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夜の果てに  作者:
第四章
37/85

37.

大門の上部には見張り場が作られている。

月明かりだけで、灯りも一つとしてなかったがロゼンとレネドには不都合なく見通すことができて、見張りにはまだ若い男が付いていた。

レネドは軽く手を挙げて合図をすると、内部で大きな錠がはずされる音に続いて分厚いて黒い門扉がギシギシと夜陰を震わせて開かれた。

「若長—、いったいどちらにーーー・・・」

見張りが飛びだしてきたが、レネドの後ろに立つロゼンを見つけるとぎんと睨みを送った。

そして、そのロゼンが毛布にくるんで大事そうに抱きかかえているものを見て、呆然となる。

カルシィは眠っていたが、異変を感じて目を覚ました。

不思議そうにあたりをきょろきょろと見回している。

「レネドアードさん、じゃなくて若長っ、あれは、あれはっ・・・」

「あれは、じゃなく、あの子はーーーぐらいに言ってくれないと、失礼だぞ」

カルシィも声の主に目を向けて、目が合った見張りはみるみる顔を赤くした。

「すいませんっ、で、そのひとはっ・・・」

興奮を隠さない、ロゼンと変わらないぐらいの年格好の見張り役を、レネドはファルムと呼んだ。

「ファルム、話は後でおいおい。中に入れてくれないか。彼らを休ませてやりたい」

「わかりました・・・けど、あいつもですかっ?」

「ロゼンのことか?」

「あいつは逃げ出した奴でーーー」

「でも、きみが気になっているそのひとは彼の連れだよ。ロゼンが入らなければ入らない。一緒に追い出すかい?」

嫌そうに黙ったファルムにロゼンが鼻に皺を寄せて挑発しながら、レネドの後に続いて門を潜った。

再び目にする光景が広がっていた。

所々に松明の炎が点在してだけの暗い広がりだった。

ロゼンや獣の一族は暗闇に強い目を持っているため十分だったが、柵壁に囲まれた敷地を見通すことは決してできなかった。

広い土地を内包している。夜陰、云々ではないのだ。

内に渓や池、畑も備え、小さな村ほどの家が建ち並ぶ生活空間だった。

二度と戻らないつもりの場所に、また戻ってきてしまった。

ロゼンは押さえきれず、はあと再び、大きな溜息を吐いた。

かっこ悪い。

しかも、ただでは済まないことは、ファルムの様子でも一目瞭然だった。これからロゼンが顔を合わす奴、合わす奴すべて、多かれ少なかれ同じような態度を取られるんだと思うとげんなりだった。

「・・・ロゼン?・・・」

「起きたのか」

ずっとうとうと眠っていたカルシィだったが、今はすっきりとした表情でロゼンを見上げている。

暗がりの中で、薄い色の瞳が星のように輝いていると思った。

「着いたんだよね?・・・ここ、すごくいい匂いがする・・・」

「そうか?ああ、着いた。・・・俺にはよくわからないが、食い物の匂いか?」

「違うと思う。もっといい匂い・・・」

「お目覚めかい。すぐに休める部屋を手配するからもう少し待ってくれ」

レネドがカルシィを振り返って言うと、見張りを他の者に押しつけてレネドを追いかけてきていたファルムがすかさず、割って入った。

「長、長、紹介してくださいよ、カルシアランって子でしょ?」

「カルシィくん。こいつは、ファルム。見ての通りの奴だ。うるさいところが玉に瑕だ」

「長〜〜。ひどい・・・」

似たような年で背格好のロゼンとファルムは目が合って睨み合ったが、ファルムはすぐに陽気な笑顔になって、ひょいと腕を差し出した。

「はじめまして。よろしく。俺はファルム・グクト。これからここに住むの?」

カルシィが毛布の下から白い手を伸ばしてすぐに合わせた。

「カルシアラン・ルドです。よろしくお願いします。・・・たぶん、こちらにお世話になると思います。ロゼンと一緒に・・・」

「へえ〜。そりゃ、嬉しいな〜。ここ、いいところだよ。人間は入ってこないし安心して暮らせる。まあ、こいつのように多少人間臭いのはいるけど」

「ファルム、やめろ!」

レネドの厳しい声に、ファルムは跳び上がるように一歩退いたが、叱られてバツが悪くなったのか、

「俺、先に知らせに行ってきます」

走って先に行ってしまった。

「・・・ロゼンは人間臭いの?」

顔を顰めたきり返事をしないロゼンに変わって、レネドが穏やかに言った。

「ロゼンは片親が人間だから、人間の匂いも少しする。でも利点もあるし、最近ではもうそれほど珍しいことでもないんだよ」

「そうなの・・・」

片親と両親との違いが存在していることに驚いているところに、いきなり利点と言われてもカルシィにはついてゆけずに首を傾げた。

戸惑いと、そして不安が表情に広がっていく。

「きみには、これからいろいろ知って欲しい。でも今日はもうゆっくり休んで、疲れを取ることだ」

レネドの優しい笑顔だった。

でも、その裏にはカルシィには考えも及ばないことが山ほど詰まっているのだ、ととても強く感じた。

「あの、・・・ロゼンは?」

「もちろん、きみと一緒だ」

カルシィだけでなくロゼンも心の底から安堵したとき、三人は大きくて古い建物の前にいた。

建物の扉がすぐに内から開き、背の高い美しい女が姿を現して、満面の笑顔で三人を迎えた。

カルシィは華やかな女性と感激に目を見張っていたが、ロゼンはしかめっ面をさらに顰めて、小さくチッと舌打ちした。




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