淋しさの果てに
これは今日僕が誕生日なので何か書いてみようと思って書き綴ったものです。勢いで書きました。拙い文章ですが是非。
「ハッピーバースデー!!」
そんな声とともに母親と父親の笑い声が聴こえ、
家族は楽しい時間を過ごす。
ケーキの蝋燭に火を灯し息を吐く。
「あれ買ってこれ買ってー」
と言って買ってもらったプレゼント。
現在の世の中は間違っている。
金に目が眩み何も視えてやしない。
少年は金には目が眩まなかったが
やはり何も視えていなかった。
僕は父と母と仲睦まじく暮らしていた。
父も母もとても優しいひとだった。
その優しさに甘えてか僕は気づけば
暴力を振るうようになっていた。
口癖は
「うるっせぇな!わかってんだよ!」
物に当たり、人に当たる。
俗にいう反抗期というやつだ。
視えない自分に嫉妬して自分に嫌気が差して。
だけど自分に危害を加えるのは、痛いのは嫌で。
いつしかその矛先は両親に向いていた。
自分がちゃんと甘えられる甘えさせてくれる、
そんな人にちゃんと見て欲しくて。
自分の存在価値、
存在理由を見出だして欲しくて。
ただただそれだけだった――――。
きっと通り魔とかもそうだろう。
ただ誰かに認めて欲しくて、
存在意義を見つけたくて探し出したくて。
自分が今、
いったい何のために存在しているのか、
何故生きているのかもわからない。
僕にはその気持ちがよくわかった。
寂しかった....ただ淋しかっただけなんだ。
けれど通り魔が一概にそうだとは言えない。
ただ殺人欲求があっただけかもしれないし、
ただそうするのが普通だったのかもしれない。
だけど人を殺してしまったら最後。
もうそれで終わりだ。
一線を越えることとなる。
人間には戻れない。
僕はまだ人間だった。
優しい両親たちを殺すこともなく
自分への不満を爆発させた僕は自室へと戻った。
さっきまで僕の居た部屋は様々なものが散乱している。
歪に割れたコップ。ヒビの入ったテレビ。
無惨に折れたテーブル。
そこは歩くことすら困難なほど、
硝子や陶器の欠片が散らばっていた。
破壊の限りを尽くした見るも無惨な部屋。
そこに取り残された彼らはいったい何を思ったのだろう。
自分たちが大切に大切に
育ててきた息子がこんなことをして....
自室に帰った僕は不満を爆発させたせいか
すぐに寝入ってしまった。
すっきりと眠ることができた。
何が起きているのかも知らずに。
朝から膨大に鳴り響く電子音。
耳障りな電話の音だ。
そう気づいた僕はいつも通りに両親を呼ぶ。
「母さん!父さん!電話!」
返事がない。
舌打ちをして自室から出た僕は
電話を取り次ぎに行く。
だがすぐ近くに来たところで音は途切れる。
否、側になど行けないのだ。
昨夜破壊の限りを尽くした部屋は
そう簡単に戻ることはなかった。
硝子と陶器の破片が床中に散乱していて
通ることができない。
通ることができないわけではないのだが
通ったら怪我をしてしまう。
硝子と陶器の破片が血肉を抉ることとなる。
そんなことを考えていると床には血痕。
少量の血が道を示すようにポタポタと――――。
紅く血塗られた足跡とともに――――。
その道が示した場所は両親の寝室。
呼んだとき返事がなかったことに
多少の違和感を感じ部屋に這いった。ゆっくりと。
軋む扉の音。開けた扉の先。
眼前に広がっていたのは布団の中で眠っている両親。
眠っている両親を見て安堵した僕は話し掛けた。
「母さん。父さん。もう朝だよ。」
返事はない。
「おーい、母さん。父さん。もう朝だよ?」
返事はない。
「母さん!父さん!もう朝だよ!」
声を荒げて言っても返事はない。
「ちょ、二人とも寝たふりなんかしないでよ。また僕を脅かそうとしてるんでしょ?」
「ねぇ…どうなの?母さん…父さん…。」
その言葉は虚しく響く――――。
覆い被さっていた布団をとった
その先に広がる無惨な憧憬。
互いに互いの首を絞め合い死んでいる二人。
それは紛れもなく両親だった。
「おい…嘘だろ…?何勝手に死んでんだよ!起きてよ!起きてよ!死んじゃやだよ…ねぇ…父さん?母さん?」
何度揺すっても揺すっても揺すっても
何度問い掛けても返事はない。
それでも少年は信じられなかった。
あの程度の破壊。
たかがあの程度壊しただけで
死ぬなんて思わなかった。
きっと少年が壊したものはテレビとか
テーブルとかそういうものじゃなかった。
誰もが胸に秘めている大切なもの大事なもの、
それを少年は壊してしまったのだろう。
少年はよろめいた。
母の死に。父の死に。両親の死に。
ふと眼に入ったものがあった。
テーブルの上に置かれた1つの箱と手紙。
そこには父と母よりと書かれていた。
その手紙を開いた。
「◯◯へ。
誕生日おめでとう!
今年で13歳だね。
今年は久しぶりに奮発してみたよ。
もう中学生になって
いろんな悩みも増えてくるだろうし
不安な事があったら何でも言ってね?
言いたいときに言えばいいから。
母さんも父さんもずっと◯◯の味方だからね。」
そう書かれていた。
つくづくいい両親だと思う。
優しくて優しくて優しくて
優しすぎたから辛かったんだ。
箱にはホールケーキが入っていた。
大きなケーキ。
僕の名前が描かれたチョコレートが真ん中に。
他にもチョコレートで形作られたものが
純白のクリームの上に並んでいる。
昔と同じ。
僕が幼かった頃、産まれて初めて食べたケーキ。
あのときは本当に美味しかった。
鮮明に思い出される記憶。
母と父に泣きながら頼んでやっとのことで
買って貰えたケーキ。
その味は鮮明に覚えている。
そのときは父と母は居た。
だけどもう今は居ない。
昔と同じケーキ。まったく同じもの。
ただ違うのは両親が居ないこと。
棚から包丁とフォークと皿を
取り出してきてケーキを切った。
三人分。皿に盛り付け口に含む。
不意に少年の瞳から零れ出す雫。
昔のことを思い出してなのか
はたまた哀しいだけのか。
ただただ少年は泣いた。哭いた。
「ごめん…ごめんよ。父さん…母さん…。」
翌日――――。
少年は首を吊った。