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細い手

「チョウゾウさん。もしかして」

「ああ。化け物が来る前に、神術を教えておいた。彼女には刀の神の恵みがある。今なら剣を自在に扱えるはずだ」

「なんで。まだ、十二歳なのに」

「本人の意思だよ。その子な、お前の弟子になりたいそうだ。だろ?」

「はい。――私は人の役にたちたいんです。そのためには、戦ってこの村を守るべきだと思いました。だから神術の古い使い手であるあなたの元につきたいと思ったんです」

「戦ってもなんの報酬もないし、疲れるだけだぞ」

「構いません」

 幼い。僕はそう思った。

 まだ十二歳にしかならない少女だ。赤い和服を身にまとった体は華奢で背が低く、袖から延びた手はとても細い。

 幼いのは内面も同じだ。彼女は多くの村人とは違い、親が消えた状況を受けいれ、日常に甘んじてはいなかった。現実と戦い、勝てば両親と再会できると考えていたのだ。

 けれど報いのない僕たちの苦しみや、戦うことの絶望は理解していない。

「いいじゃないか。その子を弟子にとってやれよ」

「チョウゾウさん」

「自分で自分の人生を選ぶ権利は、誰だって持ってる。戦わなかったら、座敷牢にいれられて玩具にされるだけだ」

 僕はチョウゾウを静かに睨んだ。

 幼女、もしくは幼児は性の玩具にされることになっている。大人たちがいなくなり、暴走する子供を止める人がいなくなったためだった。

 村長であるチョウゾウも、そのことを止めていない。

 ある吐き気を覚える理由からだった。

「お願いします」

 テツコは深々と頭を下げた。

 僕は化け物が消えたことを告げ、もう戦う必要はないというべきかと思った。

 しかし僕は嘘をつくのが下手だし、誤魔化すのは誠意に欠けている。

「駄目だ」

「なぜですか。私が、女だからですか。子供だからですか」

「さあな」

 僕はそういうと、チョウゾウに別れを告げて部屋をでた。

 早朝のため、外は肌寒かった。そんななか、縁側の廊下を歩くと、足音が僕の後ろに続いた。歩幅は非常に短く、子どもか女性のものとわかる。

 また、歩く度に二本の刀が触れあう音もきこえ、僕はため息をついて後ろを振り返った。

 そこにいたのはやはり、テツコだった。

 彼女の目は強かった。先ほどひいたのは、負傷しているチョウゾウの前で長々と話をしたくなかっただけで、僕に弟子入りしたいという気持ちは変わっていないに違いない。


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