再来
納得したようなテツコの声をききながら、僕は蚕の糸をとりだした。
そして木に括りつけると、その糸を掴んで崖を下り、船に足をつけた。
それから、恐る恐ると糸から降りてきたテツコを抱きかかえ、糸から手を離してやや荒っぽく船に降り立ったブンジを迎えた。
僕たちは古びた、恐らくは二人用であろう小さな木造船に乗って浜辺まで移動した。
月の灯りすらない、完全な夜だ。波の音はどこまでも静かで、海はどこまでも黒かった。
例の紙の前半部分がないかと下をみたが、水底には光が届いておらず、様子を窺うことはできなかった。
そんな情緒に満ちた、物哀しい場所を移動した僕たちは、船を浜辺に上げると、細長い道を歩いた。
道といっても、原形を留めてはいない。
化け物に踏みつぶされて道路には数えきれないほどの穴ができていたし、両脇にあった林は食われて壊滅していた。
遠くからは川の水が流れる音がきこえるが、それは化け物が襲来する度に僕たちが直したために存在するのだった。
そんな道を歩いていた僕は、塹壕の前で足を止めた。
ある光景が目にはいった結果、恐ろしい可能性に気づいて言葉を失ったのだ。
塹壕の周囲をさっと見渡し、淵にたってなかを睨んだところ、そこには小さな種火がいくらか残っているだけだった。
殆どの油は燃え尽きていたのだ。
だが、そんなことは心の底からどうだっていい。
問題は村側の淵が崩壊していることと、村に続く道に足跡が残っていること、そして塹壕のなかから化け物の姿が消えていることだったのだ。
「奴は村に向ったんだ。――いくぞ」
僕はそういうと、二人を連れて駆けだした。




