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危険人物

 喫煙を止めるのは多分不可能だ。それはこの世界における喫煙者のほとんどが思っていることであろう。俺もその一人だ。

 吸ってる間は「やめよーかなー」とか軽々しく思ったりするが、いざ本格的に辞めようと努力しようとすると、あと一箱、あと一箱、と結局同じ事を何度も繰り返してしまう。


 そんな屈辱的な現実問題をただただ考えている内に、タイマーが鳴る音が聞こえた。


 ピピピ――


 目覚まし時計だ。どうやら俺は寝ていたようだ。隣には当たり前の様に寝ている亜里沙の寝顔姿が目に見える。

 ベッドのすぐ下を見ると、長柄の寝顔姿が見える。コイツ完璧住んでやがる……。

 まぁいいや。

 さてと……仕事もしばらく休暇とってるし……何すっかな。


 テレビを付けてみる。朝の気分……朝のアニメ……色々回ってみたが、やはりあまり興味ない。


 この黄金美町では、黄金美区域限定のチャンネルが一つだけある。

 それは「黄金美ギャングチャンネル」。


 俺も時々見るのだが、ドラストや黄金美連合、バラードやGSF集団の情報が隅なく流れる。

「次のニュースです。昨日黄金美連合の頭、愛澤が裏頭の美木隆義に制裁を下され、その美木が何者かに倒され、黄金美連合は今、解散のピンチの危機が待ち受けている模様です」

 女性のニュースキャスターがそのばかばかしい情報を放映するとなると、一般人からすると笑えてくる。

 隣の男性のニュースキャスターがマイクを傾けた。

「いやー、壮絶ですな。その何者って、誰なんでしょうかね?」

「それはまだ分かりませんね。私個人の予想だと、二通り別れるんですけども、黄金美の冷酷無情な狩人、長柄。あるいはキングの頭、与謝野佳志だと思います」

「そうなのかねー……、確かに長柄氏もあくまで狩人ですからやりかねませんな……。与謝野氏の可能性は少ないんじゃないでしょうか?」

「それはどうでしょうか? 両方とも五分五分の可能性があると私は思います。もしかしたら長柄氏と与謝野氏がタッグを組んで挑んだのでは?」

「まぁキリがないね……」


 そのままテーマが別のチームに変わった。ふん……結局情報不足なのかよ……。

 ホント、俺はキングってチームを作った覚えもなければ入ったこともないし、頭になった覚えなんて満更ないぞ。誰がそんなガセ流したんだ…?


「おはよー」


 亜里沙と長柄が目を覚ました。

「お、おう。おはよう。お前ら今日なんか用事でもあるか?」

「私は特にない……。一日中暇」

 片目をこすりながら亜里沙はそう答えた。一方長柄は、

「俺は黄金美区の情報収集をする。この街にまだ面白そうな奴がいたら暇つぶしになりそうだしな」

 コイツはまだ懲りなさそうだ……。いい加減どっかでぶっ倒れろよ…。

 長柄はさっさと支度をしてから黙って玄関から出て行った。


 残ったのは俺と亜里沙の二人だけ。

「今日ホント暇だな」

「そうだね」


 暇……か。連合の奴らの件から少し経ったが、アレから問題もなければこれと言った抗争の情報もない。

 本当に暇だと思った時、俺はふと良い考えを思いついた。

「亜里沙、例の情報屋って奴と会ってみるか?」

「……え? アンタ知ってるの?」

「まぁな、ていうか一度会ったことがあるからもう顔見知りなんだよ」

「…どんな人だった?」

 期待が顔に出ていたが、コイツの思ってる期待は多分相手がイケメン男子とかそこらへんを想像してそうな感じだが、期待外れ過ぎにもほどがある回答をここはあえてここでしよう。

「小柄の美女だ」

 と言った瞬間、今の今まで期待に満ち溢れてた顔が、真っ二つに分かれたかのように静まり返った。

「……あー、そう。まぁ会ってあげてもどっちでもいい」

 そのあまりの無関心さは、最悪だ。まぁいい。一回顔を合わせさせよう。



 ――支度を終わらせ、俺達は河川敷の橋の下にあるテントに訪れた。


「おじゃましまーす」

 テントをのぞくと、正座でノートパソコンをひたすらカタカタ打ち続けてる風見と、その横でじっと見守ってるルネの姿があった。

「何? 佳志」

「あー、いや……。その、この前お前と女の人で情報交換? みたいなことしてたらしいじゃん? その張本人連れてきたんだけど……」

「………見せて」

 そして、俺の横に亜里沙が立った。少し目を逸らすような感じで、恥ずかしがっていた様子だが、何とかしてほしいなぁ……。

 風見は亜里沙をジーッとしばらく見つめていた。この恐怖の沈黙は俺も痛い。


「とりあえず、2人とも上がってよ。こっちが悪い感じするから」

「あー、悪かったな」

 俺は遠慮なくテントの中に入って胡坐をかいた。亜里沙は少し遠慮して正座して下をうつむいた。

「まぁ、そう恥ずかしがらないでよ、仁神亜里沙ちゃん」

「う……うん」

 この2人は何だかんだで仲良くなりそうって願おう…。


 一方ルネが俺に近寄って耳打ちしてきた。

「お……おい、どういう事だよこれ?」

「まぁそう焦んなよ。一応情報交換し合ってた仲間同士が今、現実で対面した瞬間を俺らが見てんだからよ」

「そ…そうなのか?」

「俺としてもちょっと腑に落ちなかったでよ」

 ルネが風見の横に改めて戻った。


 さてと……この2人はどこまで………って!?


 俺が目を逸らしている隙に……既に二人がゲラゲラと笑い話に……! ちょっと待てどんな話題を繰り出したらこうなった!?

 風見はいかにも作り笑いって感じで笑ってるけど、亜里沙は本格的な笑みで笑ってる……。

 凄すぎる……つーか何話してんだこいつら…!?

 謎の会話が終わり、俺と亜里沙はテントからお邪魔した。


「お……おい、さっき何話してたん?」

「知らないわよ。でもね、あの歩夢ちゃんって子、凄く面白い子だったなー。私あの子とお友達になりたいわ」

 想像以上に意欲が高い……こりゃ間違いなく友達になれるぞ……。



 この朝だけだ。ご機嫌に思えたのは――。



 アパートの駐輪場の事だ。亜里沙が何故か駐輪場を確認すると、急に立ち止まり、そこから動かなくなった。


「………ない」


 何がない? 異変に気が付いた俺は亜里沙の元に駆けつけ、様子を伺った。

「おいどうした? 財布でもなくしたの?」

「違う………原チャが……」

「え……原……は?」

「私の原動付き自転車がないの!」

 この焦り様を見て、俺は何となし様とも思ったが、俺も焦った。

「え!? お前原付何か持ってたの!?」

「悪い!? 私が原チャ持ってたら!?」

「悪くねーけど初耳だよ! 俺でも未だにギンチャリしか持ってないってのに!」

「あーもう……これじゃあどこも行けないじゃない……」

 しゃがんでうずくまった亜里沙は、そこから涙をポタポタ流した。


 とりあえず、俺はコイツが原付を手に入れていたことを知ったのは今。ちょっと妬く気持ちから一気にざまー見ろと思いたかったところだが、これはきっと窃盗だ。

 誰かが亜里沙の原付をパクったんだ。


 まぁ当然許せない事だな……。でもコレを警察に頼んだとしてもまた面倒な事になるだけだしな……荒田さんにでも話を付けようかな……。

 いや、面倒過ぎる。


「とりあえず亜里沙、落ち着こう。一回部屋に戻ろうよ」

 俺は亜里沙を抱えて部屋に戻った。


「あれ……お気に入りだったのに……」

「どんなバイクだったんだ?」

「ピンクが入った猫のステッカーがあるtodayの原付」

 50ccのtoday……か。聞いたことはある。

 多分夜中に盗られたんだろうな……。



 ……許せねぇ………。


「亜里沙、俺は手がかりを集めに行くからお前はココで休んでろ」

 そう言って、俺は先ほどの河川敷のテントへ行った。


「今度は何?」

 やはり風見がいた。

「亜里沙の原付が知らん間にか盗まれちまったんだよ。多分深夜あたりだと思うが、何か情報握ってねーか?」

「さぁ……。そこらへんはよく分からないなー」

「嘘だろ……」

 こういう時に限って何で情報握ってねーんだよ……


「まぁ、ちょっとした心当たりならあるけどね」

「な、何だ?」

 風見はキーボードを更に早くカタカタ打ち、たどり着いたデータが、何者かが二人写っている。


「この2人は……?」

「最近二輪車を盗む奴らで、自転車か原付かで別れる」

「何なんだよ……そいつら黄金美区にいんのか?」

「今はね。前までは中部辺りにいたらしいけど」


 何ともややこしい話だ。窃盗の二人組……か。


 風見のパソコンスクリーンに映っている2人はシルエットで写ってるからハッキリした容姿は分からない。一体どうすりゃいいんだ……。

「何とかして奴らを捕まえたいんだ。何か術があればいいんだけど……」

「そうだね、なら長柄が持ってるバイクを借りておびき寄せればいいんじゃないかな?」

「え? どういうことだ?」

「つまり、どっかに長柄のバイクを堂々と置いて、奴らが来るのをひたすら待って、そいつらが来たら倒すなり警察を呼ぶなりすれば、事は解決されるってこと。簡単でしょ?」

「なるほど、その手があったか」

 中々頭の切れる女だな。俺がバカなだけかもしれないけど……。



 ていうか長柄ってバイク持ってたのか……直接本人に話をつけたいけど、今出かけてるよなアイツ……。

 テントを出て、ひとまず長柄が行きそうな場所……コンテナに行ってみた。

 コンテナに行くと、やはりその男は立ちはだかっており、その前には女がいた。何を話してるんだろうか……?


「おーい、長柄」

 手を上げて呼ぶと、振り向いてくれた。

「ん? 何だ佳志か。何だよ?」

「その女誰――――!!??」


 その女をよくよく見てみると、どう考えても見たことのある女だった。


「何でお前……ソイツと……」

 思わずあっけなく驚いてしまった。

「いや、お前の事聞かれたから俺もちょっとパニくってんだけどな、この女知ってんのか?」

 その女は黒髪でショートの髪をしており、目はクリクリと丸く、女らしい格好をしていた。


「たく、探したわよケイちゃん!」


 プンプンと怒っている彼女に対して俺は、唖然とするしかなかった。


 なぜなら、ソイツは、俺の姉だからだ。

「何でお前がこんな所にいんだよ!」

「どこにいようが私の勝手でしょ! 今までどこにいたのか説明しなさい!」

 くそ……タイミングが悪すぎた。

「おい佳志、この人誰なんだ?」

「……………与謝野愛衣、俺の姉だよ」

「え……マジか。お前姉なんかいたのか」

 長柄もこの事にはさすがに驚いたようだ。

「悪いかよ! 姉貴がいちゃぁよ!」

「いやそういう訳じゃないが……」

 たくよ、姉貴が俺を心配するなんて昔からずーっとだ。遂に見つかっちまったな……。

「アンタ、私がどんだけ心配したか分かってる訳!? 早く説明しなさい!」

「そりゃぁお前……、ちょっと用事がたくさんあったんだよ……」

「嘘! 絶対嘘! 長柄さんからも聞いたけど、アンタまた喧嘩してるんだって!? いい加減にしなさいよ!」

 長柄……お前何余計なことしてくれてんだ……。

「うるせー! 姉貴はいっつもお節介なんだよ! ちょっとぐらい争いごとしても悪くないだろ男なんだからよー!」

「バーカ、アンタ元々荒い男なんかじゃないんだから体ぼっろぼろでしょ! ふざけないでよ!」

 もう……ココまで来たらただのギャグ会話だ。何とかしてここを断ち切ろう。


「そ……そういえば長柄、話があんだけどよ」

「ん……何だ?」


 会話を断ち切ろうとする事に対して遂にガン無視した俺らを、何をしてでも無視させないように手を出す姉貴も遂に黙り込んだ。


 そして、俺は長柄に亜里沙の原付、そして長柄のバイクのおとり作戦の事も全て説明した。


「そういう事か……、なるほど、そういえばお前に俺がバイク持ってる事説明してなかったな」

「単車か?」

「まぁな、レーサーレプリカを乗ってる。前かがみに乗る車だ」

「ほう……お前意外と凄いバイク乗るんだな……」

「前、お前が黄金美連合に奇襲かけた時、俺が止めたろ。その後あのバイクで突撃したんだよ」

「は!? だからあんなボロボロだったの!?」

「人を吹っ飛ばした時に俺も吹っ飛んで、その衝撃で色んなモン落ちてきたしな。喧嘩の時はハッキリ言って楽勝だった」

 コイツ……マジか……。つーことは相当強いって事じゃん……。

 何気ない怖気とわずかな嫉妬が、自分を責めてきた。


「まぁ、おとり作戦の事なら乗るぞ。亜里沙の原付取り返すためにもそうするしかないしな」

「あぁ、そうだな。悪いな、お前のバイク犠牲にしちまうかもしれない話もちこんじまって」

「いや、いい。俺も暇で暇で仕方がないんでな。ちなみにその例の二人組って奴も一緒にぶっ飛ばすぞ」


 そういや……その二人組ってのも気になるな……。


「なら、早速作戦実行するか!」




     *



 俺はこの街を愛せない。東京全般、いや、この日本……いや違う。このアジア全体が、俺には愛すことができない。

 日本にいる者のほとんどは現実的な主観からでしか全てを目で通すことができない。俺はそれが気に入らない。

 ロマンチック? 良い事じゃないか。俺でこそ想像力豊かな人間の証と言っても過言ではない。

 俺の夢、それはヨーロッパにある大きな城にある日突然送られ、訳も分からずその城で住むことになり、そしてその城にいる美白美女満載で勉強もでき、真面目な女の子が俺の元に参り、そしてその女の子は実は俺の許嫁だったがしかし……………!

 つまりだ、俺の夢はこの世の全ての愚者とは違ってロマンチックその物を描いた想像力豊かなシチュエーションを斬新に実現されることなのだ。

 ははは……どうだ、最高だろ。


 俺だけがこんな思いができればいいのに……という我がままを、一体誰が聞いてくれる? 誰が叶ってくれるんだ? 昔から期待してる。


 そういうシチュエーションを俺は、昔から存分に期待しているんだ!


 こんなビルだらけな都会とかいう夢ない世界で、挙げ句に人々もしくは愚民どもなんて俺はなぁ、一ミリたりとも肯定する気はない!

 何なんだこの! クッソ真面目で夢の無いリアルとは!? 草原豊かで空も快晴、お城も素敵で人々も清楚で最高、そういう世界だからこそ夢ではないのか!? 俺はこんな腐った街なんぞ絶対受け入れないぞ!


 という愚痴をここ最近し始めた。


 賀島有我曰く、この世界は腐ってる。



 今じゃ2人暮らし、死んだ親父の遺産を相続した一億以上の大金を、何故かその9割を俺が背負う事になり、その後母親と兄貴が死んだ。

 二人の葬式で、俺に遺産を任せられた理由が全て分かった。

 前々からお袋と兄貴は元気がなく、お袋はちょくちょく癌の事を口走っては兄貴が止め、その繰り返しが続いたから何となく予想はついた。

 お袋の癌は、運の悪い兄貴にも移り、そしてほぼ二人同時に亡くなった。


 妹は、もう全て諦めているらしい。


 就職先も、婚約という超ロマンチックな夢も、全て。遺産を九割俺に任せたのも、それが理由だ。

 俺は二十歳、ソファーで寝ころんでるコイツは十五歳。まだ未熟な中学三年生だ。父母を失った俺らは、親戚に引き取ってもらおうだとかいう話になったが、そのオッサンやオバサン達の話は俺が否定し、何が俺を正義か悪に導かせたのかは分からないのだが、口が勝手に動いたのか『俺が、妹の世話をする』と、何か知らんけど言ってしまった。

 それを言った途端の静けさな空気は、追々「嘘でしょ?」という空気になり、「それでも俺は、アンタらに世話をされる義理はない。俺らが頑張って暮らす」

 なーんて言っちまった訳よ。


 でよ、実際一億五千万をカバンに背負った俺らは都会のど真ん中にある高級マンションに住んで何とかしてるんだけど、肝心な夢がない訳なんだよ!


 言っておくけどな、お前らが思ってるほど俺の妹全然可愛くねーでな? 分かります? 妹がいる奴には分かるよね? シスコンには分からんと思うけどさ。



「おーいひなた、学校の支度、準備しといたからはよ行けよー」


 コイツのバッグ、制服は全て彼女の自室から持ってって、俺は別の用事の支度をした。


 妹の名前は賀島陽、感じは若干男っぽいけど気にしないでくれ。体系はスマートな方で、顔は白くて黒髪のツインテールをしている。


 陽は大きなお世話だと言わんばかりに、堂々と俺の目の前で着替え始め、スタスタと学校へ向かって行った。

 どうだ? 女性としてのデリカシー以外は至って普通過ぎる女ではないか? 何なんだ? 全然ロマンというものを感じない!

 まず恥というものを知ってほしい! 女性と言うのは常にプライドを持ち、人間としての恥を覚え、いずれは自我に目覚めては体の一部かにアクセサリーやお洒落を楽しみ、前向きで明るい、ロマンチックあるというのが最高のなのではないのか!? そうじゃないのか!?

 意味分かんねー! 俺の理想と比べて陽は、どんだけの期待を裏切ってくれるんだクソ!

 めっちゃ裏切られた気分! つーか何であんな奴引き取っちゃったんだろう!? ホント訳わかめ!


 まぁ、この愚痴もいずれ奴らの元にたどって来るさ……。



 ハッキリ言って俺は不良やヤンキー、チンピラ、そーいう奴らは一番大嫌いだ。もちろん俺のつるんでる仲間も含めてだ!

 しかし何だろう、この複雑な気持ちは。なぜ俺は奴らと話している? なぜ俺は奴らと関わっている? なぜ俺は奴らと笑ってる? なぜ俺は奴らの、



 奴らの………アタマなんだ?



 まるで矛盾を感じる文を言ってすまないと思うが、悪いが自分でも未だ謎に包まれている。

 俺はあぁいう奴らほど夢がない愚民はこの生涯それ以上に夢の無い連中を見たことがない! ロマンを語ればすぐ嘲笑い、ガス臭いバイクでわざわざ来る後輩の生意気共はうるさいし、そして俺は何故かアタマという事でビビられるし、大きなお世話なんだよ!


 類は友を呼ぶ? 違う、俺の野望と奴らのくだらない欲望とは格が違う。


 そもそも生きる世界が違うはずだ、俺は清楚極まりない普通の男性として生きたかった。増してや俺は夢のある仕事に就きたかった。


 話しは変わるけどな、言っておくが陽がもし俺の理想に的中する女性だった場合、俺は血がつながっている事など既に朝飯前、一生を覚悟に彼女と夢のあるヨーロッパ、ニューヨーク、草原、ライオンの像の口から出る綺麗な水、そういうのがたくさん並んでいる最高の舞台へと連れて行っても構わないのだ。

 兄妹など関係ない、シスコンと言われようが構わない。そういう覚悟だ。とはいっても実際陽は全くと言っていいほど夢が無い中学生。


 そうである限り、俺はそんなとこ絶対連れていくまい!



 ……………。



 冗談だ。あー見えて意外とさびしがり屋で、案外俺よりロマンのある女の子なんだよ。

 秋葉原とかいう場所では『ツンデレ』? とか『クーデレ』? とか、何か時々『ヤンデレ』? だとかいう訳の分からん女キャラを好む愚民どもがたっくさんいるらしいが、陽はそのどれにも当てはまらない。まず照れることなんてない。ツンツンしてない、クールじゃない、病んでません!


 だから良いんだよ、アイツは。


 変なシチュエーションに持ち込む女は好きじゃない。あぁいう普段何も考えず感情を表さない女の方が、ある意味魅力的なのかもしれん。

 こんな妹の世話をする男がいずれいれば良いんだけどな……。



 さて、話に戻るけどな、俺は普通の人間を務めたかった。では何で俺は二十歳にもなって酒やタバコをふかした裏世界でくだらない人生を送っているんだ! 楽だが実に未熟に感じてたまらない!

 こんな愚かな生活をしている自分を一発ぶん殴りたい!許せない!


 死んだ親父、お袋、兄貴に申し訳ない!

 示しがつかない!

 つーかこんな金持ちなのも俺んちの家庭が金持ちだっただけ!

 親父は医者のトップ中のトップ、お袋はビジネス界の最高級、兄貴はハイテクなワープロ技術を身にこなした超高校級の仕事、俺は不良! 何なんだこの差は!?

 考えてみろ、未熟にしか見えないだろ!? 俺はちゃんとした大人に早くなりたい! 

なのに行動としては実際のん気に遊んでるだけ、真逆ではないか!?

奴らに流されては遊び、流されては遊び………もう散々だ!

 いい加減にしろよ俺! こんな人生送るぐらいなら死んでしまえ!


 そして1つの手が、頭を抱えてリアルに悩んでる俺の手を握ってくれた。


「死ぬくらいなら、生きて」


 横を振り向くと、さきほど出てった陽がいた。口に出してたのか俺……?

「え………お前学校は……」

「さっき行ったけど、今日祝日だったこと忘れてた」

「そ……そうか。悪かったな突然……」

 ちなみに祝日というのは、俺にとってラッキーでもアンラッキーでも何でもない存在であり、聞いてもよっしゃ! って気分にもならん。


「有我は、死んじゃいけない。死ぬとヒナタが独りになるから」

「わ……悪い! 余計な事口に出しちまって。別に本気で思ってる訳じゃないんだ」

「なら、いい」


 そう、コイツはこの世全てに対して無関心という感情を顔から表しているように見えるが、俺への気配りは誰よりも優れている。

 実に涙が出るのだ。人と言うのはこんなにも目から液が出やすい生き物だったのか。


「これからどうする?」

「…………有我は、どうするの?」

「俺は……ちょっと出かける」

 奴らの元へと行かなきゃいけない……もう行きたくないんだけどな……。

「ヒナタは、ココでお留守番してる」

「……………」

 俺は財布から二千円札を彼女に渡した。

「何? これ」

「これで好きな物買ってこい」

「好きな物……ない」

「友達と遊ぶときとかに………」

 顔を見ると、首を振っていた。やはり予想的中、コイツは学校に1人も友達がいないのか。

「ヒナタ、お父さんが好きなタバコと、お母さんが好きな生買ってくるね」

「バカ! 二十歳以上で、身分証明書なきゃ買えないんだよ、タバコと酒は!」

「そうなの?」

 首を傾げて聞いてきたが、中坊にもなってこんな事を無知だったとは……意外過ぎる。

 世話が焼けるわコイツは……。

「その二つは俺が帰り買っておくから……お前はジュースやら菓子とか買ってこいよ。何かあったら必ず俺に電話しろよ。変なガキに絡まれたら俺が速攻ぶっ飛ばしてやるからよ」

「うん、わかった」


 そして、俺は今から荒れ腐ったところへ行くわけだ。情けない兄貴で……申し訳ない………陽。




    *



 俺、与謝野佳志は今、夜中の駐車場のど真ん中に長柄のバイクをおとりにして隅っこでずっと奴らが来るのを待っている。

「もう二時か……遅いなアイツら……」


 アイフォンの時計を確認するが、遅すぎる。


 ふと、長柄が俺に待てと手で合図をした。

 ……何だ?


「アイツら来たのか……?」

「……そのようだ」


 覗いてみると、丁度長柄のバイクを何らかの道具で鍵をこじ開けようとしている2人組が見えた。

「行くか?」

「行くしかねぇだろ」


 即座に俺と長柄はその場を断ち切り、奴らの元へとダッシュした。

「お前ら何やってんだコラァ!」

 と俺が叫ぶと、二人組は逃げるそぶりは全く見せず、道具を構え始めた。

「上等だ…! 掛かってこいよオッサン共!」

 二人の内、背の高い男がドライバーを片手に持って襲ってきた。


 振り回されたドライバーは即長柄が蹴りで跳ね上がり、俺は油断している隙を狙って奴にタックルを仕掛けた。

「うおおおおおお!」

 その男を俺は気絶するまでタコ殴りにし、我を忘れた。


「おい佳志、もう1人は俺がやる!」


 長柄はもう1人の比較的背の低い男にめがけて猛ダッシュした。


 気が付いた時には俺に馬乗りされている男の顔は既に血にまみれていて、失神していた。

「たく………コイツ高校生かよ……。どう見ても若い……」


 こんな思春期に何やってんだこいつらは……。もったいない人生送りやがって……!


 横を向き、長柄を伺うと、まぁまぁの調子だった。しかし……彼は武器を使っていない……。

 しかし数秒後には長柄の圧勝と断定され、その場の勝負はキリがついた。


「コイツら……どう見ても中坊上がりの高校生だよな」

「そのようだ。コイツはまぁまぁ喧嘩慣れしてる程度だったな、大したことはなかったが」

 まぁ終わりよければ全てよし、案外素直に終わったな、今回の事件は。

「ふん、まぁ後はコイツらに事情を調べれば――――」


 その時――。



 ブゥンブンブンブン!


「何だ!?」


 一斉に振り向くと、聞いてない奴が現れた。

「おい長柄………誰だこいつ?」

「し……知らん。2人組と聞いただけだ」

 風見からは二人組って聞いたが……もう1人いるのか!?


 ビッグスクーターから降りた男は、嫌に不気味な顔つきをしている。


「あらら~? テメェら負けちゃったのー?」


 髪は茶髪で、ミディアムあたりの量だ。比較的大学生のような、ベージュ主体の服装をしている。


はた……コイツらは……強すぎる……」

「あ? おい天野、テメェらが弱ぇだけじゃねーのかよ? 刑乃もよ、ある程度慣れてんだからオッサンぐらい何とかして殺せねーの?」

 何とか二人とも意識は取り戻したようだ。


 クソ………どうなってやがる……。コイツらチームだったのか? 見た感じこの畑って男がここのヘッド務めてそうな感じだが……。


「俺がコイツらいっぺんに相手してやっから、帰りにラーメン奢ってくれや」

「お……おい!」




 この車が一台もない広い駐車場の中、俺と長柄、畑と天野と刑乃がまさか喧嘩にまで発展することになるとは……。



 クソ……やるしかないか……!



 ブゥン!


 畑が突然ビッグスに乗り始め、遠いところまで行った。


「お……おい……逃げるのか……!」

 刑乃がそう言うと、追々畑がバイクで戻ってきた。


 しかし……とんでもないスピードだ……何する気だ……?


 俺は前回の黄金美連合の幹部と首謀者との喧嘩を思い出した――。


 車で……長柄を轢く――!



「長柄! 避けろ!」


 バイクが突っ込んだところは正に、俺らそのものだった。今度の長柄はさすがに学習した成果をだし、素早く避けた。


「あら? 当たらなかった?」

 まるで当たり前に轢くかのような畑の感情……コイツも美木と同じ、超危険人物か……!

 畑が何やらスプレーのようなものを取り出した。……臭いけし? 水?


 いや違う……中に入ってるのはオイルだ!


「燃えろ燃えろ燃えろおおおおぉぉぉおお!」



 スプレーを発射させたものは予想的中、大量の炎だった。クソ野郎……姑息な真似しやがって。


 炎は何とか二人とも避けれたが、俺と長柄は少し離れてしまった。


「佳志、何とか見計らってアイツバイクから突き飛ばすぞ」

 長柄もさすがに気合が入ったようだ。突き飛ばす……中々ハードルの高い事をしようとするんだな……。

 二手に分かれて……、挟み撃ちでやるしかないな。

 丁度長柄もその考えだったのか、急に猛スピードで走り始め、踏み込んだ足を使ってハイジャンプし、そして畑の顔面に足を的中させることに成功した!


 ドカ!


「があああああ! いてぇなロン毛頭ァ!」

 バイクごと倒れ、畑も多少怯んできたようだ。

 さて……俺も動くか。


 ――俺は倒れた畑の胸ぐらをグイと掴み、何回か頭突きを食らわせた。


 しかし、奴もそこまで弱い男ではなく、俺の腹に強烈な膝蹴りを食らわせ、その場で立ち上がった。

 くそ、痛いなこれは……。


 形勢は同等……いや、こっちが有利だ。


 あの二人組は既にノビノビ、俺と長柄は何とかいける。そして後は畑一人…。


「終わりだぞ……畑」


 俺がそういうと、奴の目が急に豹変し始めた。

「………あ?」


 これぞマジキチ、危険人物の鏡ともおける、何をしてもおかしくない眼だ。


「テメェ……まさか俺が喧嘩できねぇとでも思ってんの……? ふざけんなよ……」

 ナイフか……焼スプレーか……。


 いや違う……コイツは………素手だ。


「終わりはテメェだろうがあぁぁぁああああ!」


 ガッ!


 俺は油断していたが、後ろの長柄が、後ろから前蹴りを食らわせた。

「二対一、もう諦めろよ窃盗グループの頭さんよ」

「うるせぇ………俺はまだ負けてねぇよ……! まずはそこの短髪野郎………テメェから殺して―――」

 もう面倒くさい! こういう奴はいつまでも喋らせたらどんどんエスカレートして返って俺らが不利になる!

 俺は畑へハイキックを食らわせ、とどめに後ろ回し蹴りという、初めてやる技で頭を直撃させることに成功した。


 勝負後は正に沈黙、まるで何も残らないまま終わったかのようなこの静けさ。この感覚は前回も思い知らされた。

「長柄、コイツらに全部聞くか」

「そうだな」


 畑は……完璧失神だな。後でコイツ病院に連れて行くか……。


「長柄は、そいつ等に事情徴収してくれ」


 俺は畑を背負い、外科に連れて行った。

「慰謝料は俺が払ってやるから、これからは盗むだとかすんじゃねぇぞ。不良なら不良らしく正面から戦えや」


 現在、外科。


「ど……どうしたんですかその方は……」

 驚異に驚いている看護婦が最初に駆けつけた。

「いやーちょっとコイツバイクで転んでしまってですね、何とかできますか?」

「は……はぁ……とりあえず応急処置はできましたか?」

「余裕っすよ」


 深夜の病院の待ち時間、それはとても短いものだった。


 数分後、顔の所々にガーゼを貼っていた畑の姿が現れた。


「よぉ」

 手を上げて挨拶すると、畑は舌打ちして俺の隣の席に座った。

「…………何で俺なんか病院に連れてった……」

「あぁ? 怪我人ほっとくわけにはいかねーだろ、お前はまだ若いんだしこれからやり直せれる可能性だっていくらでもある」

「チッ………余計なお世話だ。慰謝料とか賠償金だとかはいらねぇ。俺がココの金払う」

「バカかお前、その傷は俺がやったんだから俺にケジメつけさせろ」

「………………」

 段々穏やかな雰囲気に変わってきた。

 こんな敵でも、ちゃんと話せることができるなんてな……。


「お前、名前は……?」

「俺か? 与謝野佳志」

「アンタが佳志……か。黄金美地区最強の男ってのは」

 またこの話か………何なんだ最強ってのは。

「俺は別に最強って訳じゃねーんだけどよ、気に入らねー奴はぶっ飛ばす主義だな。どこかしらのチンピラとは違うんでな。お前の名前は?」

「…………はただ」

「え、苗字と名前だよ?」

「天野にも、刑乃にも言ってねぇよ。俺は名前を失った。もう戸籍には俺の名前が残ってねぇんだよ………」

 涙声で、畑はそう言った。戸籍………残ってない……?


「どういうことだよ」

「ムカついただけだったんだけど、サツの世話になり続けてた俺に対した母さんと父さんは、俺を捨てた。それっきりこの状態だ。金が必要だ。バイトだけじゃ無理だ。だから……窃盗して売って金を……」

 そういう事か……こいつはただの窃盗じゃなく、金が必要なだけだったのか……。

 ………何とか助けたいモンだな……。


「畑、余計な欲望を持つのはもう辞めろ。不良なら不良らしく、喧嘩とタバコと酒だけにしとけ」

「…………………」


「だが、本当に金にゆとりがない時、餓死寸前でどうしようもない時、そん時は、俺に言え。俺のアパートの住所だ」


 たまたま財布に自分の名称があったので、とりあえず畑に渡しておいた。


「い……いいのかよ?」

「金持ちじゃねーけど、飯ぐれー用意できるぞ」

「………………悪かったな……世話んなって」

「ははは! 止めろ止めろ!」

 最後に俺は畑に小声で一言言った。


「俺んちにいる女、多分他人から見たら死ぬほど可愛いと思うから、いつか来てみろよ……!」

「アァ!?」


 そうして俺は、金を置いて病院から立ち去り、帰宅した。



 長柄から聞いた話によると、どうやらあの窃盗グループは中部地方から来た奴ららしく、畑はその影にたつ首謀者だったらしい。

 一番喧嘩が強く、一番危険で、あの二人組からも中々恐れられていた存在だったらしい。


 そして、奴らは中部では、『FBI』として有名だったらしい。



「佳志、ありがとね……」

 亜里沙が少々涙目で礼を言ってくれた。

「礼なら長柄に言えよ! アイツが事情調べてくれたんだから!」

「照れないでよ、バカ!」


 亜里沙の原付は無事疵なく、何も改造されずに返された。






 二つ目の事件は、無事解決された。



 ――――まさかこの先とてつもない最悪の出来事が起こるとは、知る由もなかった。


 仕事場にいた相羽鳴海が言ってた「凄く忙しい事」が、遂に来たのだ。



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