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夜の果てに  作者:
第五章
57/85

57.

レネドはどう見ても格好いい部類だと冷静に判断するカルシィが、ふぅっと溜息をつく。

里の有力者だし、良い男の条件だって整っているとも。

「なっ、どういう意味だよ!」

「意見が公平じゃない・・・」

「なんだそれっ。———て、子供の頃から懐いていたんだろ、そんなガキを選ぶか!?」

カルシィのコメントが、的を得て過ぎて焦ったロゼンが口走ったことだった。

ガキで、懐いていたーーー。

子供の頃からメルヴィアのところによく三人で遊びに行っていたと、セランダータは話していた。

外見からはよく歳がわからなかったけれど、メルヴィアは年上なのだ。

眠っていると年を取らないのだろうかとも思ったけれど、あれっと感じた。

「メルヴィアさんって、幾つなんだろう・・・」

疑問になったカルシィの横で、ロゼンも同じことを感じていた。

「・・・結構、じじい?」

「・・・言うと、きっと怒られるよ?」

そのあとは妙な空気が部屋に降りてしまっていた。

「・・・ねえ、セランダータさんに、メルヴィアさんの歳、聞いてもいいよね・・・?」

固い声でカルシィはロゼンに確認していた。

なんでもないことだ。女の人に聞いてはいけないかもしれないけれど、メルヴィアは男の人だし、問題はないはずだと思うのになぜだか、駄目な気がするのだ。

ロゼンにすっぱりと打ち消して貰いたかったのに、

「・・・やめておけよ・・・」

ロゼンも低い声で言った。

「・・・どうして?」

「・・・よくわからないけど・・・なんとなく、さ・・・」

知らないことがいっぱいあることがわかっているから、なんだか知ることが怖いのだ。

知らなくてはいけないことなのかもしれないけど、今、急がなくたってーーー。

「どうでもいいじゃん。歳なんて。———相手のこと好きだったら、良いわけじゃん?」

ロゼンらしくない前向きで明るい意見は、この話を終わらせたいだけでとても嘘っぽいと思ったけれど、うんと、カルシィは頷いた。

「人に聞くって失礼だよね。本人に聞いてみることにする、レネドさんのことも。勝手に想像するっていやらしいことだよね、もうやめる・・・」

馬鹿な話をしてしまったと反省していた。ただカルシィとしては、嬉しかったのだ。

好きな人がいて、その人に想われていることは素敵なことだと思ったから。

カルシィにとって、ロゼンがいてくれることは心強くて嬉しいことだから、そういう存在が、メルヴィアにもいるならいいなあと思ったから。

それだけだったのに、どうしてこんなに不安な気分になってしまったのか不思議だった。




アビールのことがあった。

でもそれは、自分だけのことではなくて、レネドからみんなが感じていることだと聞かされて気分が落ち着いていた。

仕方がないことのようにレネドは言っていた。

じゃあ、仕方がないことで認めるしかないのだ。

気をつけるように言われたけど、言われなくても気をつけようと思ったことだったので、他にはない。

気をつける。極力二人きりで会わないようにするのだ。

難しいことではないはずだった。外に出るときはセランダータにくっついているようにすればいいし、セランダータが無理なら里の人誰でもいいから、一緒にいればいい。

なら、解決———。

もう一つの、レネドのキスの方は気になるけど、詮索は良くない。

秘め事なのかもしれないので、ロゼンには話してしまったけど、これから先は自分もそっと秘めようと思った。

でももしかすると、ロゼンの言った通り、おでこで本当に特別な意味なんてないのかもしれない。

メルヴィアが目を覚まして、レネドと向きあって会話するところを見たら真相はわかるはずだった。そのときを楽しみに待とうと思った。

じゃあ、こっちも解決———。

一晩ぐっすり寝るともうすっかり再び、平穏な日々がカルシィに戻ってきていた。

外を歩き回ることは元々あまり得意ではないから、部屋の中にいることは苦痛ではないし、本当はもっと外に出るようにしないといけないのかなと考える必要はなくなって、胸を張って屋内にいればよくなった。

制限ではあるけれどなんだか苦痛は少ない気がする。

楽観的なカルシィが機嫌良く外仕事に出て行くロゼンを見送り、そのあとはセランダータに従って家の中の仕事を手伝う。食事の支度や縫い仕事を教えてもらうことも決まった。衣類の破れを直すこと、飾りの縫い模様の入れ方、出来そうなら丸ごと衣類を作ってくれるようになるとありがたい、とセランダータに言われて、いずれはちゃんと作れるようになりたいと思った。

動き回る仕事より一カ所にじっくり留まって方が自分に向いていると感じるし、一枚の布から衣服を作り上げる方法が習得できることは誇らしいことだろう。

そんなことを出来るようになったら、自分のことが今よりも好きになれそうだった。

自分で、自分の居場所を作るのだ。そうすれば自信が持てるようになれるはず。

「でも、張り切りすぎないでね」

笑うセランダータにもうしっかりと釘を刺されている。

「すぐに無理をしようとするから、ハラハラしてたまらないよ」

でも、無理をしてもやってみたいと感じられるときは気分が良くて、調子が良いときなのだ。

でももう一つ。逃避をしたいときーーー。

気分を切り替えたくて、不安を忘れたくて、無理矢理をすることもあるけれど。




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