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狐憑き

 僕の人生はここで終わるのだろうか。家族の誰にも看とられない状況で。スズキや化け物ではなく、よりにもよって先生の手で。

 僕はなにを先生にしたのだろうか。気づかない内に、なにか酷いことをしたのだろうか。

 そんな考えが頭を駆け巡り過去の記憶が蘇っているとテツコの悲鳴がきこえ、首元から先生の両手が離れた。

 地面に落ちた僕は両手で咽喉を抑えると、酸素を求めて荒い呼吸を繰り返し、ひざ下に触れる土の感触で、自分が生きていることを確かめた。

 その際、周囲の視線が僕たちに突き刺さっていることに気づいた。

 僕は恩人であるテツコを抱きしめ、彼女を泣き止ませるために髪を撫でた。

 そんな折、群衆のなかから、チョウゾウが現れて僕と先生の前にたつと、大きな声でまくしたてた。

「なにをしてるんだ。死ぬところだったんだぞ!」

「でしょうね。殺すつもりだったもの」

「殺すって――なぜ。弟のようにかわいがってたのに。さっきは、抱きしめていたじゃないか」

「あなたには理解できないわ」

 彼女はそういった。

 僕は首元を抑え、両目から涙を流しながら、顔をあげて先生の目をみた。

 その無表情な表情には、僕にだけわかる感情が宿っていた。

 それは悲しみであり、苦しみであった。そして筆舌に尽くしがたい、圧倒的な孤独だった。

 その感情がどこから来るものか理解できず、不快深呼吸を繰り返しながら彼女をみていたところ、銃や桑を持った男たちが先生をとり囲んだ。

 彼らの目は一様に血走っており、今にも先生に襲いかかりそうだった。

「狐憑きじゃないか」

「そうだ。そうに違いない」

「女でアカの癖に、目立つことをするからこうなるんだ」

 誰かが口にした無責任な言葉は、あっという間に場を支配した。

 狐憑きというのは、発狂した人のことを指す言葉だ。迷信の類だということは常識だが、自分たちの理解できない状態を、無理に納得するために使った言葉らしかった。

 僕は呆然とした。

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