第1話 今と過去
俺には、幼なじみがいた。
家は近所だったから、しょっちゅう遊んでいて、いつも白いワンピースを着ていて、綺麗な女の子だった。
その子とは、俺が15歳になる年に喧嘩をしてそのまま引っ越して―――――――――永遠に会えなくなった。
比喩や例えではない。本当に会えなくなったのだ。
俺は、ずっと後悔している。
あの時の喧嘩をなかったことにしたい。
出来るなら、謝ってやり直したい。
あいつに――――――――――もう一度会いたい……。
そんな事ばかりを、あいつの命日になると考える。
今日も……また。
☆ ☆ ☆
7月19日土曜日。
高校は休みだが、今日は早く起きた。
軽い朝食を取って、俺以外誰もいない家を出る。
「……あっつ」
家を出れば、太陽が容赦なく肌を突き刺した。
今にも溶けそうな位暑い今日は、猛暑日になると言っていた。
……毎年そうだ。
“あの時”も、こんな暑い日だった。
だから、イライラしていて――――――――。
喧嘩をしてしまった。
あいつを、傷つけた。
なんで、あんな終わり方をしたんだ。
……なんて、今さら考えても遅い。
もう……。
近くにあるバス停で、バスを待つ。
垂れてくる汗を、手の甲で拭いた。
蝉の鳴き声がやけに大きく感じるのは、この町が静かだからか。
こんなに暑くて蝉の鳴き声がうるさいと来たら……ため息の一つもつきたくなる。
と、バスがこっちに向かって来た。
バス停で止まると、ドアが開いて。
暑さから逃げるように、乗ると案の定そこは涼しかった。
「……」
椅子に座って、一呼吸する。
バスには俺と運転手以外、誰もいない。
外と違って、とても静かだ。
それから、ゆらゆら揺れながら、10分ほどバスに乗って、目的地に着くと、バスから降りた。
外は相変わらず暑いのに、あまり気にならないのは、あいつの事でいっぱいだからか。
歩きながら、『南』と書かれた墓を探す。
「あった」
すぐに見つけられたのは、何故か花が添えられていたから。
「親父さんかな」
そう呟いて、俺はしゃがんだ。
いなくてもいい。だけど、聞いてほしい。
「……なぁ、お母さんとは元気にしているか?」
墓の中には、誰もいないのだと誰かが言っていた。
分かっている。
「あれから、二年も経ったんだな。実感がわかない」
本当に、実感がわかない。
いなくなって、180度生活が変わったようで。
「本当にさー」
閉じていた目を開けると、目の前にあの時の光景が広がった。
イライラして、周りなんて気にしてなかった。
後ろから来ていた車に気づいたのは遅くて―――――――次に目を開けたとき、幼なじみが俺を庇っていた。
一瞬で現実に戻される。
その数秒後、一粒の雫が頬を伝った。
「……ごめん、ごめんな」
前髪をくしゃりと掴む。
この傷が、癒えることなんてない。
いや、あってはいけない……。