第13話 1月17日「防災とボランティアの日」 『手作り防災頭巾』でサラちゃんを守れ! その2
銀色の防災頭巾を被った子供たちが、園庭に整列している。
「さあ、次は避難のお約束です。『お・は・し』を知っていますか?」
私が尋ねると、雑用係のザックさん(影魔族)が首を傾げた。
「お箸ですか? 非常食を食べる練習ですか?」
「違います。『おさない』『はしらない』『しゃべらない』……そして、魔界ならではのもう一つの『し』、『しんりゃくしない』です!」
私は画用紙に書いた絵を見せながら説明した。
避難中の混乱に乗じて隣国へ攻め込んだり、どさくさに紛れて領土を広げたりしてはいけないのだ。
「いや先生、避難中に侵略する奴はいませんよ! いくら魔王軍でも、火事場泥棒的な領土拡大はしませんから!」
ザックさんがすかさずツッコミを入れる。
しかし、スカル先生は真面目な顔で頷いていた。
「むう……確かに、パニック状態のドラゴンなどは、本能的に手近な村を焼きたくなるかもしれん。重要な戒律だ」
「ほら、やっぱり必要じゃないですか」
子供たちは真剣だ。
「はーい! しんりゃくしなーい!」
「ぼく、いいこだから、おとなりのおやつとらない!」
うんうん、えらいえらい。
魔物の子たちは元気が良すぎて、パニックになるとすぐに飛んだり火を吹いたりしがちだ。だからこそ、落ち着いて行動する練習が必要なのだ。
「では、訓練を始めますよ! 地震が発生したと仮定します!」
私が100均の『防犯ブザー』の紐を引いた。
ビーッ! ビーッ!
けたたましい音が鳴り響く。
「きゃあ!」
「じしんだー!」
子供たちは一瞬驚いたが、すぐに手作りの防災頭巾を被り、ダンゴムシのポーズで地面に伏せた。
えらいえらい、ちゃんとできている。
「揺れが収まりました! 次は火災発生です! 給食室から火が出ました! ハンカチで口を押さえて、園庭の真ん中に避難してください!」
私が指示を出すと、子供たちは立ち上がり、ザックさんの誘導で移動を始めた。
しかし、ここでトラブルが発生した。
ビーッ! ビーッ!
鳴り止まないブザーの音と、「火事」という言葉に、サラちゃんが過剰に反応してしまったのだ。
「か、かじ……!? どうしよう、にげなきゃ、こわい……!」
サラちゃんの呼吸が荒くなり、豊かな赤い髪が逆立ち始めた。
パニックによる魔力の暴走だ。
ボッ! ゴオォォッ!!
彼女の長い髪全体が一瞬で発火し、燃え盛る炎のたてがみとなって揺らめいた。
「ああっ! サラちゃんのカミのケが燃えてる!」
「あついよー!」
近くにいたコボルトのコボくんたちが、髪から発せられる熱気に驚いて逃げ惑う。
避難訓練のはずが、本当のパニックになりかけている。
「ううっ……ごめんなさい、ごめんなさい! わたし、また……!」
サラちゃんはその場にうずくまり、頭を抱えて泣き出してしまった。
自分のせいでみんなを怖がらせてしまった。その罪悪感が、さらに髪の炎を強くしてしまう悪循環。
炎は勢いを増し、周囲の空気が陽炎のように揺らぐ。
(あぁん、もう! サラちゃん、自分を責めないで! 怖かったんだよね、びっくりしちゃったんだよね。その震える背中、今すぐ抱きしめてあげたい!)
「サラちゃん!」
私はブザーを止め、駆け寄ろうとした。
でも、それより早く動いた子たちがいた。
「サラちゃん、だいじょうぶだよ!」
「これがあるもん!」
アリスちゃんとリュウくんだ。
二人は、銀色の防災頭巾を深く被り直し、炎を上げるサラちゃんの髪を恐れずに抱きついたのだ。
「スカル先生がいってたもん! これは『断熱のカブト』だって!」
「だから、もえないよ! サラちゃんのカミのケもへいきだよ!」
アルミシートで覆われた頭巾が、サラちゃんの髪から放たれる高熱を弾く。
二人は頭巾を盾にするようにして、サラちゃんに寄り添った。
「……え?」
サラちゃんが顔を上げた。
銀色の頭巾を被ったお友達が、燃え盛る自分のすぐそばにいてくれている。
熱くないの? 怖くないの?
「みんな……」
その温かさに触れて、サラちゃんのパニックがすぅっと引いていった。
逆立っていた髪の炎が小さくなり、やがて元の赤い髪に戻っていく。
私はその光景を見て、胸が熱くなった。
これこそが、今日教えたかったことだ。
(うっ……尊い……! お友達のために勇気を出せるアリスちゃんたちも、その優しさに救われるサラちゃんも、みんな天使だわ! この美しい友情、一生守り抜きたい!)
私は三人の元へ歩み寄り、しゃがみこんで全員をまとめて抱きしめた。
「みんな、とってもえらいですね」
スキル発動――【絶対母性《アイ バブ ユー》】。
ふわり。
春の日差しのような黄金の光が、銀色の頭巾ごと子供たちを包み込んだ。
「サラちゃん、怖かったですね。でも、もう大丈夫。お友達が助けてくれましたよ」
「アリスちゃんもリュウくんも、勇気を出して助けてあげて、本当にすごいです」
私が背中をトントンと撫でると、子供たちの体から力が抜けていった。
「ふぇぇ……せんせぇ……」
「バブぅ……(あったかい……)」
サラちゃんも、アリスちゃんたちも、安心して私の腕の中でとろんとした目になった。
見守っていたザックさんとスカル先生も、「うっ……尊い……」「これが真の救助活動……」と涙ぐんでいる。
「今日は『防災とボランティアの日』なんです。ボランティアっていうのはね、困っている人を助けること。みんなは今日、とっても立派なボランティアができましたよ」
私が言うと、サラちゃんが涙を拭いてニッコリ笑った。
「うん! わたし、みんなのことだいすき!」
訓練が終わった後は、お楽しみの「非常食体験」だ。
私は100均の『ミニカップ麺(ブタさん柄)』と『カンパン(袋入り)』を取り出した。
「でも先生、お湯を沸かす道具が……給湯室まで行きますか?」
ザックさんが尋ねる。
「いいえ、ここに素敵な火の神様がいますから」
私はサラちゃんにウインクした。
サラちゃんはキョトンとして、それから嬉しそうに胸を張った。
「わたしのカミのケ、つかう!」
私がヤカンに水を入れ、サラちゃんに差し出すと、彼女は自分の長い赤い髪を、ふわりとヤカンの底に巻き付けた。
彼女が少し力を込めると、髪の毛が赤熱し、優しい暖かさが伝わってくる。
ジュワワ……。
暴走した炎ではなく、コントロールされた髪の熱で、あっという間にお湯が沸いた。
「わあ、サラちゃんすごい!」
「べんりだねー!」
みんなで車座になって食べたカップ麺とカンパンは、どんなご馳走よりも美味しかった。
カンパンの硬さに、スカル先生が「ふむ、これは保存食として優秀ですな。水分を極限まで抜いて腐敗を防いでいる……」と感心していたけれど、子供たちは「カリカリしておいしー!」と大喜びだった。
手作りの銀色の頭巾を被ったまま、口いっぱいに頬張る子供たち。
もし本当に何かが起きても、この子たちならきっと、手を取り合って乗り越えられる。
そう信じられる、素敵な一日になった。
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【連絡帳】
ヒナより保護者様へ
今日は避難訓練を行いました。
最初は警報の音に驚いてしまい、髪の毛から少し炎が出てしまいましたが、お友達がすぐに駆け寄って助けてくれました。
その後は、サラちゃんが自分の特技(髪の毛の高熱)を活かして、みんなの非常食を作るお湯を沸かしてくれましたよ。「わたし、やくにたった!」と、とても誇らしげな笑顔を見せてくれました。
持ち帰った銀色の頭巾は、座布団とアルミシートで作った手作りの「防災頭巾」です。サラちゃんがとても気に入って「これがあればカミのケがもえてもあんしん」と言っていましたので、お守り代わりに持たせてあげてください。
母より
先生、ありがとうございます。
あの子は自分の髪質を気にして、いつも「私は危ない子だから」と縮こまっていました。
でも今日、帰ってきたあの子は、銀色の頭巾を被ったまま「ママ、私は火の神様なんだよ!」と胸を張っていました。
お友達に助けられ、そして自分の髪が誰かの役に立てたことが、本当に嬉しかったようです。
頂いた「カンパン」というお菓子も、家族みんなで分け合って食べました。夫が「これは溶岩石より美味い!」と感動しておりました。
これからも、娘をよろしくお願いいたします。




