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魔王城の保育園は今日もてんやわんや!~バブ堕ちスキルと100均グッズで、今日も園児を溺愛してます~  作者: サンキュー@よろしく


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第1話 魔王城に『シャボン玉』が舞う日

「はい、そこ! リュウくん、お友達に『ドラゴンブレス』を向けない! 黒炎を吐くならお空にお願いしますねー!」


 常に不吉な紫色の雲が垂れ込める魔界の空の下、私の注意喚起が響き渡った。

 ここは魔王城。人類を脅かす魔族たちの総本山である。

 そのど真ん中にある中庭だけ、なぜかポカポカと暖かい陽光が降り注いでいた。


 ひだまり保育園。

 それが、私の職場だ。


(あぁん、もう! リュウくんったら、一生懸命ほっぺを膨らませて火を吹こうとして……なんて可愛いの! そのプニプニのほっぺた、食べちゃいたい!)


 私は腰に手を当てて「めっ!」というポーズを取りながら、内心では身悶えしていた。

 叱るのは教育のため。でも本音を言えば、彼らがどんな悪戯をしても、その存在自体が尊すぎて直視できないレベルだ。

 ああ、今日も魔界の子供たちは世界一可愛い!


「はーい、みんなー! お砂場遊びはおしまいですよー! 手を洗って集まってくださーい!」


 私がパンパンと手を叩くと、建物の影からヌルリと黒い人影が現れた。

 雑用係のザックさんだ。種族は『影魔族シャドウ・ストーカー』。

 そしてもう一人、白衣を羽織ったガイコツの老人が歩いてくる。園医のスカル先生リッチだ。


「ほらリュウくん、暴れないで。手を拭きますよ」

「やだー! まだあそぶー!」


 ザックさんは影の手を伸ばし、ドラゴンのリュウくん(4歳)を器用に捕まえた。

 私のエプロンの裾をグイグイ引っ張るのは、次期魔王のアリスちゃん(5歳)。

 そして、私の足元で短い足をよちよち動かして歩いているのは、コボルトのコボくん(2歳)。


(うっ……アリスちゃんの上目遣い……破壊力抜群……! コボくんのよちよち歩きも、動画に撮って永久保存したい……!)


 私は日向ヒナ。24歳。

 ちょっとした事故で日本からこの世界に飛ばされ、気づけば魔王城で保育士をすることになっていた。

 でもまあ、こんなに可愛い天使たちに囲まれて仕事ができるなんて、ここは天国に違いない。


「さあ、今日はみんなで新しい遊びをしましょう!」


 私は子供たちの注目を集めると、虚空に向かって右手をかざした。


「スキル発動――『100均市場ディメンション・マーケット』!」


 ズズズ……ッ!

 目の前の空間が純白に発光し、空間の裂け目から見慣れた「日本の100円ショップ」の陳列棚が出現する。


「おや、またヒナ先生の空間魔法ですか。今日は何を取り出すのですかな?」


 スカル先生が、興味深そうに顎の骨をさすりながら覗き込んでくる。

 私は100円(税抜)の『徳用シャボン玉セット』を取り出した。


「じゃーん! 今日はこれで遊びますよ!」


「ほう……これは?」

「シャボン玉です。この液をつけて息を吹くと、泡ができるんです」

「なるほど。特殊な粘液で『風の元素』を包み込み、飛膜を形成させる玩具ですか。異世界の技術は、魔力を使わずに自然の理を巧みに操りますな。子供たちの呼吸法を鍛えるのにも良さそうだ」


 スカル先生は感心したように頷き、メモを取っている。

 以前は「魂を封じる魔道具か!?」なんて大騒ぎしていたけれど、最近はすっかりこちらの文化に理解を示してくれて、頼もしい限りだ。



 一方その頃、魔王城の会議室。

 魔王ヴェルザードは、配下の将軍たちと重苦しい軍議を開いていた。


「……して、人間軍の動向は?」

「はっ。勇者一行が国境付近に――む?」


 窓際に立っていた炎竜将軍が、ふと外を見て動きを止めた。

 つられてヴェルザードも視線を向ける。

 眼下の中庭から、無数の「虹色に輝く球体」がふわふわと舞い上がってきていた。


「な、なんだあれは……!?」

「虹色の被膜……まさか魂を封じ込める最上級魔法『魂の牢獄(ソウル・プリズン)』か!?」

「バカな! あれほどの数を同時に展開するなど、上級魔法使いでも不可能だぞ!」


 将軍たちがざわめく。

 その時、中庭から愛娘アリスの「きゃあ!」という、甲高い声が聞こえた。


「アリス!!」


 ヴェルザードの顔色が変わる。

 あの『魂の牢獄(ソウル・プリズン)』が、娘を襲っているに違いない!


「軍議は中止だ! アリスを救出する!!」

 魔王は窓を突き破り、黒い翼を広げて中庭へと急降下した。



「わあー! きれーい!」

「まてまてー!」


 中庭では、子供たちがシャボン玉を追いかけて走り回っていた。

 ふーっと息を吹けば、キラキラした玉がたくさん飛んでいく。その単純な遊びに、みんな夢中だ。


(はぁ……みんながシャボン玉を追いかけてる姿、絵画にして飾りたい。アリスちゃんが笑うたびに、世界が浄化されていく気がするわ……)


 私が子供たちの尊さに浸っていた、その時だった。


「アリス! 伏せろぉぉぉッ!!」


 ドォォォォン!!

 凄まじい衝撃音と共に、中庭の真ん中に黒い影が着地した。

 砂煙が舞い上がり、せっかくのシャボン玉が一瞬で吹き飛んでしまう。


「パ、パパ……?」


 アリスちゃんが目を丸くする。

 現れたのは、身長2メートルを超える巨躯に、立派な角を生やした魔王ヴェルザード様だ。

 彼はアリスちゃんを抱き上げると、周囲を睨みつけた。


「ええい、忌々しい『魂の牢獄(ソウル・プリズン)』め! 我が娘には指一本触れさせんぞ! 『暗黒波動ダーク・ウェーブ』!!」


 魔王様が手を振るうと、漆黒の風が巻き起こり、空中のシャボン玉をすべて消し飛ばしてしまった。

 それどころか、私が手に持っていた予備のシャボン液のボトルまで吹き飛んでしまった。


「ああっ! ボクのつくったやつー!」

「パパのばかー! いま、いいところだったのにー!」


 リュウくんが泣き出し、アリスちゃんが魔王様の胸をポカポカと叩く。


(ああーん! リュウくんの泣き顔も可愛いけど、やっぱり笑顔が見たいのよ! それにアリスちゃん、パパをポカポカ叩くその小さな手……尊い!)


 せっかくの楽しい時間が台無しだ。

 でも、魔王様のその必死な形相……娘を守ろうとして空回りしちゃう不器用なパパ心。それもまた、保育士的には「愛おしい保護者」の一面だ。


 私はエプロンの紐をギュッと締め直し、魔王様の前に進み出た。

 腰に手を当て、仁王立ちになる。


「魔王様」

「む? ヒナ先生か。下がっていろ、ここは危険だ。この『魂の牢獄(ソウル・プリズン)』は――」

「そんなんじゃありません。100均のシャボン玉です」

「しゃ、ぼん……?」


 キョトンとする魔王様。その全身からは、まだ娘を守ろうとする殺気と魔力がビリビリと放たれている。

 普通なら腰を抜かして失禁してしまうレベルの威圧感だ。

 ザックさんなんて、物干し竿の影でガタガタ震えている。


「せ、先生! 下がってください! 魔王様は今、臨戦態勢ですよ! 消し炭にされますよ!」


 でも、私には分かっていた。

 この恐ろしい魔王様が、どれだけ娘思いのパパなのかを。

 こんなに強そうなのに、娘のことになると周りが見えなくなっちゃうなんて……なんて可愛いお父さんなんでしょう!


「魔王様。いくら心配だからって、上空から急降下して入ってくるのはマナー違反ですよ? 子供たちが怖がっているじゃありませんか」


 私は一歩踏み出し、魔王様の真正面に立った。

 そして、警戒する彼に向けて、そっと両手を広げた。

 愛を込めて。溢れんばかりの「よしよし」の気持ちを込めて。


 スキル発動【絶対母性《アイ バブ ユー》】。


「娘さんが心配で、お仕事ほっぽり出して飛んできてくれたんですよね。ふふっ、とっても家族思いの優しいパパですね。えらいえらい」


 ふわり。

 私の言葉と共に、春の日差しのような温かい黄金の光が魔王様を包み込んだ。

 それは攻撃魔法ではない。

 私が子供たちや、不器用なパパたちに向ける「大好き」という気持ちが具現化した、最強の精神干渉(癒やし)だ。


「――っ!?」


 ヴェルザードの殺気が霧散する。

 全身の力が抜け、代わりに脳髄を駆け巡るのは、赤子がゆりかごで揺られているような圧倒的な幸福感。


「ぬ、ぬう……貴様、我に精神干渉を……ぐ、体が……あたたかい……」


 魔王様が必死に抗おうとする。

 さすがは魔界の王、精神耐性が高い。

 でも、無駄ですよ♪


「よしよし、もう大丈夫ですよ。頑張りましたね。怖かったですね」


 私がダメ押しで空気越しに頭を撫でる仕草をすると、魔界最強の支配者の膝がガクンと折れた。


「マ、ママ……?」


 ドサッ。

 魔王ヴェルザードは地面にへたり込み、とろんとした目で私を見上げた。


「バブぅ……♡」


 完全に落ちた。

 魔王様は私のエプロンの端を掴み、幸せそうに頬をすり寄せている。


(きゃーっ! 魔王様ったら、こんなに大きな体で甘えん坊さんなんだから! そのギャップ、最高に推せるわ!)


「パ、パパ……?」


 アリスちゃんが目を丸くしてパパを覗き込む。

 そして、へたり込んだパパの頭を、小さな手でナデナデした。


「パパ、あかちゃんになったの? よしよし、アリスがおねえちゃんだよ」

「バブゥ……(アリスお姉ちゃん……)」


 魔王様が娘に撫でられて、さらに幸せそうな顔になる。

 リュウくんたちも、泣くのを忘れてポカンとしている。


「あらあら、魔王様ったら。安心したら腰が抜けちゃったみたいですね」


 私がクスクス笑うと、スカル先生が冷静にメモを取りながら呟いた。


「ふむ……ヒナ先生の『母性波動』による精神の退行現象……。魔王様の強固な精神防壁をも貫通するとは、やはり『愛』こそが最強の魔法ということですか。興味深い」

「ふふっ、平和が一番ですよ」

 

 中庭には再び子供たちの笑い声が戻ってくる。

 澱んだ紫色の空。聳え立つ黒い城壁。そして、シャボン玉を追いかける可愛いチビッ子モンスターたちと、地面で丸くなって寝息を立てる魔王様。


(あぁ、なんて幸せな光景……。みんな可愛すぎて、ずっと見ていたい……)


 私はふと、遠い目をして空を見上げた。

 そもそも、なぜ日本の保育士だった私が、魔王城にいるのか。

 それは、すべての始まり。

 私が日本で命を落とし……そして、恐ろしい形相の魔王様と出会った、あの衝撃の日の出来事に遡る。


————————


連絡帳アリスちゃん

ヒナより保護者様へ

今日は園庭で「シャボン玉」をして遊びました。

アリスちゃんは、風に乗って飛んでいくキラキラした玉を「まほうみたい!」と目を輝かせて追いかけていましたよ。その笑顔が本当に天使のようで、私まで幸せな気持ちになりました。

途中、お父様が空からすごい勢いで駆けつけてくださった時は驚きましたが、娘さんを心配するあまりの行動だと分かり、アリスちゃんも喜んでいました。

安心されたのか、お父様がその場でへたり込んでしまわれましたが、その後お加減はいかがでしょうか?

お仕事もお忙しいと思いますが、あまり無理をなさらないでくださいね。


ヴェルザードより

昨日は取り乱してすまなかった。

中庭から無数の「魂を封じ込める虚無のソウル・プリズン」が放たれるのを目撃し、アリスに危機が迫っていると誤認してしまったのだ。まさかあれが、異世界の遊戯だとは……。

それと、私の体調については心配無用だ。

貴殿の施した精神干渉……いや、「よしよし」のおかげで、赤子のような深い眠りにつくことができた。

部下たちからは「魔王様が『バブぅ』と寝言を言っていた」などと不敬な噂を立てられたが、あれは極上のリラクゼーション効果によるものだと理解している。

また精神が疲弊した際には、治療よしよしを頼みたい。

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