第22話 1月22日「カレーの日」 魔界に香る『黄金のスパイス』 その1
1月22日。
保育室の壁に掛けたカレンダーのその日付には、スプーンとルーの可愛いイラストと共に『カレーの日』と書かれていた。
1982年、全国の小中学校で一斉に給食のメニューとしてカレーが出されたことが由来だそうだ。
「寒いですもんね。やっぱり今日はこれに限ります!」
私は窓の外を見た。魔界の空は今日も今日とて凍えるような吹雪が舞っている。
こんな日は、体の芯から温まるあの料理しかない。
「みんなー! 今日の給食は、先生が特別なお料理を作りますよ!」
私が宣言すると、ストーブの前で丸まっていた狼男族のウルフくん(4歳)や、ドラゴンのリュウくん(4歳)が顔を上げた。
「なになに? おいしいおにく?」
「あったかいスープ?」
「ふふふ、今日は『カレーライス』です!」
私が答えると、魔王の娘・アリスちゃん(5歳)が首を傾げた。
「かれー? かれーってなに?」
どうやらこの世界にはカレーという概念がないらしい。
それなら、なおさら気合が入る。
市販のルーを使ってもいいけれど、ここは保育士の腕の見せ所。100均アイテムを駆使して、一から作ってみせましょう!
「みんなで『魔法の粉』を混ぜて作るんですよ。お手伝いしてくれる人ー!」
「「「はーい!」」」
元気な返事と共に、即席のクッキングクラスの始まりだ。
私は子供たちに100均の子供用エプロンを着せ、調理台の周りに集めた。
そして、虚空に手をかざす。
「スキル発動――『100均市場』!」
ブォンッ!
空間が裂け、白い光と共に日本の100円ショップの食品コーナーが現れる。
今回私が取り出したのは、ガラス瓶に入ったカラフルな粉末たちだ。
・『クミンパウダー』
・『ターメリック(うこん)』
・『コリアンダー』
・『ガーリックパウダー』
・『シナモン』
……etc.
そう、本格スパイスカレーである。
「ほう、これは……」
それらがテーブルに並べられた瞬間、園医のスカル先生が興味深そうに近づいてきた。
「ヒナ先生、この色とりどりの粉末は……香辛料ですか。それぞれが独特の香りを持っていますな。これらを調合することで、複雑な風味を生み出すとは、まるで錬金術のようです。薬草学の観点から見ても、消化促進や体を温める効果がありそうです」
スカル先生の青い炎の目が、黄色や茶色の粉末を観察している。
「ええ、とっても体にいいんですよ。さあ、みんなで混ぜてみましょう!」
私は子供たちに『すり鉢とすりこぎ(100均製)』を渡した。
100均には少量のスパイスも売っているから本当に便利だ。
「さあみんな、このお皿にお粉を入れて、ゴリゴリ混ぜてくださいね」
子供たちは興味津々だ。
リュウくんがターメリックを、ウルフくんがコリアンダーをすり鉢に入れる。
「うわあ、きいろい!」
「なんか、すっごいいいにおいがするー!」
スパイスの香りが部屋中に広がる。
クミンの野性的な香り、コリアンダーの爽やかな香り。
「……は、はくしょん!」
ウルフくんが、鼻がムズムズして大きなくしゃみをした。
つられてリュウくんも鼻をヒクつかせる。
「はくしょんっ!」
ボッ!!
リュウくんのくしゃみと一緒に、鼻から小さな炎が飛び出し、手元のガーリックパウダーを一瞬で焦がしてしまった。
「ああっ! こげちゃった!」
「大丈夫、大丈夫。香ばしくなって美味しくなりますよ」
(きゃーっ! リュウくんのくしゃみ、可愛すぎる! 鼻から火が出ちゃうなんて、ドラゴンならではのハプニングね! 焦げた匂いもスパイスの一部ってことで!)
私は炒め鍋(中華鍋)にたっぷりの油を引き、刻んだ玉ねぎを投入した。
飴色になるまでじっくり炒める。そこに、すりおろしたニンニクとショウガ。
そして、子供たちが一生懸命混ぜてくれた「魔法の粉」を一気に投入!
ジュワワァァァァッ!
香りの爆発が起きた。
スパイスが熱せられ、強烈かつ食欲をそそる香ばしい匂いが、換気扇を通って魔王城全土へと広がっていく。
「ふごぉぉ……なんだこの、脳髄を刺激する香りは……!」
見張りをしていたザックさん(影魔族)が、鼻孔をヒクつかせてふらふらと近づいてきた。
大人たちでさえ、この匂いには抗えないようだ。
お肉とお野菜を入れて煮込み、鍋の中はグツグツと黄金色のスープになっている。
しかし、アリスちゃんが不安そうに鍋を覗き込んだ。
「せんせー、なんか……からそうだよ?」
スパイス=辛い。子供の直感は鋭い。
確かに、このままだとスパイスの刺激が強すぎて、子供たちにはちょっと大人の味すぎる。
「ふむ、確かに刺激的な香りですな。子供たちの未発達な味蕾には、少々強すぎるかもしれません」
スカル先生も心配そうに言っている。
子供たちが「ええーっ」「からいのやだー」と尻込みし始めた。
「安心してください! ここからが魔法の仕上げです!」
私はエプロンのポケットから、さらなる100均アイテムを取り出した。
銀色の包み紙に入った『板チョコレート(ミルク)』と、プラスチックボトルに入った『純粋はちみつ』だ。
「辛さを消して、とーっても美味しくする秘密の材料を入れますよ!」




