不安
この話で第一部が終ります。
「化け物がきて村まではいるようなら、牢屋からだせばいい。あの人ならきっと戦ってくれる」
ようやく体を解かれて自由になった僕は、その言葉をきいてカワカミを殴りたくなった。
彼は近くにいたブンジに話をしていたのだった。
ブンジは僕と同い年の男で、カワカミを半信半疑の目でみていた。
当たり前だ。積極的に助けようとしなかったのに、自分たちが危険に陥った時は助けてくれるなどと、信じられる筈がない。
僕は溢れでる涙を拭いながらカワカミを睨んだが、彼はこちらに気づいていないらしかった。
「ただ、問題は山積みだ。この霧が晴れるまで、どれだけかかるかわからない」
カワカミはそういうと、強いため息をついた。
矢継ぎ早にいっていることからして、自分がいかに問題点を理解しており、そのことに思いを巡らせているか、相手に訴えかけたいようだ。
いや、それとも内心は不安で、人に話をする形をとって自分を納得させようとしているのかもしれない。
そう思うと、僕は先ほど先生を助けてくれなかったことで、はらわたが煮えくり返るのを覚えた。
「食料のことなら、山菜があるし魚もとれるし――」
「そうじゃないんだ。わからないか? 俺たちのなかには医者なんて一人もいない。伝染病が流行ったら、村が壊滅するかもしれない。たとえ流行らなくとも、冬を乗り越えられるとは限らない」
「まさか。すぐに晴れるさ」
「そうかな」
ブンジの嫌そうな表情をみて空気を読んだのか、カワカミはそれ以上なにもいわなかった。
しかし相手を馬鹿にするように鼻をならしたことから、納得していないことは明らかだ。
僕は握っていた拳を解いた。
カワカミを許したわけではない。
隣でテツコが恐怖に震え泣いていたため、彼女を慰めることを優先したのだ。
彼女は化け物に襲われた時の記憶がよみがえったことや、僕が殺されかかったことに怯えてはいたけれど、カワカミの話をきいて更に落ち込んだらしかった。
あの地獄を、僕はまたみることになるのではないか。
霧が晴れなければ、また化け物と戦うことになるのではないか。いや、そもそも霧は晴れるのか。僕や先生は生き延びることができるのか。
そんな不安で胸が押しつぶされてしまったのだ。




