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魔王城の保育園は今日もてんやわんや!~バブ堕ちスキルと100均グッズで、今日も園児を溺愛してます~  作者: サンキュー@よろしく


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第23話 1月22日「カレーの日」 魔界に香る『黄金のスパイス』 その2

 グツグツと煮えたぎる黄金色の鍋。

 立ち上るスパイシーな湯気に、子供たちは「おいしそうだけど、からそう……」とまだ半信半疑だ。


 そこで私は、高らかに宣言して『板チョコレート』の銀紙を破った。


 バリッ!

 現れたのは、漆黒ダークブラウンの固まりだ。


「ほう、これは……」


 スカル先生が興味深そうに覗き込む。


「異世界の食べ物ですか。ヒナ先生、研究のために少々味見をさせてもらえませんか?」

「ええ、どうぞ」


 私がひとかけら手渡すと、スカル先生はそれを口に放り込んだ(骨なのに)。


「……ほぅ。独特の苦味と、濃厚な甘味。そして鼻に抜ける芳醇な香り……。なるほど、これは単なる菓子ではない。コクと深みを出すための隠し味として使うのですな? スパイシーな料理に甘味を足すとは、高度な調理技術だ」


 スカル先生の食レポに、子供たちも「おいしいの?」と興味津々だ。


「みんなも食べてみる?」


 私が小さく割ったチョコを一切れずつ渡すと、子供たちは恐る恐る口に入れた。


「……あまーい!」

「おいしーい!」


 アリスちゃんやリュウくんの顔がパァッと輝く。


(きゃーっ! チョコを食べてとろける笑顔、最高に可愛い! ほっぺた落ちそうになってるアリスちゃんも、目を丸くしてるリュウくんも、全部まとめて写真に撮りたい!)


 私は残りの板チョコをパキパキと割り、鍋の中に放り込んだ。

 ドボン。

 チョコは熱でとろりと溶け出し、スープの色を深みのある褐色へと変えていく。


「おぉ……色が深まりましたな。まるで熟成されたソースのようだ」


 さらに、私は『純粋はちみつ』のボトルを逆さにした。

 とろ~り。

 琥珀色に輝く粘度の高い液体が、黄金の糸のように鍋へ垂れ落ちていく。


「そして蜂蜜ですか。自然の甘味を加えることで、スパイスの角を取り、まろやかにするのですな。実に理にかなった調理法です」


 チョコレートの苦味とコク、そしてハチミツのまろやかな甘みが、鋭角だったスパイスの刺激を優しく包み込んでいく。

 色も、日本の家庭でおなじみの、安心するカレー色になった。

 

「さあ、完成ですよ! 『ひだまり特製・はちみつチョコカレー』です!」


 私は深めのお皿にご飯を盛り、たっぷりカレールーをかけた。

 

「いただきます!」


 スプーンを握りしめた子供たちが、恐る恐る一口目を口に運ぶ。

 アリスちゃんが、ぱくっと口に入れた。

 一瞬、ビクッとして目を丸くする。


 そして――


「……んーっ!! おいしーい!!」


 アリスちゃんの顔がとろけた。

「からくない! あまい! でも、なんか元気が出る味!」


「うめーっ!! なんだこれ、肉がすごい美味しい!」

 ウルフくんがガツガツと食いつく。

 リュウくんも、口の周りを茶色くしながら夢中で食べている。


(きゃーっ! みんなの美味しそうな顔、最高! 口の周りにカレーをつけちゃって、わんぱくで可愛い! 一生懸命食べてる姿、ずっと見ていたいわ!)


「スパイスの香りが鼻に抜けるけど、ハチミツの甘さが追いかけてくる……。絶妙なハーモニーだ……」

 ザックさんも影の舌(?)で味わい、感動に震えている。


 その時だった。


「なんという破壊的な匂いだ……!」


 ドンッ!

 教室の扉が勢いよく開かれ、魔王ヴェルザード様がマントを翻して入ってきた。

 いつもなら仕事中の時間だが、どうやら我慢できなかったらしい。


「パパ!」

「魔王様!?」

「執務室にまで、この暴力的なまでの食欲をそそる香気が漂ってきたのだ。『黄色い毒霧』が発生したのかと心配でな」


 言い訳をしているが、その目はお鍋に釘付けだ。

 私はクスッと笑って、大盛りのお皿を差し出した。


「毒霧じゃありませんよ。『カレー』です。魔王様も毒見……いえ、検食なさいますか?」

「む……し、仕方ないな。王として安全確認は義務だからな」


 魔王様はスプーンを手に取り、一口食べた。

 スパイスの刺激が舌を打ち、その直後に広がるチョコのコクとハチミツの甘み。複雑で、深淵で、抗いがたい魔性の味。


「!!」


 魔王様の角がビクンと立った。


「……美味い」


 魔界の支配者が、スプーンを動かす手が止まらない。


「複雑怪奇な味わいだ。幾千のスパイスが口内で戦争をしているというのに、最後は甘さが全てを優しく包み込む……! これは、ヒナ先生……お前そのもののような料理だな!」

「えっ、私ってカレー味なんですか?」


「違う! 厳しさと優しさのバランスが絶妙だということだ!」


 結局、魔王様はお代わりを3回もし、「昼から動けぬ……」とお腹をさすって帰っていった。

 お鍋いっぱいのカレーは、あっという間に空っぽになった。

 

 スパイスから作るカレー。それは子供たちの元気の源となり、魔界の冬の寒さを吹き飛ばしてくれた。


————————


連絡帳アリスちゃん

ヒナより保護者様へ

今日はみんなで、スパイスからカレー作りに挑戦しました!

最初はスパイスの強い香りと色を見て、アリスちゃんも「辛くないかな? 大丈夫かな?」と心配そうにしていましたが、隠し味に甘いお菓子を入れると、興味津々で覗き込んでいました。

いざ食べてみると「美味しい!」と大喜び。隠し味がお子様にも食べやすい味にしてくれたようです。

給食の時間には、香りに釣られてお父様も急遽参戦され(笑)、アリスちゃんの横で「美味い、美味い」とおかわりされていました。

パパと一緒に食べたのが嬉しかったようで、アリスちゃんもいつも以上にたくさん食べてくれましたよ。

スパイスには体を温める効果がありますので、今夜はぐっすり眠れると思います。


母(魔王妃セレスティア)より

いつもアリスがお世話になっております。

「かれー」のお話、帰宅したアリスからたっぷりと聞かせてもらいました。

「あの茶色い甘いのを入れたら魔法みたいに美味しくなったの!」と、興奮気味に教えてくれましたわ。アリスの口元の幸せそうな痕跡を見る限り、よほど美味しかったようですね。

……それはそうと、夫も随分と堪能したようですね。「執務中のつまみ食い」の件については、帰宅後にたっぷりと絞っておきましたのでご安心ください(笑)。

夫も「あれは至高の魔界料理だ」と寝言で言うほど気に入ったようなので、今度、城のシェフにも作り方を教えてやってくださいな。

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