プロローグ
大幅に更新を遅らせましたが、今日からスタートします。
『………いつか、このむらをでて、そとのせかいをみてまわりたいとおもっています』
かつて、まだオレが幸せだった頃、オレの隣にはまだ彼女がいた。
『わたしはしらなければいけないことがたくさんあります。わたしはそれらをみつけにいきます』
あの頃の彼女は勿論、オレも自らに襲いかかってくるだろう運命を知らなかった。だから、彼女はそんなことを言えたのだろう。
『この村の外は危険で一杯やとおかんが言ってたで?』
あんた一人で外に出るのは無理とちゃう?オレはそう返す。彼女の願いが叶うといいと思う。だが、女の子一人で、外の世界でやっていけるとは思えなかった。
『わたしだって、じぶんのみはじぶんでまもれます。けんじゅつだって、すこしはマシになってきたと、おじさんがいってました』
彼女はそう言ってくる。確かに、彼女は同年代の子達と比べて、抜きんでた体術の腕前を持っている。しかも、物好きな旅のおっさんがオレ達に剣術を教えてくれている。とは言っても、子供レベルの剣士ごっこに付き合ってくれているだけなのかもしれない。
『それでも、まだ子供であるあんたが一人で生き抜けるわけあらへんやろ?』
彼女だったら、一人でも生きていけそうな気もしなくはないが、流石に、彼女もそこまで超人染みていないと思いたい。
『いま、むらをとびだすとはいっていません。もうすこしじぶんのみのまわりのことができるようになるまではまだここにいます』
せめて、おかあさんのてりょうりをマスターするまではここにでていくつもりはありません、と彼女はそう言い切る。彼女は食い意地が張っており、話によると、彼女のおかんの料理が大好きのようである。ここから出ていくことになったら、おかんの料理が食べられなくなってしまう。その為、必死に料理を覚えようとしている最中らしい。
『そうかい。まあ、死なへんようにがんばれや』
俺が皮肉でそう言ってやると、
『はい。ですから、わたしががししないように、あなたにはがんばってもらいます』
彼女はそんなことを言ってくる。
『は?あんた、何言うてんのや?何で、あんたがしなへんようにオレががんばなきゃいけへんのや?』
『ひとりでむらをでるのはさびしいです。ですから、あなたもいっしょにむらをでます』
『それはあんたの言い分やろうが。何で、あんたの為に、オレまで一緒に村を出なくちゃいけへんのや?』
『あなたはむらをでるのがいやですか?それとも、わたしといっしょにたびをするのはいやですか?』
彼女はそう言って、真っ直ぐオレを見る。
『別に、村を出るのが嫌とか、あんたと旅をするのが嫌なわけやないけど………』
『なら、きまりです。いっしょにたびにでます。その時はカリンやトニーをさそってあげないとかわいそうです。よにんでそとのせかいをみにいきます』
彼女は嬉しそうな様子を見せて、そんなことを言ってくる。そんな彼女を見ると、こっちまでも嬉しくなってしまう。
いつになるか分からないが、彼女と一緒に旅を出ることになったら、楽しくなるだろう、と意味なくそう思った。
だが、俺達は一緒に旅に出ることはなかった。しばらくして、彼女は村から追い出されることになり、オレ達は離れ離れになってしまった。そして、オレと彼女は一生交わることが無くなってしまった。
あの時、彼女が村を出なければ、オレ達は旅に出ることができ、こんな想いをしなくてすんだだろうか?
オレは出口のない闇の中闇雲に走り、血反吐を吐いても、誰も助けてはくれない地獄に落ちることはなかっただろうか?
それでも、時々、届く彼女の噂だけがオレを生かしてくれる。
彼女はここより北にある村で、平和に暮らしている、と。
今のオレにはそれだけ聞くことができれば幸せである。彼女が幸せになっているなら、オレはこの身を神様にだって、悪魔にだって捧げることが出来る。
今のオレにはそれくらいしか願うことはないのだから………。
***
「………今日も平和だな」
最近、平和であることがどれほど大切なものか、身に染みた俺は平和であるありがたさを神に感謝しながら、日々を送っている。
青い鳥のボランティアだけでも手が一杯だったと言うのに、最近、成り行き上、宮廷魔法使いになってしまい、しかも、城に蔓延っていた残酷なシステムに取り込まれそうになった。
結果、青い鳥と俺は城のラスボスこと黒龍さんを打ち破り、システムの破壊に成功した。流石に、全てがハッピーエンドには終わらなかったが、こうして、俺は今までの生活に戻ることができ、おまけとして、大量の額のお金を持ちかえることが出来た。
とは言え、今までにすり減らされ過ぎたエネルギーを充電したら、俺は職業探しをしなければならない。俺は今年で18になり、成人として認められる年でもある。短期間ではあるものの、宮廷魔法使いとして働いた分や、前に、|鏡の中の支配者〈スローネ〉に無理矢理、働かされた件についても、十分すぎるほどの謝礼金を貰っている。その為、しばらく、暮らしていけるお金が溜まっているとは言え、働かないわけにもいかない。
俺には二人の可愛い弟達がいる。その弟達に、兄さんは大人にもなって、働いていない、なんて言われるわけにもいかない。弟達は兄さん想いなのか、それとも、何も思っていないだけなのか、そんなことを言って来ないが、それでも、近隣の目もあるので、何でもいいから仕事を見つけなくてはいけない。
働くとしたら、俺の強みでもある魔法を利用できる仕事がいい。そうは言っても、魔法使いとして生きるなら、宮廷魔法使いか、研究員くらいである。研究員になれるほど俺の頭は賢いと思えないし、宮廷魔法使いは先ほど辞めたばかりである。
他には、傭兵として働くしかないが、俺一人で傭兵が務まるものだろうか?その前に、俺に仕事が来るかも不思議なものである。
しばらくの間は魔法協会が手配してくれる仕事を請け負いながら、本業を探すしか手がなさそうである。
「………暇そうな顔をしています」
突然、青髪青眼の少女が俺の目の前に現れる。こいつは青い鳥と言っためでたい名前のくせに、俺に不幸ばかり振りまいてくれる人物である。
「確かに、暇ではあるが、俺は暇を愛しているんだ。俺の暇を壊そうとするなよ」
俺がそう言って、こいつが手に持っている封筒のようなものに目をやる。俺のカンは語る。こいつの持っているものは俺の平和を壊すものである、と。
「平和を愛することはいいことだと思いますが、日常にはやはり過激なスパイスがあった方がいっそう、平和を愛することができると思います」
こいつはそんなことを言ってくる。やはり、俺のカンが語るように、この封筒は俺を非日常に誘う入口のようである。
「そんなスパイスは城で目一杯味わったから、もう間に合っている。お前もいろんなところから、厄介事ばかり漁ってくるな」
お前は光りものが大好きなカラス様じゃないだろ、と俺は皮肉で返すと、
「鳥は鳥でも、私は幸せを運ぶ青い鳥であって、カラスではありません。今回は私の家のポストに入っていました」
こいつはそう言って、その封筒を俺に渡す。俺は怪訝そうに、封筒を見ると、確かに、宛先は“青い鳥様”になっている。
「………開けるぞ」
俺はこいつの許可を取って、封を切ると、一枚の便箋が入っており、見覚えのあるような、ないような文字が並んでいた。
拝啓 親愛なる青い鳥様へ
青い鳥君、そして、黒犬君も元気かい?私の耳にも君達の偉業が届いている。この前なんて、武道大会で、かの有名な“翡翠の騎士”と引き分けに持ち越したそうじゃないか?君が出ると言うことを知っていれば、応援に駆け付けたと言うのに、水臭いじゃないか。それに関しては、会う時に、君の剣の腕前を見せてもらおうとしよう。
前置きはここまでにして、ここからが本題だ。是非とも、君に頼みたいことがある。一週間後に、私の別荘でパーティーを開こうと思うのだ。本当なら、君達を招待したいところなのだが、現在、私は厄介な問題を抱えている。最近、古代の魔法具を手に入れたのだが、それを狙う輩がいるようなんだ。いつもは凄腕の剣士達に守らせているのだが、パーティーを開くとなると、その輩がパーティー内に潜んでいるかもわからない。それに、私はパーティーの目玉として、この魔法具を飾ろうとしていたんだ。頼む。魔法具を守る為に、君達の力を貸してはくれないだろうか?
いい返事を期待している。
敬具
ロナルド・レイモンド
「………ロナルド・レイモンド?」
相手は俺のことも知っているので、会ったことはあると思うが、誰だったかは思いだせない。
「2,3年前くらいに、徒歩で何処までいけるのかを試した時に、出会った道楽貴族さんです」
こいつにそう言われて、俺は手をポンと叩く。
確かに、ずいぶん前に、こいつが『この先、何処まで続いているか調べます』などと言ってきたので、仕方なく一緒について行ったら、途中で迷子になってしまい、近くにあった大きな屋敷に行き、そこの主人にお世話になったことがあった。おそらく、レイモンドさんはその主人の名前だったと思う。
その時、レイモンドさんの屋敷を我が物にしようと画策していた執事さんの悪事を目撃してしまったというハプニングもあったが………。
そう言ったことがあり、レイモンドさんは俺達、特に青い鳥を気に入り、自分が出来ることなら何でもしてあげようと言ってきたのだ。遠慮を知らないあいつは馬が欲しいとおっしゃり、馬がプレゼントされることになった。とは言え、馬を連れて帰っても、置いておく場所などないので、レイモンドさんが世話をし、遊びに来た時には馬に乗れるようにしてくれているらしい。その際、レイモンドさんは青い鳥に乗馬の仕方を教えたわけだが、こいつはわずか数時間でマスターして、レイモンドさんを驚かせたのは言うまでもない。
手紙の内容を読んでいると、あれから度々文通はしていたようである。
「………で、これはどうすんだ?」
手紙の内容からすると、パーティーの間、その魔法具を守って欲しいと言うことだろう。魔法具はピンからキリまで存在するとは言え、有名どころの魔法使いが作った魔法具は云千万エルの値がつくと言う話だが、古代の文明の魔法具はそんなものとはわけが違う。
今から数千年前に栄えた古代都市には、今の技術力でも再現不可能な建物や魔法があったとされ、今よりも文明が発達していたそうだ。この時代に作られた魔法具の仕組みは優秀な魔法使い達が研究をしているのだが、難航しているようである。
そんな魔法具を俺達は“古代文明の魔法具”と呼んでいるのだが、その時代から数千年も経っていることもあり、ほとんどの魔法具は効力を失っているわけだが、ごく稀に、今でもまだ効力が持続しているものもある。
例を挙げるとしたら、あいつの友達である再生人形に使われていた鎖である。断罪天使から聞いた話だと、教会が生有する古代魔法具の一つだったそうだ。それは過去形の話で、再生人形を自由にする為に、あいつが壊してしまったわけだが………。
古代魔法具の研究者がそのことを知ったら、怒り出すと思うが、あいつには興味のないことだろう。
レイモンドさんは“古代文明の魔法具”と言っていたが、そんなものが簡単に手に入るものではない。おそらく、それは偽物か、効力が無くなった化石同然のものだろう。後者のものでも、マニアの間では高額で売買されるらしいが………。
どちらにしろ、狙っている奴がいると言う話なので、厄介なことになるのは確かだろう。できることなら、やりたくはないのだが………、
「安心して下さい。引き受けると、返しました」
困っている人のお願いを断ることはしてはいけないのです、とこいつはそんなことを言ってくる。俺はそれを聞いて、思わず尻を蹴り飛ばす。
「何するんですか!?」
「それはこっちの台詞だ!!人の相談なしに、そう言った話を進めるな。いつも言っているだろう。決める前に、俺に相談しろ、と。どうせ、俺も行くんだろう?それ」
「貴方はこんなに困っている人を見捨てるんですか?酷い人です」
「………実際の本音は?」
「彼の屋敷にいるブルーバード2号に乗りたくなりました」
「本音と言っていることが違ってんじゃねえか!!」
俺はこいつの尻を蹴り飛ばす。
こうして、青い鳥は不幸を振りまき始めていく。
これがいつもの日常なのかもしれない。そんなことを思いながら………。
誤字・脱字がありましたら、よろしくお願いします。
もしかしたら、今日もう一話UPするかもしれません