒサコを匿わせたんだ」

「師匠、そんな」

「わかったな、カワカミ」

 大きな声でいうと、カワカミはやっと視線を僕に向け、それから小さく頷いたのだった。

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