悲鳴
「俺の女を返せ!」
「返せじゃないだろ性犯罪者!」
「うるせえ! 返さないとお前の女を酷い目にあわせるぞ!」
「先生に手を出せるならだしてみろ! どうせお前が首をつって終わりだ! いや、それだけじゃない! 先生のことだ! こんなことをしてる連中なんて、不愉快に思って自殺させるさ!」
そう叫ぶと、男たちは目にみえて動揺した。
僕はそれをみて、背徳的な喜びを感じた。正しいことをしている筈の僕を批判し、排斥する彼らが困る様をみて、歓喜していたのだ。
僕も彼らのように、同じ場所に落ちていたのだろう。
「お前! 捕まえてるのはあの女だけじゃないぞ! こいつをみろ!」
僕はスズキの声に、恐る恐る障子に近寄った。
罠ではないか、そう疑ってのことだったが、一目みてスズキの言葉が真実であったとしった。
男たちの一人が、ある人物を運んできたのだ。
その人物は手を前にして縄で縛られており足どりははっきりとせず、遠目でもわかるほどに顔を腫らしていた。
ブンジだった。
「こいつがどうなってもいいのか!」
僕は悪態をついた。
どうする。どうすればいい。
僕の糸を投げたところで、彼らに届く前に気づかれるだろう。それに届いたところで、連中のすべてを倒すことなど不可能だし、ブンジをとり戻そうにも力が足りない。
そのため策を練っていると、背後からテツコの悲鳴がきこえた。
僕は反射的に後ろに向かうと、障子を閉めて部屋をでた。
そこはかまどや俎板といったものが置かれた場所で、床はなく地面がそのままだった。
またその場所は丘に面しているため日当たりが悪く、薄暗い。
僕は足袋を履いた足を冷たい地面に落とすと、言葉を失った。
そこには羽交い絞めにされたヒサコと、両腕を掴まれてうつ伏せにされたテツコの姿があったのだ。




