第19話 魔獣の内臓を捻じ切る儀式!? その2
「できた! ながいぼうになったぞ!」
ドラゴンのリュウくんが、パンパンに膨らんだ青い風船を掲げた。
アリスちゃんたちも次々と成功させている。
「アリスはピンク!」
「ベルたちはきいろ!」
ここからが本番。ねじる工程だ。
私が手本を見せる。
「ここをねじって……こうやって輪っかにして、ねじり合わせます。キュッ、キュッって音がするけど、風船さんは泣いてないから大丈夫ですよ」
アリスちゃんは器用だ。小さなおててで、怖がらずに風船をひねる。
キュッ、ムギュッ。
あっという間に、ピンク色のウサギを作り上げた。
「できた! おみみ、ながいの!」
そこに100均の『お目目シール』をペタリと貼ると、命が宿ったように可愛くなった。
「かわいいー! これ、アリスのペット!」
(きゃーっ! アリスちゃん、天才! 初めてなのにこんなに上手に作れるなんて! ピンクのウサギさんを抱っこしてニコニコしてる姿、天使すぎて直視できない!)
一方で、リュウくんは苦戦していた。
彼の指先には、種族特有の鋭い「爪」がある。
「いくぞ……ここをひねって、犬のあたまを……」
リュウくんが気合を入れて風船を握った瞬間、爪の先が風船に触れた。
パンッ!!
「ああっ!? またしんじゃったぁぁ!」
リュウくんが青い残骸を抱えて絶望する。
「ボク……ボクの手は、壊すことしかできないんだ……。こんな可愛いミミズさんも、ボクが触ると死んじゃうんだ……!」
鋭い爪を持つドラゴン族の悩み。
作りたいのに作れない。その悲しそうな背中に、私は優しく手を置いた。
(うっ……なんて切ないの! 自分の爪を恨めしそうに見つめるリュウくん……抱きしめて「そんなことないよ」って言ってあげたい! その鋭い爪も、リュウくんの大事な一部なんだから!)
「リュウくん。道具を使いましょう!」
私はエプロンのポケットから、あるアイテムを取り出した。
100均の『子供用軍手(滑り止め付き・キャラクター柄)』だ。
「これを着ければ、鋭い爪でも大丈夫。魔法の鎧ですよ」
リュウくんが軍手をはめる。ちょっとブカブカだけど、爪の鋭さは完全にカバーされた。
そして軍手の掌についているゴムのイボイボが、風船を滑らずに掴むのを助けてくれる。
「これなら……」
三度目の正直。リュウくんは新しい風船に挑んだ。
軍手越しの感触。爪が食い込まない。しっかりと握れる。
ねじる。キュッ。割れない!
「ねじれた! ボク、ねじれたよ先生!」
「すごいすごい! その調子です!」
リュウくんは夢中になってねじり続けた。
一つ、また一つ。
最初は犬を作るつもりだったが、興奮してパーツをどんどん繋げてしまったらしい。出来上がったのは、なんだか長くて、トゲトゲした不思議な形の塊だった。
「……これ、なんだ?」
リュウくんが首をかしげる。
ザックさんが横から覗き込んだ。
「おお、これは……伝説の武器『雷帝の剣』に似てますねぇ」
「えっ、剣!?」
「ええ、ここが持ち手で、ここが刀身。めちゃくちゃカッコイイですよ」
ザックさんのナイスフォロー(?)で、リュウくんの目は輝いた。
「そっか、ボクは剣を作ってたんだ! くらえ、バルーン・カリバー!」
「きゃあ! アリスのウサギさんがきられちゃう!」
こうなると、教室内はもう止まらない。
子供たちは次々と風船を膨らませてはねじり、独創的な作品を生み出していった。
スライムのプルちゃんは、ねじる力がないので、私が膨らませた丸い風船を体の中に取り込み、「色付きスライム」に変身して喜んでいる。
ベル&ロス兄弟は、自分たちの首輪に風船を飾り付けて「おしゃれ番長だぜ!」と誇らしげだ。
そして最後には、みんなの風船を繋ぎ合わせて、巨大な「バルーンアーチ」を作ることにした。
「わあ、虹みたい!」
「おしろの門だ!」
カラフルな風船が教室内を埋め尽くし、雨の日の暗い気分なんて吹き飛んでしまった。
そこには、怯えていた子供たちはもういない。
自分の手で「楽しい形」を作り出す喜びに溢れた、小さなアーティストたちがいるだけだ。
スカル先生が、完成した風船の動物たちを見て、しんみりと呟いた。
「……ふむ。最初はただのゴム紐でしたが……こうして形になると、なんとも愛らしく、生命力を感じますな」
「そうでしょう?」
「うむ。ですがヒナ先生、この空気はいずれ抜けてしまうのでしょう? 形あるものはいつか崩れる……。その儚さもまた、芸術というものですかな」
「……スカル先生は、本当に風流ですね」
子供たちは「しぼむのやだー!」と言いそうだったので、スカル先生には内緒にするようにお願いした。
たっぷり遊んで、作品と思い出をお土産に、今日はおしまい。
風船のキュッキュッという音も、もう悲鳴ではなく、楽しい笑い声に聞こえているはずだ。
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【連絡帳】
ヒナより保護者様へ
今日は雨で外遊びができなかったので、お部屋で「バルーンアート(細長い風船遊び)」をしました。
最初は風船が割れる「パンッ!」という音にみんな驚いていましたが、コツを覚えるとすぐに夢中になりました。
リュウくんは爪が鋭いので何度も割ってしまい、少ししょんぼりしていましたが、軍手をつけて再挑戦すると、とても立派な「剣(ご本人談)」を作り上げました!
「ボクの手でも作れた!」と、達成感でいっぱいの笑顔を見せてくれましたよ。
たくさん持って帰りましたが、ゴム風船ですので、時間が経つとしぼんでしまいます。「魔法が解けた」と思って、しぼんでしまったら捨ててあげてください。
お家で遊ぶ時は、爪に気をつけて見てあげてくださいね。
母より
いつも息子がお世話になっております。
帰宅するなり、リュウが「俺の最強の剣を見てくれ!」と、青いフニャフニャした棒を誇らしげに見せてくれました。
夫(炎竜将軍)も「おお、これは雷帝の剣か!」と大げさに驚いて見せ、二人でチャンバラごっこを始めていました(笑)。
あの子は自分の爪が鋭いことを気にして、細かい工作を諦めてしまうことが多かったのですが、頂いた「軍手」という魔法の鎧のおかげで自信がついたようです。
「これがあれば何でも作れる!」と、軍手をつけたまま寝てしまいました。
素敵な魔法を教えてくださり、ありがとうございました。
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全体的に以下を変更しました。
・ヒナ先生が園児たちを溺愛している描写の追加。
・スカル先生の100均グッズへの過剰なツッコミを、自然なものに変更。
まだ手探りなので、感想などをもらえるとありがたいです。




