第一刻第一話黎明堂_2
―人物紹介―
"黎明堂"
クリスタル・アンタッチャブル(Crystal・Untouchable)
年齢:19歳
性別:男
誕生日:4月24日
血液型:O型
身長:175cm
体重:62kg
出身:語力
武器:適応話術
異名:『禁断の結晶』
遠野月
年齢:15歳
性別:女
誕生日:5月5日
血液型:A型
身長:156cm
体重:46kg
出身:魔力
能力:魔法遣い
異名:『破壊の翼』
"マフィア"
カルータ・サエル(Charta・Selu)年齢:34歳
性別:男
誕生日:8月7日
血液型:A型
身長:182cm
体重:70kg
出身:武力
武器:暗殺武術
異名:『影のない殺し屋』
「ぐ、ぅ……ぁ…っ」
左脇腹の次には右太ももを撃ち抜かれ、クリスタルは呻く。
服とコンクリートが少しずつ赤く、紅く染まっていくのが薄らと見えた。
「どうだ、少しはわかったか。ん?」
下品な笑みを浮かべながらボスと呼ばれた男が銃口を脇腹に突き立てる。
「う゛……ふ、ぅ…!」
声を洩らすまいと唇を噛んだ。痛みから眉間にシワが寄る。顔を伏せようとしたが髪を掴まれ上げさせられる羽目になった。体制的に辛い。少し汗が滲んでいるかもしれない。
焦りから身体が火照り、鼓動がやけに五月蝿く感じた。
血に濡れた銃口が頬を撫でていく。ぬるっとした感触が気持ち悪い。拭いたくても拭えないのが現状だ。
「ふん、なかなか良い表情するじゃねぇか……こりゃあ躾たら高くつくぞ!」
汚い顔を更に歪ませて男は高らかに笑う。正直、ここまで来ると引く。部下の顔も少々引きつっているようだ。
ここまで来るとクズとしか思えない。そう、クリスタルは抱いた。
痛みに慣れていない訳ではない。だが、傷口を抉られてはさすがに来るものが違った。呼吸が荒くなる。出血量が気になるがまだそこまでではないだろう。経験と勘から推測した。
「おい、子狗犬共はまだ捕まらねぇのか」
「すいません!どうやら事務所には居ないようで…」
「ちっ。子狗犬共をこいつの目の前でバラしてぇんだ、早くしろ!」
「た、ただいま!」
5分と経たずとしてボスの男が声を荒げる。おかしくて吹きそうだ。醜い豚め。そう言ってやりたいくらい必死すぎる。
そもそも奴らは簡単には捕まらない。各出身地の中でも噂となるくらいのスペシャリストなのだ。魔力の世界イナントの出は謎だけれど。
そう思っても声には出さない。まだ"武器"は使ってやりはしない。最後まで取っておいた方が楽しみも増えるものだろう、と。
結局はクリスタルもあまり性格が宜しくないのだ。
「…暇だな」
「…………」
「そうだ、今のうちに貴様の躾でもやるか」
「…………」
「その冷静さを装った顔はいつまで続くだろうなぁ?へっへっへ…おいお前たち、こいつの服を破れ脱がしちまえ!」
部下達は一瞬躊躇いを見せたがすぐに我に返りクリスタルの服に手をかけた。
シャツをナイフで裂いていく。抵抗をしようとしたが頭を地面に押さえつけられ下半身も体重をかけられてしまうとどうにもできなくなった。
室内にこもりきりにより、白い肌が晒されていく。まだ3月。鳥肌が立った。
ゴクリと唾を飲む音が聞こえる。部下達が少々頬を赤らめているようだ。といってもクリスタルにそんな趣味はひとつもない。ただ吐き気がする。
脇腹はまだ血を流し続け、腹部は乾いた血が赤黒くこびりついていた。
スラックスのベルトに手をかけられ、一気に引き抜かれる。さすがに不味い。クリスタルが焦りを抱く。顔には出さないが。
「よし、そのまま………」
「動くな」
ボスの後頭部に硬い物が押し付けられた。後頭部をグリグリと押してくる。
低めではあるが、高い声だ。
「ギリギリセーフですか、所長?」
「ギリギリアウト、かな…でも助かった。サンキュ、月」
セミロングで焦げ茶の髪を靡かせながら冷たい目でボスと、その部下を睨んだ。黒い瞳に光が消えたように見えた。瞬間、低めのブーツでその頭を踏みつける。グリグリと踵を擦り付けていった。
「所長からその汚い手を外してください。さもなくば………こいつの命は無い」
小さな拳銃をボスに向けた。安全装置を外して。
部下達はクリスタルから手を離せば静かに一歩下がり、両手を上げた。拳銃を外そうとして、止めた。クリスタルの目線が何か引っかかる。動かないのも気になる。傷から動けないとは思えないバレないように何かを見ている。何だろうか。
「お前!約束が…」
「約束?何のことですか。僕は、所長から退かないと命は無いと言いましたが人質交換なんて一言も言ってませんよ」
「この野郎…!」
「動いたら撃ちます」
「くそ……!」
「おい!カルータはどこだ!カルータ!」
ボスが叫ぶ名にクリスタルと月は眉を寄せた。カルータ?と。聞き覚えがある。何だっただろうか。
瞬間、発砲音が聞こえた。
名前を呼ばれて確かめると、自分の腹部が赤くなっている。水色のシャツから滲む赤。ショートパンツに落ちていく。
思わず体制を崩したら、背後から蹴られた。勢いで転がり、壁で背中を打つ。
「っ」
「なかなか良さげなねーちゃんやね。でも隙だ・ら・け」
「思い出した、カルータ……武力の市サイチ出身の殺し屋」
「おお、ご名答。さすが所長さん、なかなか良い格好してるねぇ、孔には使えそうかな」
「そいつと言いお前と言いろくなのがいねーのな」
カルータと呼ばれた男はクリスタルの髪を掴み上げた。痛みに耐えきれず釣られて立ってしまう。
「………」
「………じゃあ、早速…」
「良いのか?」
「………何?」
「お前のボス、フリーだけど。知らねぇよ?俺には可愛い月だけじゃなく部下はまだいるし。お前と違って有能だし。第一、俺がどうしてこんなに冷静だと思う?」
「はぁ?」
「ぐぅああああああ」
「!!」
「まだ月は動けるんだよ、ばーか」
カルータは振り返った。投げ捨てるようにクリスタルから手を離して。壁にいた筈の女がいない。ボスの両足から血が出ている。いや、何かが突き刺さっている。
「我が魔力と引き換えに。降れ、氷雨」
少女の声と同時に、カルータの頭上と部下達に鋭い氷が降り落ちてくる。刺さらないようにしていても傷が増えていく。視界が明けた。またクリスタルの方へと向けたら、その彼を庇うように月が立っていた。
「なんで…動ける……」
「……僕は、イナントの出身。魔力を糧に魔法を使う…常人とは逸脱した者…この程度の傷でわたしが動けなくなることはありません」
「イナント…だと…!!」
「所長、許可を」
「……全員口が聞ける程度に抑え込め」
「了解です」
クリスタルの言葉と共に月は駆け出す。カルータを前に足を大きく回した。避けられても、ただ冷静に次の攻撃を繰り出していく。女子なのに鋭い攻撃。カルータの動揺が動きを更に鈍くした。イナント出身の常人離れは噂と実際では全く違うのだと、舐めてかかった自分の中に深く後悔が生まれる。
その間にも月は拳銃を再び構えた。
「我が魔力と引き換えに。凍てつくせ」
急に空気の質感が変わる。冷え込んだ、というのだろうか?
パキパキと音が聞こえ、周りを見た。ボスの部下達が上半身をくねくねとさせている。上半身だけを。
突っ立っているといつ襲われるかわからないので動こうとした。動けなかった。足元見たら、何か固まっているようだ。触る。冷たい。これは、氷?
「季節柄まだ使えるので今日は氷結攻めでいきます」
パンッパンッという音と共に両太ももを貫かれる。崩れたくても地面から大きく出た氷に固定されそれすらも許されない。他の奴らも同じ様に固定が深くなっていた。少し意識を反らしていた間に、氷がどんどん迫り来る。首の辺りで止まって、一息を吐いた。吐いてしまった。
「う゛ぅ……」
「所長」
「ご苦労さん、さてこれからは俺の仕事だ」
クリスタルがゆっくりと立ち上がって月の頭を撫でれば、彼女は顔を反らす。ほんの少し、頬が染まっていた。照れているようだ。
「まず、お前。俺達を排除して………語力の国"ノータン"に何の用だ?」
「……………」
「黙秘、か。まぁ確かに頭良いな。敵に捕まったときは黙るに限る。でも俺に通じるとでも?」
クリスタルがちょいちょいと指を曲げる。それを見た月が手を掲げた。
パキパキという聞き慣れたくもないのに慣れてしまった音が聞こえると同時に、氷が広がってくる。情けない悲鳴が聞こえた。
「喋る!喋るから止めてくれぇぇぇぇぇ」
「はっ、醜い豚の鳴き声……ほら、さっさと吐けよ」
「……ノータンの奴らを、捕虜にしようとしていた。頭が回る奴らの所為でどの場所でも麻薬が広がらない…だけど、ノータンの奴らを麻薬漬けにすれば!勝手に喋って勝手に薬が広がる!ただそれだけだったんだ!」
ボスの言葉にクリスタルの額には筋が浮かんでいた。雰囲気もガラリと変わるのが感じられた。月は静かに一歩下がる。
「五年前に、ノータンの中でも一目を置かれていた奴らに邪魔さえされなければ………だが始末はチョロかったし。ぐふふ……ノータンの奴らがようやくその事件を忘れつつあるから活動を始めようとしたんだ」
「…ボス、なかなかに素晴らしいことをお考えですねぇ」
「だろぉ?ぐはははははは!」
「……おい。その奴らって誰だ」
「あ?カルータ、誰だった」
「スノーヴァという男とアイシリィという女です」
「………見つけた」
クリスタルは落ちていた奴らの拳銃を拾うと残弾数と安全装置の解除を確認した。
先程のへらへらとした様子とは一変、冷たい眼差しでクリスタルは額に銃口を当てる。しゃがみながらグリグリと押し付けた。
クリスタルの脅しではないものを感じ取ったのか、ボスは目を見開いていく。それはもう、不細工に。
「な、何だ貴様………」
「スノーヴァとアイシリィは俺の両親だ」
「ということは貴様、ノータンの………!!」
「俺はずっと復讐をしたかった。でも抑え込んでいた。復讐は復讐を呼び負の連鎖の復讐劇が始まる。でも…………お前みたいなマフィアなら復讐は呼ばない。知ってるか?お前ら、マフィア界でも嫌われてるんだと。これ以上無い復讐だよな。最高」
嘲笑を浮かべ、クリスタルは引き金を引いた。
だが、当たらなかった。当てなかった。
僅かに首筋に線が走っている。
「誰が1発で殺るかよ。じわじわと殺るのがいいんだよなぁ?」
月がまた手を動かす。声にならない悲鳴で部下達が全身氷に包まれた。ボスは小さく「嫌だ、死にたくない、止めてくれ」と呟いている。顔を残して埋めていく。
クリスタルが笑って指を鳴らせば、カルータも、ボスも凍りに包まれた。
氷付けの人間が、6人出来上がった。
クリスタルは嘲笑を浮かべ、一息吐き、崩れる。それを月が支えた。
「お疲れ様です、所長」
「……あぁ」
「もう復讐に悩まなくていいんですよ、クリス義兄さん。泣いていいです」
「…………うん、月…」
立てない身体で月の腰に手を回す。小さく震える身体。もう齢19の男は、五年間の苦しみに耐えた。それを、果たした。願ってもいないことだった。
今度は、月がその頭を撫でる。
義理の兄であるクリスタルが幼く感じられる姿は、久しぶりだった。
九年前、孤児だった彼女を拾い、育ての親として可愛がってくれた彼の両親。戸籍も血の繋がりもないが、兄妹として育てられた。黎明堂は、家族のような繋がりだった。そんな月にはまだ義理と呼べる兄がいるし、クリスタルにもいる。それが壊されたのは五年前。
月も、クリスタルも、黎明堂のメンバー六人は見てしまった。"親"の過ぎ去った最期を。
街の街灯に身体を引き裂かれ臓器を掻き回され手足をもがれた両親の遺体。首はおかしな方向を向き、もがれた手足は肉をミンチにされ骨を置かれていた。服などなかった。人間の形をした、肉塊でしかなかった。
クリスタルの復讐は、それを見たときから始まっていた。始まってしまった。
それに、終止符が打たれたのは、五年後の3月2日だった。
「……帰ろうか、月…つか片付けしなきゃ」
「……はい。外も中も、皆で片付けをしましょう」
それでも黎明堂のメンバーが抱える復讐はまだ終わらない。
『
マフィア『パピーファミリー』
五年前にノータンの人間を二人残虐して有名になった。
だが考えの無さとやり方が各巨大マフィアからは毛嫌いされているという情報が噂に流れている。
ノータンを利用して麻薬を広めようとしたと構成員は語っている。
大きい顔をしているがカルータ以外に強者はいないそうだ。
3月3日、ボスの行方不明で警察にアジトがばれ、拘束。解散。
構成員は警察が拘束、しかしボスを含む五人は未だ行方不明。
警察は引き続き行方を追っている
』
3月4日、カーラ新聞朝刊より抜粋。