治療
「これで、大丈夫だろう。しかしかなりの血を流したからな。しっかり水分をとって、肉を食べた方がいい」
「そうか」
「ついでに、ちぎれた手の出血も止めておこう。縫合できる可能性がある」
「それもいいが、他の人はどうだ」
「死んでる奴ばかりなんだ。生きてるのもいるが、大半は道中で治しておいた」
「そうか」
僕はそう答えると、左の腕を眺めた。
そこに左手はなく、前腕のなかほどで腕が消えており、切断面のあった場所は薄い皮膚で覆われている。
いつもの感覚で左手を握ったり開いたりしてみたが、鈍い痛みを感じただけだった。
「師匠。大丈夫ですか」
「ああ」
「よかった、本当によかった――」
テツコはそういうと泣き崩れた。どうやら安心したことで、張りつめていた感情がすべて崩れたらしい。
どう声をかけたものかと悩んでいた僕は、ふと視線を右にずらした。
そこにはやや距離をとり、遠巻きに僕たちをみる少女の姿があった。
それは八歳ほどの少女だった。
栄養状態の悪いこの村の住人には珍しく、血行はよくて顔は赤らんでいるし、頬には僅ばかりの贅肉がついている。
着ている深緑の和服は上等で、いい生活を送っているのがわかった。
問題は彼女の目だった。その下には深いクマが刻まれており、黒い目は恐怖からか絶えず動いている。
また、まだ十にもならないというのに、黒く長い髪には白いものが混じっていた。
「ヒサコ」
僕がそう呟くと、彼女はびくりと体を震わせた。
次に彼女がとった行動は、逃げではなかった。その場にくずおれると、頭を両手で隠して謝罪の言葉を口にしていたのだ。
僕が名前を読んだだけで。その他に、なにも口にしていないのに。
僕は彼女がスズキにされたことを考えると胸が痛くて仕方なかったし、ヒサコのためになにかをしたくて仕方がなかった。
そんな気持ちが、顔にでていたらしい。
テツコは涙を拭くと僕の視線を追い、ヒサコに気づいたのだ。
そして刀の音をたてながら駆け寄ると、泣きじゃくるヒサコをぎゅっと抱きしめたのだった。




