第18話 魔獣の内臓を捻じ切る儀式!? その1
魔王城の中庭には、朝からしとしとと雨が降り続いていた。
「はぁ……。おそと、あそべない」
「つまんなーい」
絨毯の上で大の字になっているのは、ドラゴンのリュウくん(4歳)や、魔王の娘・アリスちゃん(5歳)。
エネルギーがあり余っているちびっ子モンスターたちにとって、雨の日の室内遊びは退屈の極みらしい。
双頭犬のベル&ロス兄弟も、お互いの耳を甘噛みし合って時間を潰している。
「みんなー、元気がないですねぇ」
私が声をかけると、スライムのプルちゃんが「ぷるぅ……」とだらしなく溶けて返事をした。
これは良くない。子供たちの有り余る創造性と破壊衝動(?)を発散させてあげなくては。
雨の日だからこそできる、エキサイティングで、かつ安全な遊び。
(あぁん、もう! みんな退屈そうで可哀想……でも、ゴロゴロしてる姿も捨てがたいわ! アリスちゃんの無防備な寝顔も、リュウくんのふてくされた顔も、全部まとめて愛おしい!)
「よし! 今日はみんなで、とっても不思議な『魔法の工作』をしましょう!」
私が手を叩くと、子供たちがのそりと起き上がった。
「まほうのこうさく?」
「たのしいやつ?」
「ええ、とびっきり楽しいですよ! みんなで動物さんや武器を作るんです!」
私は子供たちをテーブルの周りに集め、期待に目を輝かせる彼らの前で、虚空に右手をかざした。
「スキル発動――『100均市場』!」
ブォンッ!
空間が裂け、真っ白な光と共に日本の100円ショップのパーティーグッズコーナーの商品が現れる。
私が今回取り出したのは、以下のアイテムだ。
・『バルーンアート用風船(30本入り)』×5袋
・『バルーン用ハンドポンプ』×5本
・『お目目シール(大小セット)』
カラフルな、細長ーいゴム風船の束。赤、青、黄色、緑、ピンク。
まるで色のついた素麺か、あるいは……。
「ほう、これは……」
それらがテーブルにばら撒かれた瞬間、園医のスカル先生が興味深そうに近づいてきた。
「ヒナ先生、この細長いゴム製品は……非常に伸縮性に優れた素材ですな。空気を入れて膨らませ、ねじって形を作るためのものですか。単純な形状から無限の造形を生み出すとは、子供たちの想像力を刺激する素晴らしい教材です」
スカル先生の青い炎の目が、ゴム風船の束を観察している。
「ええ、とっても楽しいんですよ。さあ、見ててくださいねー」
私はプラスチック製の『バルーン用ハンドポンプ』に、赤い風船の口をセットする。
シュッシュッシュッ!
私がポンプを動かすと、萎びていた赤い「紐」が、みるみるうちに膨れ上がり、太くて長い棒状になっていく。
「うわあああぁッ!?」
「でかくなったー!!」
「いきかえったぞ! ミミズがいきかえった!」
リュウくんとアリスちゃんが大興奮で叫ぶ。
スカル先生も感心して頷いた。
「なるほど、空気圧を利用して体積を増やすのですか。ポンプを使えば子供の力でも簡単に膨らませられる。実によく考えられています」
私が風船の口を結び、一本の長い棒を作ると、次はそれを加工していく。
「ここからが面白いんですよ。ねじって形を作ります!」
私は風船の端をつまみ、キュッ、キュッとねじって小さな丸を作った。
ゴム同士が擦れ合い、独特のきしみ音が響く。
「ひぃぃ! 悲鳴だ! 風船が『痛いよー! ねじ切らないでー!』って鳴いてるぞ!」
雑用係のザックさん(影魔族)が耳(の穴)を押さえて震える。
構わず私は、ねじって、折って、ねじって……。
あっという間に『犬』の形を作り上げた。
「じゃーん! ワンちゃんの完成です!」
「……わんちゃん?」
子供たちは目を丸くした。
さっきまでただの赤い棒だったものが、ちゃんと顔と耳と胴体と足のある、可愛い犬になっている。
「すっげー!! れんきんじゅつだ!」
「かわいー! アリスもつくるー!」
子供たちはザックさんの悲鳴などすっかり忘れ、カラフルな風船に飛びついた。
さあ、みんなでレッツ・ツイスト!
「よし、まずは膨らませるところからですよ! このポンプを使って……」
しかし、これがなかなか難しい。
リュウくんが青い風船にポンプを差し込み、力任せに押す。
シュゴーッ!
勢いよく空気が入りすぎた。
パンッ!!
教室内に乾いた爆発音が響いた。
「ぎゃあああッ!?」
「は、はじけた! ないぞうがはれつしたー!」
リュウくんがひっくり返り、破裂した風船の破片を見て涙目になる。
「し、しんじゃった……ボクの青ミミズくんが……!」
それを見たアリスちゃんたちもパニックだ。
「こわい! これ、爆弾なの!?」
「やだー! 割れるのやだー!」
風船の破裂音は、聴覚の鋭い魔物たちにはかなりの衝撃らしい。
ベル&ロス兄弟なんて、「敵襲だ!」と机の下に潜り込んでブルブル震えている。
(あらあら、みんなびっくりしちゃって……! 涙目のリュウくんも、机の下で震えるベル&ロスも、守ってあげたくなる可愛さだわ! でも、ここで怖がらせちゃダメね。大丈夫だよって教えてあげなきゃ!)
「ただの空気の入れすぎです! もう、脅かさないでください!」
私はビビりまくる子供たちを落ち着かせるため、パンパンと手を叩いた。
「大丈夫、大丈夫ですよ! 風船が割れても痛くありません。それに、コツさえ掴めば怖くありませんよ!」
私はリュウくんの隣に座り、新しい風船を手渡した。
「リュウくん、優しくね。いっぱいにしないで、少し先っぽを残すのがポイントです。余裕がないと、パンッてなっちゃいますからね」
「よゆう……?」
「そう。心に余裕を持つのと同じです。パンパンに詰め込みすぎちゃ、【めっだよ!】」
私がウィンクすると、リュウくんはおずおずと頷いた。
再びポンプを握る小さな手。今度は慎重に、ゆっくりと。
シュッ……シュッ……。
青い風船が伸びていく。今度は割れない。
リュウくんの顔に、少しずつ自信が戻ってきた。




