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夜の果てに  作者: 斑
第七章
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79/85

79.

「・・・ロゼン、どうしたの、なんでそんなに怒っているの?」

カルシィを抱えて部屋を出ようとしたロゼンを、額を覆って呻いていたレネドが、かっと顔を上げて引き留めた。

「待て。おまえは事の意味がわかっているな?」

ロゼンが何かを答えるよりも早かった。

「———寝たら殺す」

レネドの軋るような恫喝は、紛れもなく本気だった。

「それは、大切な女王サマが生み出せなくなるからかっ!?」

怒鳴り返したロゼンに、レネドは答えられなかった。

なぜか。

床に倒れて苦痛にもんどり打っていたからだ。

ロゼンの方にも余波は来ていたが、レネドとは違って立ってはいられた。

「そんなことにはならないから安心しろ」

宙に浮いたままになっている疑問には、レネドの代わりにメルヴィアが低い声で答えた。

「好きなようにすればいいよ、おまえたちの。ただし、おまえたちーーーのだ。こいつが何を考えていたかは知らないが、わたしは今さら何も望まない」

「そんな調子のいいことが信じられるかっ!」

ロゼンは収まらなかった。

望まないというメルヴィアの言葉が信じられないからだ。

望まないという事態が、ロゼン自身、信じられないから嘘だとしか思えないのだ。

心の中で感じている。重大なことだと。恐ろしいほどの可能性と責任が発生しようとしていた。そんな風に感じるから一層、腹立たしい。

そんなものに関わりたくないし、カルシィに関わらせたくない。

「・・・そうだよ、あんたが生めばいいんじゃないのか、自分は生まないのか、死ぬから、嫌だってことかそれで、こいつを使おうとしているのか!?」

頭に血が上っていて押さえられなかった。

思い付くままに口に出して、罵っていた。

堪えられないほど憂鬱で、がんじがらめに締め上げられて息をするのも苦しいことになっていると感じる。

想像を超えた大きさの不気味で、吐き気のするような問題が突きつけられようとしていた。

レネドの目的はこれだったのだと思った。そのためにカルシィを連れてきた。

最初から、利用するために、女王を生み出すためにーーー。

最低だ。

都合のいいことを言って騙して、信じてのこのこと連れられてきた。

怒りと憎しみに駆られたロゼンはさらに罵ろうとしてたが、一瞬、強いめまいに襲われた。

体は痺れ切って石のように固まりそのままで、倒れることも出来なかった。

ロゼンは知ることになる。聞いて腹を立てた自分などよりも遥かに深く激しい呪詛が存在して、それに打たれたために身動きが取れなくなっていることを。

「———今すぐ犯してしまえ。それで解決する。おまえの不安も可能性もすべて消え、元通りだ」

圧し殺した低い低い声は、言葉にならない不快感を伴ってロゼンの背を駆け抜けて、塊となっていた体は木っ端みじんに砕かれたのだ。

くたりと膝の力が抜けた。

強く深い毒、狂気だ。

失望、絶望、失意。根絶。

厭わしい限りのすべて、呪わしい世界。

死ぬことも罪として敵わないなら、まわりがすべて消えてなくなればいいーーー。

すべてすべてすべてーーー。

内に向けられ過ぎて外に向いた呪いだった。

怨嗟。

ロゼンの感情など一息に舐め尽くす暗く冷たいうねりに、それ以上無防備に浸かっていたら戻れなくなっていただろうと思った。

皮肉だったが、ロゼンを助けたのは一番腹立たしい男だった。

「メルヴィーーーお願いだ、やめてくれ」

這いつくばっていたレネドが立ち上がって、両腕を伸ばしてメルヴィアのほっそりとした身体をかき抱く。その際、へたり込み放心するロゼンを部屋の縁まで蹴り飛ばしたのだ。

酷く乱暴な方法だったがロゼンは助けられたのだ。苦痛を押したレネドの行動はメルヴィアを思ってのことだったとしても、ロゼンに向けた一手間は、決してついでというような楽な状態ではなかった。

だから力加減もまるでない力に蹴られて壁に激突していたが、痛みすら心地よかった。

痛覚が、メルヴィアの精神の一部へと呑み込まれていた精神を、ロゼンへと引き戻していたから。

わずかの間だったが気を失ったロゼンが目を開けたとき、セランダータに抱き起こされていた。

側で、カルシィが悲しげに泣いていた。

でもやはり、セランダータもカルシィも固唾を呑んで様子を見守っているのはロゼンではないのだ。

まだ終わっていない。

ロゼンも首をねじ曲げてそちらの方向を見やる。

猛威は収まっていないことは体感してわかっていた。

原因はたぶん不用意なことを言った自分にあって、そのせいでメルヴィアが不安定になった。傷付けたのだ。

「あの子は大丈夫だ・・・メルヴィだって、もう平気だよ、だからーーー」

レネドが、優しく何度めを繰り返した。

もう大丈夫だという言葉がメルヴィアに届いたというよりも己の身体を強く抱いたメルヴィアが、歯止めがきかなくなった自分自身を圧し潰したように感じた。

意識を失ったメルヴィアの身体ががくんと落ちた。レネドが上手く抱き留めて、すぐに抱え上げていた。

でもレネドの顔付きは強張ったままで、問題は何も解決がされていないことは明らかだった。




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