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#1-60:押し寄せるさざ波

おはようございます!本日もよろしくお願いいたします!

本日の投稿は、この#1-60からスタートです!どうぞよろしくお願いいたします!


朝の一言:「皆さま、体調はいかがでしょうか?戦場では泥と鉄の臭いが漂っていますが、現実世界では爽やかな朝をお迎えください!今日から三軍分断。志文の隣で一緒に駆けている気分で読んでいただけると嬉しいです。」


【前話のあらすじ:衛国軍は、林業ら左軍の奇跡的な脱出により、初戦での損失を二万に留めていた。しかし、その二万という損失がいまや、衛国に重くのしかかっているのであった……】

黒龍河を渡り終えた衛国軍の背後で、夜の帳が幕を下ろしていた。  

武威城は、魯国軍が放った篝火によって赤黒く縁取られ、まるで巨大な墓標のように不気味な静寂を保っている。  


志文は、自陣の天幕の前に立ち、暗く淀んだ河面を見つめていた。

鼻腔を突くのは、濡れた鉄と泥の臭い、そして敗北した軍勢が放つ、重苦しく湿った排気のような臭いだった。

魯国との戦が長引けば長引くほど、景国との戦に備える時間が短くなる。

「『魯三傑』の一人、魏鉄山を討ったとはいえ、魯国は健在ということか……」

 

「殿、韓忠様がお見えです」  

羅清の声で、志文の意識は現実へと引き戻された。  

「志文……行こう。維寿殿が、我々を呼んでいる」  


二人は、中央軍の巨大な天幕へと向かった。

そこには、数時間前まで漆黒の鎧に身を包み、自軍の勝利を確信していた維寿が、魂を抜かれた抜け殻のような面持ちで椅子に深く腰掛けていた。


天幕の中は、異常なほどに冷え込んでいた。

中央の卓には、飲みかけの茶が湯気を失って静止しているようであった。  

維寿は、志文と韓忠の姿を認めると、ゆっくりと腰を浮かせ、そして、二人に向かって深く、深く頭を下げた。  


「……すまなかった。私の、判断が……すべてを誤らせた」  掠れた、震える声だった。

あの一万五千を飲み込んだ地獄の平原で見せた狂乱とは対照的な、あまりに脆い男の姿がそこにはあった。

 

「頭をお上げください、維寿将軍。今は謝罪よりも、この先の再編を――」  

志文の言葉を遮るように、維寿が独白を始めた。

その瞳は、卓の上の虚空を見つめているようでいて、数十年前の過去を投影しているようでもあった。  


「……あの武威城は、かつて我ら衛国の領土であった。伯明の時代だ。覚えているか、志文」  

志文は黙って頷いた。

かつて衛国と魯国の国境線は今よりも東にあり、武威城はその要衝であった。  

「……『魯三傑』、魏鉄山ぎてつざんが攻め寄せてきた時、私はあの城の守備隊にいた。若かった私は、自らの力で、家族を、城を、すべてを守り切れると信じていたのだ。だが、魏鉄山は、今の私と同じように無謀な突撃を繰り返す我らを嘲笑い、伏兵をもって壊滅させた。私の目の前で、妻と子は……」

維寿の手が、卓を掴んで白く震えた。  

「武威城で死にゆく同胞を見ると、私は……あの日の自分を、あの日救えなかった家族を見てしまうのだ。彼らを救わなければならない。あの門を、あの城壁を、今度こそ私の手で取り戻さなければならない。その呪縛から、私は逃げられなかったのだ」  


維寿の吐露に、天幕内は沈黙に支配された。

志文は、目の前の男に感じていた苛立ちが、冷淡な理解へと変わるのを感じた。

維寿は無能ゆえに兵を捨てたのではない。

あまりに重すぎる「宿怨」という名の傷跡が、彼から冷静な指揮権を奪い取っていた。


「……事情は、理解いたしました。ですが、我々は生き残った。ならば、死した者たちのために、この戦を完遂せねばなりませぬ」  

志文の冷徹なまでの切り替えに、維寿は小さく頷き、顔を上げた。

その瞳からは、先ほどまでの湿った後悔が消え、総大将としての義務感が、かすかに火を灯していた。


「……あぁ、その通りだな。作戦はなんら変わらぬ」  

卓の上に広げられた地図。

そこには、王都 天都てんとを出発する前に定めた、三軍分断の厳しい進軍路が刻まれていた。  

「数を大きく減らしたとはいえ、まだ十三万の軍。このまま一つにまとまれば、敵に包囲の隙を与える。予定通り、三軍に分かれ、基備城きびじょうを目指す」

維寿が、地図の各所を指し示した。    

「中央軍……私と楡畿ゆきは、閲櫂軍、二万の兵を武威城に残し、私と楡畿の計四万で、九日以内に六つの要塞を落とす。左軍……志文、貴殿ら三万八千は、九日以内に四つの要塞。右軍……韓忠、貴殿ら三万五千も同様だ」  

「連絡の規則も予定通りで構わないでしょうか?」  

韓忠が、丁寧に確認する。  

「各軍、一日の終わりごとに、他の二軍と天都へ報告を飛ばすこと。報告がない軍が二つ以上、かつそれが二日続いた場合、その時点で全軍は撤退。……合流地点は、十日後、魯の喉元、基備城の前だ」


十五万から数万を失い、傷ついた体を引きずっての行軍。

しかし、三人の将の間に、迷いはなかった。  

「……生きて会おうとは、言わぬ。だが、任務は果たそう」  

維寿の言葉に、志文と韓忠は無言の礼で応じ、天幕を後にした。


翌朝、衛国軍は三つの濁流となって、黒龍河を背に霧の中へと消えていった。


志文率いる左軍が辿り着いたのは、第一の要塞「封沁ふうしん」であった。  

眼前に広がる平原。左右に切り立った断崖。

その奥にそびえる封沁の城壁は、武威城よりも高く、堅牢な造りをしている。  

城壁の上には、旗印を整然と並べた守備兵が一万。

そして、城壁の前に布陣している魯国軍の援軍。  


「予想通り、三万か……左、中央、右に分け、我らを迎え撃つ構えだな」  

杜箭が口ひげを触りながら、細い目で敵軍を睨む。  

志文の隣では、葉旋が愛馬のたてがみを撫でながら、不敵な笑みを浮かべていた。  

「兵数はこちらが上(三万八千 vs 三万)。だが、敵のあの落ち着きよう……。武威城の時のように、我々が突撃してくるのを待っているかのようだわ」


志文は、即座に布陣を命じた。  

「葉旋、そなたの七千を中央に据える。……異論はあるか?」  

兵数七千は、三将の中で最も少ない。中央という、最も激戦が予想される地点に置くのは、一見すれば酷使に近いものであった。

だが、葉旋の瞳に不安の色は微塵もなかった。  

「……私の七千を『核』に、両翼で叩き潰す。そういうことね?」  

「ああ、そのつもりだ。そなたの突破力を最大化させる。左右には私の一万四千と、杜箭将軍の一万七千を置く。そなたの軍は正面の敵だけを、左右を気にせず、ただひたすらに叩けばいい。もし包囲されそうになれば、私か杜箭将軍のどちらかが、必ずその圧力を断ち切る」  


それは、志文と杜箭が「盾」となり、葉旋という「矛」を一点に集中させる布陣であった。

杜箭も深く頷いた。  

「面白い布陣だ。左右の我らが回り込まれぬ限り、葉旋殿の兵は、倍以上の破壊力を発揮するだろう」


「……全軍、出るぞ」  

志文の号令と共に、大地が再び揺れ始めた。  

砂塵が舞い、衛国の黒き旗が風になびいていく。  

志文の構想通り、左右の軍が翼を広げるように突出。

中央の葉旋軍がわずかに遅れて追随する「凹型」の陣形で、魯軍の中央突破を誘いつつ彼らを両側から挟み込む構えをとった。


馬の首を叩き、先頭を疾駆する志文の感覚が、急速に鋭敏になっていく。  

眼前の魯国軍三万は、こちらの三万八千という数に恐れをなす様子もなく、ただひたすらに、石像のように静止していた。  


(……おかしい。数は我らが勝り、勢いもある)    

志文もまた林業と同じように、「音」を感じることができる将であった。

風を切る音の中に、「戦場の不自然な静寂」が混じっていた。  


魯軍の兵士たちは、ただ我々を見ているのではない。  

彼らの視線の先、そのさらに奥。  

あるいは、この平原の地下、もしくは遥か後方の空に、彼らが全幅の信頼を置く「何か」が、まだ姿を現していないのではないか。    


「……奴らは、何を待っている?」  

志文の呟きは、加速する心臓の鼓動にかき消された。  

魯国軍の陣形が、志文の突撃を受け入れるかのように、中心から微かに、そして不気味に、その「門」を開き始めた。  

魯国という巨大な臼歯が、自分たちを噛み砕く準備を整えている、そんな不気味な感覚であった。    

志文は薙刀を引っさげて咆哮を放つ。  

「全軍、突撃せよ!」  

戦場に再び、破滅と栄光を賭けた激突の音が響き渡ろうとしていた。


【お読みいただきありがとうございます!】

次話は、ついに魯国の牙が!!

~高評価やブックマーク、感想・リアクション等いただけるとありがたいです!~ 

そっと一言:「葉旋に『突破口を任せる』と言った時の志文の顔、実はニヤけてたんじゃないかと思ってます(笑)。信頼できる仲間との共闘って、書く側も熱くなりますね。皆さんの推し将軍は誰ですか?」

――――――――【他作品も全力執筆中!】

更新をお待ちいただく間に、こちらの作品もご一読いただけると幸いです!

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