第15話 首が落ちても大丈夫!? 『強力面ファスナー』でデュラハンくんの悩みを解決! その2
「いけーっ! リュウくん、パスだ!」
「まてーっ!」
私が100均のカラーコーンで作った即席のゴールに向かって、ちびっ子モンスターたちがボールを追いかけて走り回る。
ドラゴンのリュウくんが、尻尾を器用に使ってドリブルをする。
スライムのプルちゃんが、ボールを体に取り込んで(反則?)ボヨンと弾き飛ばす。
アリスちゃんは「えいっ!」と可愛いキックを披露している。
そして、その中心で誰よりも躍動しているのが、デュラハン族のデュランくんだ。
「こっちだ! ボクに回して!」
デュランくんは風のようにフィールドを駆け抜けた。
いつもなら頭を抱えて慎重に歩いていた彼が、今は両腕を大きく振って全力疾走している。
急な方向転換をしても、ジャンプしてボールを胸でトラップしても、彼の頭はしっかりと首元に固定されていた。
「すごい……! デュランくんがあんなに機敏に動くなんて!」
審判役をしていたザックさん(影魔族)が感嘆の声を上げる。
「うむ。あの『面ファスナー』の結合力、恐るべしだな。遠心力をも無視している」
スカル先生も腕組みをして頷いている。
(きゃーっ! デュランくん、かっこいい! あんなに生き生きと走ってる姿、初めて見たわ! 風を切って走るその笑顔、眩しすぎて直視できない!)
試合は白熱し、リュウくんが大きくボールを蹴り上げた。ボールは高い弧を描いて、ゴール前へ飛んでいく。
そこへ飛び込んだのが、デュランくんだった。
「ボクが決める!」
彼は高くジャンプした。
その瞬間、私はヒヤッとした。
ヘディングだ。
頭が落ちやすいデュラハン族にとって、頭部に衝撃を与えるヘディングは御法度中の御法度。
「ああっ! デュランくん、ダメぇ!」
ザックさんが叫ぶ。
しかし、デュランくんは迷わなかった。
先生がくれた「魔法のテープ」を信じて、彼は額でボールを捉えた。
ドゴッ!
激しい衝撃音。
ボールは矢のようにゴールへ突き刺さった。
「――っ!」
着地したデュランくん。
みんなの視線が彼に集まる。
彼の頭は……。
ちゃんと、首の上に乗っていた。
「やった……! ヘディングできた! ボク、ヘディングできたよ!」
デュランくんが両手を突き上げて歓喜の声を上げた。
その瞬間、子供たちがワッと彼に駆け寄った。
「すごーい! かっこいい!」
「ナイスシュートだぞ!」
みんなに揉みくちゃにされるデュランくん。
アリスちゃんが興奮して彼の鎧を揺さぶる。
その時だった。
ビリビリッ……!!
空間を引き裂くような、独特の音が響いた。
面ファスナーが剥がれる音だ。
「あっ」
激しい衝撃と、みんなからの祝福の揺さぶりで、ついに限界が来たらしい。
コロン。
デュランくんの頭が、胴体から外れて地面に落ちた。
「ひぃぃっ!?」
ザックさんが悲鳴を上げる。
しかし、落ちた頭は地面でニカッと笑っていた。
「あはは! 外れちゃった!」
以前なら、顔面蒼白になって泣き出していただろう。
でも今のデュランくんは、清々しい笑顔だった。
彼は自分で自分の頭を拾い上げると、胴体の上にポンと乗せた。
そして、私の方を見て言った。
「先生、もう一回テープつけて! まだ遊びたい!」
私は胸がいっぱいになって、大きく頷いた。
(うっ……なんて素敵な笑顔なの! 自分の弱点を笑い飛ばせるようになるなんて、デュランくん、強くなったね! その成長した姿、先生は一生忘れないよ!)
「もちろんです! 何度でもくっつけてあげますよ!」
私が駆け寄ろうとした時、スカル先生が感心したように呟いた。
「ふむ、あの『ビリビリッ』という音……フックとループが剥離する際の摩擦音ですか。少々耳障りですが、それだけ強力に結合していた証拠ですな」
私はデュランくんの元へ行き、面ファスナーを貼り直した。
ギュッ、ギュッ。
「よし、これでまた元通り。最強のストライカーの復活です!」
「ありがとう、先生! ボク、もう怖くないよ!」
デュランくんは再びフィールドへ駆け出して行った。
その背中は、どんな立派な騎士よりも頼もしく見えた。
◇
夕方。遊び疲れた子供たちが、帰り支度をしている時間。
私は教室で、デュランくんの連絡帳を書いていた。
今日の彼の大活躍、そして「魔法のテープ(面ファスナー)」のこと。お父さんが読んだら、きっと喜んでくれるはずだ。
「お迎えでーす!」
園庭に、一際背の高い、そしてやはり首のない騎士の姿が現れた。
魔王軍きっての猛将、首無し将軍。デュランくんのお父さんだ。
彼は自分の頭を小脇に抱え、心配そうに園庭を見回している。
「デュラン……怪我はないか? 頭は……無くしていないか?」
その声を聞いて、帰り支度を終えたデュランくんが駆け寄った。
頭を抱えることなく、全力疾走で。
「パパ! 見て!」
デュランくんはパパの前で、ピョンピョンとジャンプして見せた。
頭はしっかりと首に乗ったままだ。
「なっ……!? 貴様の頭が、浮いていないだと……!?」
将軍が抱えている自分の頭の目を丸くする。
デュランくんは誇らしげに胸を張った。
「先生が魔法をかけてくれたんだ! これでもう、ボクの頭は落ちないんだよ! ヘディングだってできるんだ!」
「魔法だと……?」
将軍の視線が、デュランくんの首元に貼られた白いテープに向けられる。
「こ、これは……なんという呪力だ。触れただけで感じる、絶対的な『結合』の意志……」
将軍は震える手で(自分の頭ではなく)息子の肩に触れた。
「よかったな、デュラン。これで貴様も、立派な戦士として戦場を駆け抜けられる……」
「うん! でもボク、サッカー選手になる!」
私は微笑みながら二人に近づき、連絡帳を手渡した。
「お父様、今日のデュランくん、本当にかっこよかったですよ。詳しくはここに書いておきました」
「先生……感謝する。この恩は忘れん」
親子は手をつないで帰っていった。
その背中を見送りながら、私はふと思った。
きっとお父さんは家に帰ってから、テープを剥がすときのあの「ビリビリ音」に腰を抜かすんだろうな、と。
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【連絡帳】
ヒナより保護者様へ
今日は園庭でサッカーをして遊びました。
デュランくんは最初、「走ると頭が落ちてしまうのが怖い」と言って参加をためらっていました。
そこで、「面ファスナー(マジックテープ)」を使って、簡易的に頭と胴体を固定する工夫をしてみました。
するとデュランくんは、水を得た魚のようにフィールドを駆け回り、見事なシュートを決めてくれましたよ!
途中、激しい動きで一度外れてしまいましたが、デュランくんは自分で頭を拾い上げ、「もう一回つけて!」と笑顔で言ってくれました。自分の体質と上手に付き合いながら、自信を持って遊べるようになった姿に、とても成長を感じました。
首元のテープは、剥がすときに「ビリビリ」と大きな音がしますが、びっくりしないでくださいね。粘着力が弱まったら貼り替えますので、言ってください。
父(首無し将軍)より
本日は息子に『結合の秘術』を施していただき、感謝の言葉もございません。
帰宅した息子が、家の中で何度もジャンプをしては「落ちない!」と喜んでおりました。
我々一族にとって、戦場での「落頭」は死に直結する最大の弱点。それを克服する神器を授けていただけるとは……ヒナ先生はやはり、伝説の時空魔女であらせられるか。
息子が頭を外すたびに響く、あの空間を引き裂くような「バリバリッ!」という轟音を聞くたび、私はその強大な魔力に戦慄しております。
この恩に報いるため、有事の際には私の首(と胴体)を賭けて保育園をお守りする所存です。




