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50音順小説

不夜城 50音順小説Part~ふ~

作者: 黒やま

ふと瞼を上げると同時に機械による熱風が彼の美しい頬を下からなぞるかのように吹き上げる。

今、彼の双眸が睥睨しているのは人工的な光が燦々と輝き佇立している建物ら。

金色の右目には真っ赤にライトアップされた東京タワー。

蒼色の左目には点々と明かりがついている巨大なビル群。

その間をくぐり抜けている黒々とした点の集まり、まもなく日付が変更されるにも関わらず

人の波は途切れることを知らない。


眠らない街 大都市東京。



そんな首都のとある一角では、ある噂が瞬く間に広がっていた。

夜人気のない路地を一人で歩いていると、真っ白い人の形をした何かが現れ

人間の魂をかっ喰らうというどこにでもありそうな噂というよりは怪談のようなものである。

しかし、怪談にしてはそれを見たという情報が後を絶たないため噂になっていた。

また、必ずそれが現れるのは大小関わらず決まって何かしら事件が起きた日である、

いやもしかしたら起こしているのかもしれない・・・。

そして夜にしか出没しないためそれは「白い死神」と呼ばれ噂はみるみる大きくなり

都市伝説になろうとしていた。



日夜働く人々が集うこの都は蠢く人の分だけ犯罪・事件はたまた騒動が起きる、

今日も今日とてどこかから悲鳴が夜の街にこだまする。




10月7日 PM09:36 予備校玄関前

授業終了から数分後多くの生徒が玄関から押し出てくる、彼女もまたその溢れ出る人ごみの中にいた。

少しクセッ毛のある黒髪を校則通り二つ結びし、さらに規則に従いノーメイク、スカートも膝丈

さらに縁なし眼鏡をかけてどこにでもいそうな地味目の女子高生である。

今日もまた学校から真っ直ぐ予備校へ向かい最後まできっちりと授業を受けた。

そんな毎日の繰り返しがここ何年かのサイクルになっている。

しかしこの夜はいつものサイクルと少し違っていた。

いつもこの時間には迎えに来てくれる幼馴染の姿が今日は見えなかった、

別に頼んでいる訳でもないのに女の子の夜歩きは危険だということで

律儀に毎回予備校の入り口で少女が出てくるのを待っているのである。

しばらく彼を待ってみようかとも思ったが、帰り道を歩いていれば

きっと遭遇するだろうと思い満月(みつき)は明るい夜の街に一歩踏み出した。

「あれあれー?ねぇねぇ君。」

その声が何故か自分に向けられたものだと思ったのか、もしそうだとしても

振り向かない方が良かったのだ。

振り向いて相手を確認した時、これはまずいと感じた。

花巻(はなまき)とその取り巻きの連中が満月のまわりを取り囲むようにして立ちふさがった。

豪奢なネックレスや指輪をいくつも着けて胸元をおおっぴらに開けている花巻は

父親がどこかの有名企業のお偉いさんの金持ちだとかでそれをいいことに

この街で好き放題暴れまくっている乱暴者だ。

そんな奴が満月に声をかけてきた、周りにいた通行人も我関せず、といった雰囲気で

避けるように通って遠巻きに眺めてくる。きっと何かちょっかいをかけてくるに違いない。

いつもは喧嘩の強いあの幼馴染が一緒なので睨み一つであっちの方から逃げていくのだ。

「あれ?今日はアイツいねぇーの、ふぅーんいつも塾の帰りは

 アンタの迎えに来るっていうのにな。ひょっとして恋人とケンカ中かなー。」

アイツと問われれば誰を指し示しているかすぐに分かってしまう、かつて不良として

ここら一帯で名を馳せていた幼馴染は喧嘩無敗記録を破られたことなくもはや伝説への昇華している。

もちろん花巻もその中に漏れることなく一度も勝った試しがない、

そのためいまだにこの男は足を洗っているにも関わらず彼に執着しているのである。

「・・・私と和樹(かずき)君はそんなんじゃありません。」

花巻が満月の顔を覗き込む様に顔を近づけ酒臭い口臭を匂わせたので遠ざかるのに

グィツと背面の狭い路地に押し込まれるような形になりながらも満月の幼馴染、

和樹のことを尋ねられ嫌々ながら答える。

「なぁんだ、じゃどっかのヤローと派手にケンカかな。」

満月は花巻のそんな言葉に怒りを覚え、細い眉をグッと吊り上げ眉間にしわを寄せる。

控えめな外見と違い沸点の低い彼女は花巻の一言に一気に沸点を越えてしまった。

「なっ、和樹君はあなた達みたいなひとたちとは違いますから!」

キッと鋭い眼で男どもを見上げ怒号を浴びせる、しかしそれは彼らにしてみれば

弱者が強者に立ち向かう必死の威嚇にしか見えなかった。

悪いことにそれがさらに彼らの高揚感を増長させる。

「おいおい、そんな言い方はないんじゃないのかなぁ。和樹君の幼馴染さん。」

満月がすっと伸びてくる花巻の手を払いのけようとしたら

待ってましたとばかりに彼女のか細い腕をとる。

がっちりと腕を掴まれ花巻が少し力を加えれば折れてしまいそうにみえる。

振り払おうにも力の差がありすぎて振りほどけない、そんな彼女の姿を見て

男どもはニヤニヤと笑い続ける。

「手を離して!そんな卑劣なやり方しか出来ないの。」

「大人しそうな顔して言うこときついなー、でも知ってた?

 俺って気の強い女だぁーいすきなの。そんなこと言われたら余計に興奮するだろ。」

花巻のごつい指が満月のワイシャツの首を掴んでボタンを引きちぎろうとした、

ヤラれる、現実から逃げるように満月がギュッと目を閉じた瞬間。

それは数瞬の出来事であった。まさに風が通り過ぎるほどの短い間。

いくら満月が現実逃避して目を閉じていても何も起こらないのは分かった、

恐怖で自分の時間感覚がズレてしまったのかと思う程長く感じられた。

おそるおそる目を開けると目の前にいた男たちはどうやらいないようである。

ただウッという男の、おそらく花巻やその取り巻きの呻き声が聞こえただけであった。

が、そこでようやく気付いたのがついさっきまでかけていた眼鏡がないことだ。

きっと花巻に胸ぐら掴まれた際にどこかに吹っ飛んでしまったのであろう。

今、満月はとても困ってる。何故なら彼女の視力は非常に悪く

眼鏡をかけていないとぼやけてしか物が見えないのである。

よろよろと腰を下ろしとにかくどこかに落ちているであろう眼鏡を探し始める、

運が良ければヒビ割れたくらいで済むかもしれないが運悪ければ

眼鏡なしで家まで帰宅する方法を模索するほかない。

おろおろと両手をついてあたりを探っている満月の前に誰かが屈んだ気配を感じた。

?という気持ちで顔を上げるが、何せ眼鏡がないため人の顔らしきものが見えるが

それ以上は全く分からなかった。分かったのはその人物の顔全体が真っ白いのだけ。

「これ・・・・・。」

落ち着いたハスキーな声と同時にいきなりこめかみに何かが触れたので

思わず身を引きそうになったがそれが自分の眼鏡だと分かると

そのまま大人しくされるがままにさせた。

「あ、ありがと。」

愛用の眼鏡を受け取りしっかり装着し直すとそこには這いつくばっている

花巻とその他がいて満月は思わず口を開けて固まってしまった。

ここで改めて拾い主をまじまじと見る、それは何とも形容しがたい少年であった。

まるで日焼けをしたことがないかのような白い肌、右目は輝かんばかりの金色、

左目は深海のような蒼色のオッドアイを持つまだ10代に達したばかりのようにみえる顔。

何よりも印象的なのがすっと闇色まで透き通してしまいそうな真っ白な髪であった。

満月は神話の中から飛び抜けてきたかと思う程あまりに美しい容姿に

ほうと見惚れていると後ろの方から耳をつんざくような声がした。

「満月!!」

「和樹君・・・。」

以前よりもはるかに黒く染められている髪が満月を探して走り回ったためか

汗で額にぴったりと貼りついている、目つきが悪い青年が心底心配そうに駆け寄ってくる。

「おい、大丈夫かよ。クッソ、花巻のヤロー満月に手ェ出そうとしやがって・・・。」

ノビている花巻らを憎々しげに眺め満月の側にそっと膝をついた。

「大丈夫、心配しないで。ほら、この通り。」

「ちょっと待てよ、おめーは誰だ。まさか花巻の仲間か。」

さっきまでの心配そうな声音から一変ドスの利いた声がすぐ横の青年から

聞こえ一瞬ビクッとする。

和樹はすでにこの場から立ち去ろうとしている少年に噛みつくように言葉をかけた。

白髪の少年は背中を向けたまま立ち止まりはしたが何も答えない。

「無言ってことはそうってことだよな、アイツの仲間ならいくらガキでも手加減無用だ。」

「あっ、ちがっ・・・・・」

満月の制止も聞かずに和樹は少年に殴りかかろうとした、がそれは未遂に終わる。

最強と謳われた和樹の右フックが顔面に入ったと確信した満月であったが

次の瞬間目にも止まらぬ速さで少年はそれをかわしさらに和樹の足を払って

地面に盛大に尻もちをつかせた、あの無敗を誇った元不良がまだあどけない

顔をしている少年にあっという間に倒されてしまったのだ。

「和樹君のバカ。ちゃんと人の話は最後まで聞きなさいっていつも言ってるでしょ。

 その子は違うわよ。」

「じゃあこいつは何だよ。こんな時間にガキがここらへんほっつきまわっているとこなんて

 見たことないぜ。」

和樹と口論をしているうちに少年は二人からまた離れていこうとする。

「ねぇっ!君!待って、待っててばっ!」

声を張り上げて呼び止めても背中は小さくなっていき走って肩を掴んで

ようやく遠ざかろうとする少年を振り向かせられた。

「もしかしてあなたが私の事助けてくれたの?」

「そいつらがこの道通るのに邪魔だったから。」

どうやらこの少年は満月が目を閉じている間に数人の男どもを

立ち上がれない程にやっつけてしまったのだ。それも道を通るのを阻まれたという理由で。

信じられないとばかり目を見開いている和樹と満月を尻目に

再び歩き出そうとする少年をさらに満月は必死に呼び止めた。

「待って、あと一つだけ。あなたの名前、教えて。」

「――――――――――――不破(ふわ)。」

――――――――――――それが彼女らと彼の邂逅。満月、和樹と不破の出逢いであった――――――――――――

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