第30話 マミ君と魔法の包帯 カサカサお肌に潤いを! その1
「みてみてー! おだんご!」
「ボクのは城だ! ドラゴン城だぞ!」
園庭にある大きな砂場で、魔王の娘・アリスちゃん(5歳)が泥んこの手で丸い泥団子を作り、ドラゴンのリュウくん(4歳)がトンネル付きの山を作って自慢している。
みんな楽しそうだ。
でも、その賑やかな輪から少し離れたベンチで、一人ぽつんと座っている男の子がいた。
全身を古びた白い包帯でぐるぐる巻きにした少年、マミー(ミイラ男)族のマミ君(5歳)だ。
普段は大人しくて礼儀正しい子なのだが、今日はなんだか様子がおかしい。
彼は自分の腕やお腹をさすりながら、深い溜め息をついている。
「はぁ……。ボク、また痩せちゃった……」
よく見ると、彼の包帯の隙間から、サラサラと乾いた砂がこぼれ落ちていた。
マミ君の体の中身は、魔力を帯びた砂や乾いた肉体で構成されている。包帯は服であると同時に、彼の形を保つための大切な皮膚のようなものなのだ。
しかし今の彼は、乾燥のせいで包帯が緩み、中身の砂がポロポロと漏れ出してしまっている。
(あぁん、もう! しょんぼりしてるマミ君……なんて切ないの! 包帯を必死に押さえてる小さな手、守ってあげたい! 包帯の隙間から覗く黄金色の瞳が、不安で揺れてるなんて……! 保育士として放っておけないわ!)
私はバケツとスコップを置いて、マミ君の隣に座った。
「マミ君、どうしました? みんなと遊ばないんですか?」
マミ君は伏し目がちに答えた。声までカサカサして元気がない。
「……うん。ボク、最近調子が悪くて。体が乾燥して、包帯がズレちゃうんだ」
マミー族にとって、乾燥は大敵だ。適度な湿り気がないと包帯がパリパリになり、結び目がほどけてしまう。かといって水を浴びすぎると泥になってしまうし、管理が難しい種族なのだ。
「走ったり砂場で遊んだりすると、もっと砂がこぼれちゃう。ボク、このままだと全部こぼれて、なくなっちゃうかも……」
なんて深刻な悩み!
お友達と一緒に泥んこになりたいのに、自分の体が崩れてしまう恐怖と戦っているなんて。
「大丈夫ですよ、マミ君! 先生が完璧な『メンテナンス』をしてあげましょう!」
私は力強く宣言し、園庭の子供たちにも声をかけた。
「みんなー! ちょっと集合してください! マミ君の『変身タイム』ですよ!」
「へんしん?」
「マミくん、巨大化するの?」
リュウくんとアリスちゃんが興味津々で集まってくる。
私はレジャーシートを広げ、マミ君を真ん中に立たせた。そして虚空に右手をかざす。
「スキル発動――『100均市場』!」
ブォンッ!
空間が裂け、眩い光と共に日本の100円ショップの棚が現れる。今回は「衛生用品・トラベルグッズコーナー」だ。
私が取り出したのは、以下のアイテム。
・『自着性包帯(くっつく包帯)』(青、黄色、迷彩柄など)×10巻
・『極潤化粧水(アロエエキス配合)』
・『ミストスプレーボトル』
・『ワセリン(保湿バーム)』
特に今回の秘密兵器は『自着性包帯』だ。包帯同士がピタッとくっつく特殊加工がされていて、テープや留め具がいらない。伸縮性も抜群で、スポーツ選手も愛用する優れものである。
「ほう、これは……」
カラフルな包帯の山を見て、園医のスカル先生が白衣をなびかせて近づいてきた。
「ヒナ先生、この色とりどりの布テープは……表面に特殊な凹凸加工が施されていますな。繊維同士が微細に噛み合うことで、接着剤を使わずに固定できるのですか。皮膚にはくっつかず、包帯同士だけが結合する……。蒸れを防ぎつつ、適度な圧迫力を維持できるとは、実に合理的かつ画期的な医療用具です」
スカル先生の青い炎の目が、迷彩柄の包帯を熱心に解析している。
「ええ、便利なんですよ。しかも、普通の包帯より丈夫でズレないんです。さあマミ君、ちょっとくすぐったいですよ」
私はまず、『ミストスプレーボトル』に入れた化粧水をマミ君にシュッシュッと吹きかけた。
魔界の乾燥した空気に晒された彼の乾いた体に、たっぷりと水分を与える。
「わ……! いい匂い。ひんやりして気持ちいい……」
マミ君が驚きの声を上げる。
スカル先生が補足する。
「ふむ、アロエエキスですか。保水力に優れ、皮膚組織の修復を助ける成分ですな。マミー族の触媒である砂塵とも相性が良いでしょう」
体に適度な湿り気が戻り、サラサラとこぼれていた砂が落ち着いたところで、次は包帯の出番だ。
古い包帯の上から、補強するように新しい『自着性包帯』を巻いていく。
「マミ君、何色がいいですか?」
「えっと……ボク、強くなりたいから、この緑と黒のやつ!」
マミ君が選んだのは迷彩柄だ。
私は足首から順番に、迷彩柄の包帯を巻いていった。
キュッ、ピタッ。
結ぶ必要がない。重ねるだけで吸い付くように止まる。
「うわぁ! すごいフィット感! 全然ゆるまないよ!」
全身を迷彩柄にコーティングされたマミ君は、まるで特殊部隊のソルジャーのようだ。
関節部分には、動きやすいように少し緩みをもたせつつ、剥がれやすい末端部分は『ワセリン』を塗って保湿と密着度を高める。
「かんせーい! 新生・マミ君です!」
「おおーっ! かっこいい!」
「つよそう!」
「おしゃれなミイラさんね!」
アリスちゃんやリュウくんたちが拍手喝采を送る。
マミ君は自分の体を見下ろし、信じられないといった顔をしている。
腕を振っても、ジャンプしても、包帯がズレない。砂がこぼれない。
「すごい……! ボク、なんか生まれ変わったみたいだ!」
彼は拳を握りしめ、目を輝かせた。
「先生、ありがとう! これならボク、どんなに動いても大丈夫だよ!」
「ふふっ、良かったですね。さあ、思う存分遊んでらっしゃい!」
マミ君は嬉々として砂場へ駆け出していった。
その背中は自信に満ち溢れている。
でも、元気になりすぎた男の子というのは、時に加減を忘れてしまうもので……。




