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夜の果てに  作者:
第一章
6/85

6.

 椅子を勧めたけれど要らないと断られた。

だから、カルシィは椅子にきちんと座っていたけれど、ロゼンはその足元に胡座を組んで座っていた。じっとかしこまって座るのは苦手なようで絨毯の上でも、前屈に身体を倒してみたりしながら話をしていた。カルシィの感覚では行儀が悪いと感じたが、自分を人に押しつけるのは・・・しかも相手は黒豹かもしれないのだから駄目だろうと我慢して、話を聞いた。

 ロゼンは寡黙そうだったけれど、説明はそこそこに言葉を惜しまず丁寧に話してくれたと思った。

 が、問題は話し方ではなく、内容の方だった。

 内容。

 一言に言ったら、荒唐無稽!

 デタラメ!嘘吐き!

「失敬な」

 じろりと睨まれたが、それほど怒っている様子はなかった。ある程度、自分の反応は予想していたのだろう。

「絶対、嘘だっ、そんなのっ、信じられるわけない!」

「じゃあ、俺のことはどう説明するよ?」

 反対に尋ねかえされて、カルシィは少し言葉に詰まったが、いいや。説明はすぐに見つけられた。

「あなたの特異体質。・・・大丈夫だよ、わたしは偏見持たないし、差別もしないから」

 にっこりと、カルシィは笑顔で答えたが、ロゼンはつられて笑うことはなかった。そのかわりに、フンと鼻を鳴らした。

「じゃあ、自分の方も、ただの特異体質と片づける訳か。男にキスされると喜んで幸せな気分になって身体の苦痛も消し飛ぶほどのド変態?」

「なっ!!」

 言われてみるみる顔が赤くなっていったカルシィが、反駁できなかったのはあまりの言葉のためだ。正直、傷ついた。

 だけど、ロゼンの言った内容を却下しようとすると、カルシィが口吻で呼吸が楽になったなどと言う事態の理屈が、今ロゼンが、からかって言ったような類しか残らなくなるのも事実だった。

「・・・わたしは・・・変態じゃない・・・」

「声、小さいなあ~。なんも聞こえないぜ~」

 こいつはいじめっ子タイプだと確信だった。

性格悪い。ぜったい弱い者を見つけるといびるタイプだ。

 自分は強い黒豹だから。

 ロゼンの言葉を借りたとき、地獣、と言うらしい。やっぱり獣だった。

 そして、方やカルシィは。

 羽風。

 とか、羽花などとも呼んだらしい。

 種的雰囲気が儚げで、文字通りのイメージだったそうで。すると、カルシィには羽がはえているということなのだ。

「頭と目、大丈夫?」

 冗談も休み休み言えと言いたいカルシィの声には棘があっただろうが、相手は鈍くて棘に反応することなく静かだった。

「成長遅れてるんだろうねえ。ふらふらで生きているから。可哀想に・・・」

「はあっ、なにそれ!」

「おまえが先に、喧嘩売ったんだろう?」

「売ってないもんっ!」

と口を尖らせたが、いくらかは反省していた。

「・・・だって。普通さ、信じられないよ・・・」

 半分は独り言だったがロゼンは、返事をした。

「俺だって、最初は信じられなかったんだが、認めざるを得ないだろう、自分の爪を見てこれはただの気のせいだと唱えているのにも飽きるし」

 ロゼンは、飽きたから認めたのだろうか。

 でも聞かされたばかりで、まだ飽きるものがないカルシィは口を閉ざした。

 自分は古い生き物の生き残りーーーというか、血を引いていて、混血の不思議か血の神秘、それがたまたま強く現れてしまった。

 それが、カルシィで、ロゼンは爪と牙だけど、カルシィの方はそのうち背中に羽が生えてくるかも・・・。

 などと言われてすんなり信じられるものだろうか。人間が現れる前には、わずかな間だったが古の種族が地上に住んでいたが、人間が現れると世界を明け渡し消えていったとは創世記の記述だが、そのくらいししか知らない事柄を、ほれ、と目の前に突きつけられているのだ。

「信じられないっ!・・・」

 握った拳を振るった。

 ロゼンは何も言わない。

 だけどだった。

「じゃあ、わたしは属性が同じあなたの側に避難していることで、長く生きられるの・・・?」

 なんだそれとは、カルシィの使った『避難』という言葉に対しての不満だったみたいだが、口が裂けたってロゼンが言ったような『寄り添って』なんて言葉は嫌だったから無視だった。

「空気が合わなくなってしまったから、生まれてもみんな短命で死んでゆく。せいぜい二十年だろう。かつての空気が失われてしまった上、身体が弱いときているから、彼の一族の先祖帰りには厳しい世界だろうーーーってお偉方がしゃべってやがった。俺は知らんよ。俺はその弱い方じゃないんだからな。俺達の方はばれたら珍獣扱いだが、難なく生きてゆかれる」

 母親は短命だった。祖母も母を生んでしばらくだった。

 自分は生まれたときから身体が弱くて、母ほども生きられはしないだろうと・・・。

「・・・生きられるの?」

「さあね。自分で判断してくれ。人に言われて信じられることでもないだろ」

 震える白い指が口元に運ばれていた。

 細い指は唇を撫でた。

 気色悪い感覚は・・・まだ忘れていない。覚えていた。

 そして、そのあと、嘘のように楽になったことも。

 偶然と言うには続きすぎて、デタラメだと笑い飛ばすには理屈が整いすぎていた。

「本当に・・・」


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