酒
「しらなかった? 死地のある程度まで足を踏み入れると、そうなるの」
「なんで――」
「神術よ。この場にだれも入れないための。獣がおらず草木が生えていないのもそのためでしょうね。恐らく、この場に子供しか残っていないのも」
「え?」
「やはり気づいていなかったのね。恐らく地震が起こった時、人をのかせるように神術が掛かっていたのよ。けれど気の遠くなるような時が流れたことで、その術が薄れたのでしょうね。だから術に耐性が強い子供ばかりが残ったの」
「それは、なんでみんなにいわなかたったんですか?」
「いえばここになにが眠るか気づかれてしまうもの」
僕は体を震わせたまま、先生の言葉の意味するところを探ろうとした。
しかしそれよりも先に、先生が静かに歩きだした。
「村に戻りましょう。ただし、念のために蚕の糸で死地の周囲を囲って。ここから化け物が現れた時、わかるように」
僕がその言葉に従うと、二人で傾斜の酷い下り坂を、気をつけながら歩いた。
村に戻り村長の家にいくと、ラジオや無線機が動かないかと必至にいじくっている子がいた。
しかし、その努力はなんの効果ももたらさなかったらしい。『ふたぐん……』という意味のなさない声がきこえるだけで、なんの放送も流れなかったのだ。
僕が無念な気持ちでチョウゾウを探していると、彼は倉の前でとうもろこしや米でつくった酒樽をとりださせていた。
大人たちがいないのをいいことに酒で一杯やろうとしたのかと疑っていたが、どうやら違うらしい。
「酒は火がまわる。化け物にかけて火を放てば、銃で撃つよりよほど効果がある筈だ。酒はかけてからすぐに逃げればいい」
僕は名案だと思った。
村長になるのは先生がふさわしいと思っていたけれど、チョウゾウも悪い選択肢ではなかったらしい。
責任感の強い奴だったのが幸いしたのかもしれない、そう思って先生をみると、意外さや驚きはどこにもなかった。例の静かで感情の感じられない表情を浮かべていたのだった。
こうなると考えた上で村長になるのを拒絶したのかもしれない。




