第24話 禁断の錬金術!? コンタクト液で命を生み出す実験 その1
どんよりとした紫色の雲が垂れ込め、雨がシトシトと降り続く日。
お外遊びができず、保育園の教室内には停滞した空気が漂っていた。
「……ひまー」
「……あめ、やまないねー」
絨毯の上では、アリスちゃん(5歳)とリュウくん(4歳)が、退屈そうに寝転がっている。
そしてその横では、スライム族の赤ちゃん、プルちゃん(0歳)が、文字通り「デローン」と溶けていた。
普段はボールのような丸い形を保っている彼だが、今日は気圧が低いせいか、それともやる気がないせいか、水たまりのように平べったく広がっている。
「ぷるぅ……」
「あーあ、プルちゃんもとけちゃったー」
子供たちの退屈そうな溜め息。
保育士として、このダウナーな空気を打破せねばならない。
雨の日こそ、普段はできないじっくりとした遊びに挑戦するチャンスだ。
私は、溶けているプルちゃんを見て、ある名案(いたずら心)を思いついた。
(あぁん、もう! みんな退屈そうで可哀想……でも、ゴロゴロしてる姿も捨てがたいわ! アリスちゃんの無防備な寝顔も、リュウくんのふてくされた顔も、全部まとめて愛おしい! でも、やっぱり笑顔が見たいのよ!)
「みんなー! そんなに退屈なら、今日は『理科の実験』をしましょうか!」
私が手をパンパンと叩くと、子供たちがのそりと起き上がった。
「りか?」
「じっけん?」
「そうです。まるで魔法使いみたいに、不思議な生き物を生み出す実験ですよ!」
その言葉に、子供たちの目が輝き始めた。
私は教室のテーブルに新聞紙(100均の英字新聞風包装紙)を敷き詰め、全員を集めた。
「さあ、まずは材料の召喚です! スキル発動――『100均市場』!」
ブォンッ!
空間が裂け、真っ白な光と共に日本の100円ショップの棚が現れる。
私が今回大量に取り出したのは、一見するとお掃除用品や文房具に見える品々だ。
・『PVA洗濯のり(750ml入りボトル)』
・『重曹スプレー用粉末(お掃除用)』
・『コンタクトレンズ用洗浄保存液』
・『プラコップ』と『割り箸』の大量セット
・『プリンター用詰め替えインク(各色)』
・『ネイル用ラメパウダー』
特に最初の三つが、今回のキモとなる「スライム錬金セット」だ。
通常、スライム作りには薬局で売っている『ホウ砂』という粉末を使うのが一般的だ。でも、ホウ砂は医薬品扱いなので100円ショップには売っていない。
そこで登場するのが、100円ショップでも手に入る代用品だ。
ホウ酸が含まれている『コンタクトレンズ洗浄液』と、反応を助ける『重曹』。これらを組み合わせることで、100均グッズだけでもちゃんとスライムが作れるのだ! 人類の知恵の勝利である。
「ほう、これは……」
テーブルに並べられた液体ボトルと怪しげな粉末を見た瞬間、園医のスカル先生が興味深そうに近づいてきた。
「ヒナ先生、これらを混ぜ合わせることで、新たな物質を生成するのですかな」
スカル先生の青い炎の目が、私の手元を観察している。
「ええ、とっても面白いんですよ。さあ、見ててくださいねー」
子供たちが一斉にざわめいた。
「ホムンクルス!?」
「すごい! ボクら、いきものをつくるの!?」
リュウくんとアリスちゃんが大興奮で袖をまくりあげる。
足元では、本物のスライムであるプルちゃんが、「ぷる?(ボクの仲間?)」と不思議そうにテーブルを見上げている。
「ふふふ、ある意味『スライム作り』ですからね。プルちゃんのお友達ができるかもしれませんよ?」
私がウィンクすると、プルちゃんは「ぷるるッ!」と少し体を震わせた。
「さあ、始めますよ! まずはプラコップに、この透明な液(洗濯のり)を入れます」
「はーい!」
子供たちがドボドボとのりを注ぐ。
そこにお水を少し足して、さらに『インク』を数滴垂らす。
アリスちゃんはピンク、リュウくんは青、ザックさんも興味津々で黒いインクを選んだ。
「混ぜて混ぜてー!」
「うわぁ、色がかわった!」
ここまでは、ただの色水だ。スカル先生も「ふむ、まだ液体のままですな」と固唾を飲んで見守っている。
「ここからが本番ですよ。まずはこの白い粉(重曹)をパラパラっと入れます。そして……」
私は『コンタクトレンズ用洗浄保存液』のボトルを手に取った。
「この魔法のお水を少しずつ入れながら、割り箸で素早くかき混ぜてください! グルグルーって!」
子供たちが一斉に洗浄液を投入し、かき混ぜ始めた。
シャカシャカシャカ……。
最初はチャプチャプという音だったが、次第に液体の抵抗が増してくる。
「あっ! なんか固くなってきた!」
「おもたい! すごいネバネバする!」
化学反応が起き、液体だった洗濯のりが、ぷるぷるとしたゲル状の物質へと変化していく。
箸に絡みつく感触。カップの中でまとまり始める物体。
「おぉ、凝固が始まりましたぞ。液体からゲル状へ……見事な相転移だ」
スカル先生が感心してメモを取る。
「すげぇ……本当に固まった……」
ザックさんも、黒いネバネバを見つめて驚いている。
「さあ、コップから出してみましょう!」
リュウくんが逆さまにすると、ボロン、と青い半固形物がテーブルに落ちた。
ぷるん、ぷるん。
それは紛れもなく、スライムだった。
「ぷるっ……!?」
足元にいた本物のスライム、プルちゃんが目を丸くした(目はないけど)。
自分とそっくりな、でもとってもカラフルで透明感のある「ナニカ」が、次々とテーブルの上に誕生しているのだ。




