↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜の果てに  作者: 斑
第四章
PR
49/85

49.

「ロゼン、大丈夫?」

部屋の隅に座りこんでじっと黙っているロゼンの横に座って、そっと顔をのぞき込みながらカルシィは、声を掛けた。

一度目は、聞こえなかったようで、もう一度、もう少し大きく言うと、ロゼンははっとした顔になり、カルシィを見る。

「なんか言ったか?悪い、考えごとしていた・・・」

「レネドさんに・・・いじめられたの?大丈夫?」

「・・・いや、別に、そんなんじゃない・・・」

「じゃあどうしたの?・・・元気がない、心配だよ・・・」

ロゼンはくしゃっと笑った。

「俺は頑丈なんだ。心配なんかする必要ない」

「でも・・・」

「それより、おまえはどうだったの、メルヴィアに会って来たんだろ?」

「うん・・・メルヴィアの部屋で、セランダータにメルヴィアの話を聞いた。怖いんだって。怒ると怖いって・・・」

カルシィが顔を顰めて報告すると、ロゼンはカルシィの予想外のことを言った。

「じゃあ、おまえと一緒じゃん」

「・・・」

なぜだかあちこちで誤解されているようで、カルシィは悩ましく、どうやったら訂正できるのだろうと考えていたときだ。

「なあ、おまえーーー」

背を丸めて、抱えた膝の上で頬杖をついた姿勢で、上目遣いにカルシィを見つめて言いだした。

「もし、俺が人を襲って怪我を負わせていたらどうする?殺したりしていたら・・・」

カルシィは驚いて目をまん丸にしていた。

「あ・・・いや、なんでもない。忘れてくれ」

すぐに話を打ち切ってしまったロゼンを、カルシィは黙って見つめていた。

ロゼンはその視線を避けるように立ち上がろうとした。

カルシィはーーー。

腕を伸ばしてむぎゅっとロゼンの大きな体を抱きしめていた。

「ロゼンのこと大好きだよ。ロゼンは大きな黒豹みたいだから、そういうことになるのかもしれないね」

「おまえ、怖くないのかよ・・・」

ロゼンは恐れていた、自分を。獣の力、能力を。

ロゼンは精神において、人間だった。自分の人とは違う能力の存在を認めてはいたが、人間を敵だとは思っていない。できるなら人間に混じって、己の本性を隠しながら生きてゆくことを未来展望としていた。

牙や爪があったって、人間を攻撃することを良しとしない心を持っているのだ。

そう思っていた。

でも、違うのかもしれない。

自分は、覚えていないだけで、何人も人間を襲い、噛み殺しているのかもしれないという可能性を突きつけられて、自分が根底から崩れるような不安が心に取り憑いていた。

誰かを襲って殺しているのかもしれない。

誰かを襲って食い殺していたら・・・。

ロゼンは自分が恐ろしかった。

そして、そんなロゼンをカルシィだって、顔を顰めるのではないか。

それも、もっと怖いのだ。

「うん、不思議だけど、怖くないよ。そういうことが必要なことがあったらきっと牙を剥いて戦うよね。そのための牙と爪だもんね。それに、ロゼンはわたしはそういうことしないから、なら怖がる必要ないと思う。・・・でも怖がらないと、駄目?」

まじめな顔で聞くカルシィに、ロゼンはカルシィの腕の下から自分の腕を抜いて、細い身体を抱きしめ返していた。

「おまえ、変わっている、変や奴・・・」

「変じゃない!なんだか今日、さんざん悪口言われている、わたしは怖くないし、変でもない!」

ロゼンはくつくつと笑いだした。

「俺は、それ合っていると思うけどな」

「合っていない!」

「少しこのままでいて、いいか?」

静かな声でロゼンは言った。

「うん、温かくて気持ちいいからいいよ」

ロゼンが悩んでいるのを知った。一人で悩んで苦しんでいるのだ。

それが少しでも楽になるなら、明日の朝までだって、三日だって十日だって、ロゼンの希望を叶えてあげたかった。

「———俺も、おまえのこと大好きだよ。誰よりも好きだ・・・」

そっと耳元で囁かれたロゼンの言葉にカルシィは目眩がするほど、どきどきした。




二人は気がついていなかったが、二人に与えられている部屋の、カーテンがまだ引かれていない窓の外に人影があった。

少年だった。ロゼンよりも少し若い。十日ほど前に里にやってきた野良の少年だった。野良で、人間混じりの少年は、本来なら専用の収容舎に入れられて、しばらくの間は自由を許されない。里の中を自由に歩くなど以ての外だった。

彼は勝手に、抜け出して動き回っているのだろう。

窓から、部屋の中のカルシィを食い入るように見つめていた。

彼は、カルシィのことを知らされてはいなかった。

ただ暇で、抜け出して歩き回っていて、偶然見つけたのだ。

不思議な生き物だと感じた。

人間じゃないと思った。

でも、それはとてもとてもいいものだった。

いままで、そんな生き物を見たことはなかったけれど、そいつを見たとき一瞬で、目が釘付けになっていた。欲しいと感じた。

それなのに、男がなれなれしく触っていて、いらっとした。

あの男のものだろうか。

フンと少年は鼻で笑っていた。

たとえそうでも、そんなこと関係なかった。

少年・アビールは決めたのだ。

あの不思議なのを、自分のものにする。

彼にとって、望みは現実にするものだった。いままでもそうやってきた。

今はちょっとしくじって、こんなところにいるけれど。

でも悪くなかった。あんなものを見つけられたのだから。

いつまでも見ていたかったけれど切りがなくて、アビールは静かに窓から後ずさり、自分の宿舎に戻ることにした。

戻ってしばらく、おとなしく、従順なふりをしなければならない。

自由に里を動き回ることを許されるように。

許されたらーーー。

あれは舐めたらどんな味がするのだろう。肌を噛み破ったらさぞかしーーー。

想像するとゾクゾクした。

アビールは、うっとりと笑った。




第四章終了です。

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。