崖
「ここは、どこだ」
「自分で考えろ」
「水の流れる音がどこかから聞こえるから、川から離れてはいない筈だ」
「師匠。ここは、一体どこなんですか?」
僕たちはそんな会話を交わしながら、荒れた道を歩いた。
僕たちはこの村で生まれ育ったし、三年前からはこの場所の隅々まで頭に入れていた。そのためどこにいるか、大体の見当はつく。
だというのに、なぜか誰一人として浜辺に続く道を思いだすことができず、僕たちは迷い続けた。
そして気づくと、僕たちは小高い崖にでた。
「どこだ、ここは」
「わかりません」
テツコがうろたえるのは、無理もなかった。
霧がうっすらとかかっていた上、日は完全に沈んでいる。それでも海には小島がみえ、ここが僕たちの過ごした海であることはわかった。
だが僕は、生まれてこの方こんな場所にでたことがない。
「一体、ここはどこだ?」
「さあ……」
ブンジが困惑し、テツコは年頃の女の子らしく怯え僕の側に寄ってきた。
その際に気づいたが、霧のなかではぐれたらしくカワカミの姿がない。お蔭で提灯がなく、他に明かりもないため辺りの様子が殆ど観察できない。
そのため新しい情報を得ようとして周囲に視線を配っていた僕は、地面に落ちて風に揺られていた紙に気づいた。
白い紙片に、筆で文字が描かれている。紙が破れているため全体像はみえなかったが、僕はわずかに残った字を読んだだけで、背筋が張るのがわかった。
「先生……!」
『さえあればすべては解決できる。自身の心の闇に向きあえば道はひらけるもの。前述の信号を使って目覚めさせなさい』
なんらかの文章の後半部分らしきその文面は、明らかに先生の筆によるものだった。
だが、なぜ?
先生は三年間というもの、一度として座敷牢からでていない。だがこの紙は明らかに、つい最近に書かれたものだ。
僕はこの紙の前半部分を探したが、それらしいものはなかった。テツコとブンジに手伝ってもらったが、やはりどこにもない。
場所が崖のすぐ側だから、海に落ちたのだろうか。だとすれば、もう回収は不可能だろう。
先生に事情をきこうにも、答えてくれるとは思えない。
そう思って下唇を噛んでいると、あることに気づいた。




