十二歳
「師匠! しっかりしてください! 死なないでください! だって、私まだ――」
「落ち着け。まだ方法はある。なにか、火元はないか」
「え、なんで――」
「傷口を焼いて塞ぐ。そうすれば出血は止まる筈だ」
「でも、そんな酷いこと――」
テツコは先ほどの猛攻撃の時とは別人のように、ぐずり始めた。思い切りが悪いが十二歳という年齢を考えれば、無理もない。
これが本来の彼女なのだ。化け物と戦っていた先ほどの様子はおよそテツコらしくない姿で、目の前で涙を流す姿こそが、本当の姿なのだ。
そう思った僕は、笑みを浮かべた。僕は年上なのだから、彼女の前では背伸びをしなければならないと思ったのだ。
「早くしろ。死ぬよりマシだ」
「それは同感だが、方法はまだある」
僕はその声をきき、首を右に向けた。
座敷牢の側に、紺色の和服を着たカワカミの姿があった。
どうやら門から入ってきたようで、彼の後ろには草履の足跡が残っている。
闇夜にも関わらずその跡がはっきりみえたのは、カワカミが右手に握っている提灯のお蔭だった。
「お前、どこに――」
「霧に迷っていたんだ。ついさっき、やっとでてこられた」
カワカミはそういうと僕の前に右膝を突き、僕の左腕を持ち上げた。
前腕の中央ほどで、骨ごと真っ二つに割れたその手からはどくどくと血が流れていて、視界にはいるだけで眩暈がした。
「みるな。痛むだけだ」
「でも、師匠が――」
「子供は黙っていろ。いいか、すぐに治療してやる」
カワカミはどこか偉そうな口調でそういった。
僕は彼の言葉に従って視線を逸らしていたため、左手の様子はみえなかった。
しかし痛みが少しずつ薄れていき、流れでる血の量が段々と減っていくのが、自分でもわかった。




