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#1-45 決死の戦

飛砂平原は、五日間の凄惨な激戦の後、夜の深淵に沈み込んでいた。

空には月影さえなく、星々も濃い帳の向こうで震えているかのようであった。

大地は、数えきれぬ人々の血と砂を吸い込み、冷たい沈黙を保っている。

衛国軍の命運を握る飛砂関は、わずかな休息を取る将兵たちの吐息だけが聞こえ、重苦しい静けさに包まれていた。

副将の関泰かんたいは、一睡もすることなく、関門の北壁の上を巡回していた。

主将の朱威しゅいは、関内の指揮所で、疲労困憊の兵たちにわずかな睡眠を与え、自らも目を閉じようとしていたが、関泰の心は、異様な緊張感に満ちていた。

(この夜の深さ....ただ事ではない。嫌な予感がする....敵は、我々が最も弱り切り、眠りに落ちたこの時を、決して無駄にはすまい)

五日間の戦いで、衛国軍は多くの才能ある将を失った。

関泰自身も、数々の傷が全身を蝕み、一歩踏み出すごとに体中の骨が軋むようであった。しかし、ここで自らが目を閉じれば、関門の命運が尽きる。

関泰は、そう自らに課し、剣の柄を握りしめた。その冷たさが、彼の疲労を打ち消す唯一の感覚であった。

関泰の鋭い視線は、城壁の下に広がる漆黒の闇を穿とうとする。その闇は、まるで生きた怪物の口のように、全てを飲み込もうとしていた。

関泰は、ふと十年前の鉄馬原での景国との戦を思い出していた。 

(あの時もこうだった....) 

それは、いまや、『五武帝』にその名を連ねる、『景七師』の一人、隻周(せきしゅう)との一戦であった。

ちょうど、このような夜であった。

闇が大地を覆い、周囲に重々しく不気味な静寂が広がる頃。

関泰は眠れなかった。初陣故に、思うところは多かった。 夜番を交代したのも、眠れなかったからだ。

戦は嫌いだった。戦に出れば、死ぬかもしれない。そんな恐怖が襲ってくる。

自分は、母と静かに暮らせればよかった。たとえ、衛国が滅亡したとしても、母と暮らせればよかったのだ。

父は、戦で命を落とした。自分が、7歳の時だった。父との記憶はない。父は、伯明という将軍の軍の末兵だったらしい。家に帰ってくるのは、年に1回あるかどうかで、母は父の帰りを喜んだが、自分は、まったく嬉しくなかった。

国のために命を捧げて、家族を顧みない父が嫌いだった。国が滅ぼうと、家族で暮らせればよいではないか、少なくとも自分はそう思った。

そんな、物思いに耽っていた時、自分の隣に、一人の精悍な将が佇んでいることに気づいた。

その目は、どこか哀しそうだった。 自分が見つめていることに気づいたのか、その将ははっとして、照れ笑いをみせた。

「恥ずかしいところを見られてしまったな」彼の声は、穏やかで優しかった。

「戦は初めてか?」「わかりますか?」質問に質問で返すことは、失礼だと思ったが、関泰はもっと話を続けたかった。

「ああ、なんとなくそんな気がしてな。私も初陣の時は、眠れなかった。死ぬのが怖かった。だが、それ以上に、離れている父や母、息子や娘を思い出してな。」彼は、懐かしむように笑った。

「わかる気がします。自分も母を思い出します。父は、幼い頃、戦で亡くなりました。伯明という将軍を庇って戦死したと聞きました。私は妻帯していない故、母は私が離れると、一人なのです。ですから、あなたのような家族が羨ましい、そう時々思います」

「それはすまないことを....」 彼は悲痛な面持ちを浮かべていた。

「いえ、よいのです。私が自分で話し始めたのですから」関泰は、遮るように、早口で言った。

二人の間にしばしの沈黙が訪れた。 

「国を護る意味とはなんでしょうか?家族以上に国は大事なのでしょうか?私には、家族さえいれば、どの国で暮らそうと、幸せなように思えます。なぜ、人は戦をするのでしょうか?」

気づいたら、そんな質問をしていた。見ず知らずの将に、自分の思いの丈をぶつけ、生前、父が頻りに口にした、「大義」を聞いていた。関泰は、自分はどうかしている、そう思ったが、気づいたら口から出ていた。

彼は、しばらく腕を組み、拳を顎の近くに置いていた。

少し経って、彼は、徐に話し始めた。

「そなたの言うように、妻や子、父や母の方が、国などよりはるかに大切だ」

彼は少し、間を空けた。

「そなたに友はいるか?」 「おります」

「私にもいる。私だけでなく、母や父、妻や子にもいる。私は、その人たちも含めて、護りたいのだ。私は国を護ろうと思ってなどいない。ただ、彼らを護る為に、戦場に立つのだ。きっと君の御父上も国を護るのではなく、本心では、君や御母上を護ろうとしていたのではないかと私は思う」

「私は、自分を信じている。そして妻や子、父や母もまた、信じている。だが、私は狭量でな。私が会ったことすらない人間が、この天下には数多いる。その数多の人間を私は信じることができぬのだ。彼らが戦をしないと、彼らが私の愛する者たちを奪わないと、信じることができぬのだ。ゆえに、私は戦に出る。国境が侵されないかを確認するためにな」

「私は長く、我が家に帰っておらぬ。帰ってしまうと、なんだか自身の決意が鈍ってしまうような気がしてな」 彼は寂しそうに笑った。

「答えになっておらぬな。すまぬ...」 彼は、そう言うと、遠くをじっと見つめた。

関泰は、初めて、父を理解した。初めて、戦を理解した。

もう恐怖は感じていなかった。母が恋しいとは思うが、会うのは怖くなった。

伯明。それが関泰の話した将の名であった。それを知った時、関泰は、伯明という人間に惹かれたのだと思う。

冷たい夜風が、関泰を現実へと引き戻した。

関泰は、三年前に母を亡くした。眠るように息を引き取った。穏やかな笑顔で。

後悔がなかったと言えば噓になる。息子として、家族として、もっとなにかできた、今でもそう思う。

関泰は、母の部屋を片付けていると、手紙を見つけた。父とのやり取りであった。

「体を壊していないか」「息災か」お互い、そんなことを延々と言っていた。

父への手紙の最後に、母は、必ず、こう書いていた。

「貴方が息災でありますように。こちらは心配ございません」

涙が流れ出す。夜風にあおられて、その涙は冷たかったが、それでもあついものがこみあげてくる。

関泰は、腕で顔を拭うと、静かに闇に目を向けた。

数刻程経って、夜も完全に更けた頃、遠くの風の音に混じって、わずかに、不自然で、不規則な音が聞こえてきた。それは、石を削る音、あるいは、獣が爪を立てる音にも似ていた。

関泰の心臓が、警告の激しい鼓動を打ち始めた。

彼は、すぐに壁上の数少ない警戒兵たちに、目配せで最大の警戒を促した。この予感は、戦場を生き抜いた武将だけが持つ、死を呼ぶ前兆に他ならなかった。

関泰の予感は、次の瞬間、残酷な現実となった。

城壁の上部、衛兵の視界から外れた死角の部分から、濃い闇に紛れた影が、音もなく次々と湧き出てきたのだ。彼らは、全身を黒一色の装束に包み、特殊な鉤爪のような道具を用いて、飛砂関の頑丈な石壁を、まるで蜘蛛のように、信じられない速さで這い上がってきた。

彼らこそ、厳冰配下の雪忍せつにんの隊であった。

「敵襲!敵襲だ!奴らが壁を....!」

警戒兵の甲高い叫びが、夜の静寂を切り裂いた。

しかし、その声は、雪忍たちの冷酷で無慈悲な刃によって、すぐに虚空に断ち切られた。

関泰は、悲鳴が上がるよりも早く、全軍に号令を発していた。

「全軍、目覚めよ!敵は雪忍の隊だ!奴らは、既に城壁を登っている!迅速に殲滅するのだ!!」

関泰の声は、疲弊しきって意識が朦朧としていた兵士たちの耳に、雷鳴となって届いた。

夜襲という予想外の事態に、兵士たちは混乱したが、関泰の緊迫した声を聞き、反射的に武器を手に取った。

関泰は、自らの剣を抜き放ち、最初に城壁を越えてきた兵、数人に向かって、猛烈な勢いで飛びかかった。彼の剣は、黒装束と肉を容赦なく切り裂き、その数人を瞬時に城壁の下へと落下させた。

しかし、既に、新たな数十人が城壁を乗り越えていた。

彼らは、暗殺術と白兵戦の達人であり、疲弊しきった衛国軍の兵士たちにとっては、まさに悪夢そのものであった。

(夜襲....やはり、これを狙っていたのか....!我々が最も力を失ったこの瞬間を....!)

「皆、踏ん張るのだ!ここで、退くことは許さぬ。私がそなたたちを護ろう!そなたたちは、安心して、愛する者を護るのだ!」

その言葉は、関泰の隊を奮起させた。

関泰の隊は、必死に抵抗した。

しかし、雪忍の隊は、衛国軍の隊列を無視し、指揮系統の破壊を最優先として、短刀や手裏剣を駆使して、次々と衛国兵を討ち取っていった。

関泰の周囲には、瞬く間に、血と死の海が広がっていった。

戦場は、一瞬にして、血で血を洗う修羅場と化した。

関泰は、自らの武を極限まで絞り出し、雪忍の隊を食い止めようとした。

しかし、雪忍は、関泰の武に匹敵する、あるいはそれを上回るほどの、冷酷で洗練された剣術の使い手であった。

「関泰....貴様は....衛国軍の....最も....強固な....壁....だが....その....役割は....今宵....終わる....」

雪忍の声は、まるで風の音のように感情がなく、ただ任務を遂行するための機械のようであった。

しかし、彼の瞳の奥には、長年、暗闇の中で生きてきた者だけが持つ、哀しいまでの使命感と、自己の存在意義への問いが、一瞬だけ揺らめいた。

彼らは、感情を殺し、ただ兵器として生きることを強いられた、武の亡霊たちであった。

雪忍の隊を、朱威と朱威の隊が足止めしていた。

雪忍は、関泰と静かに向かい合っていた。

(雪忍は強い。先に仕掛けなければ....)

関泰は、自身の剣を前に突き出した。 雪忍は、それを横に跳んで躱すと、そのまま、反撃に転じた。その反撃は、関泰の予測を遥かに超えるものであった。

雪忍は、関泰の動きのわずかな遅れ、既に負っている無数の傷を冷静に見抜き、その剣は、関泰の腹部の、防具のない隙間へと、深く、そして正確に突き刺さった。

「ぐっ....!」

関泰は、激しい苦痛に呻き声を上げたが、剣を手放すことはなかった。彼の体から、とめどなく鮮血が噴き出し、冷たい石壁を熱く染め上げていった。関泰は、自らの命の灯火が、急速に細くなっていることを悟った。

(ここで....倒れては....ならぬ....雪忍を....討たねば....関は....破られる....衛国軍の....未来が....失われる....!)

関泰の脳裏に、愛する衛国の山々、共に笑い、共に泣いた亡き友、荀厳じゅんげん、伯明と父と母の顔が、鮮やかに浮かんだ。

彼らの犠牲を、決して水の泡にしてはならない。

関泰は、自らの残された命を使い果たすかのように、雪忍へと、決死の突撃を敢行した。

関泰は、前方に、めいっぱい自身の剣を突き出した。雪忍は、後方に仰け反って躱す。

しかし、関泰は、自身の手から、剣を前方に、微かに投げた。

その剣は、浅く、雪忍に刺さった。 関泰は、吠えながら、距離を一瞬で詰め、その剣を、雪忍の心臓近くまで押し込んだ。突き刺さった。

雪忍は、苦痛に顔を歪ませながら、関泰の、血に塗れた顔を静かに見つめた。彼の瞳の奥に、一瞬だけ、人間的な苦悩と解放の表情が浮かんだ。

「我らは....影....使命を....果たす....それが....我らの....すべて....」

雪忍は、冷たい呟きと共に、その場に崩れ落ちた。

彼の体は、任務の完了を見ることなく、永遠の闇に消えていった。その死は、誰にも知られることなく、夜の闇に吸い込まれていった。

雪忍が討ち取られた瞬間、雪忍の隊は、統率を失い、一瞬にして動きが乱れた。

しかし、満身創痍の関泰を、雪忍の残党が、包囲していた。

彼に、逃げ場はなかった。しかし、朱威が動いた。

「関泰!!」飛砂関の主将、朱威しゅいの隊が、次々と雪忍の隊を殲滅していく。

殲滅が終わると、朱威は、関泰の関泰の隊の激しい抵抗と、関泰自身が重傷を負っていることを即座に把握した。

関泰の体は、既に限界を超えていた。腹部の傷口からは、とめどなく熱い血が流れ出し、彼の全身の力が急速に失われていった。

雪忍の隊が完全に壊滅し、城壁の上に、再び静寂が訪れた。

それは、死と血の匂いが充満する、重苦しい静寂であった。

関泰は、雪忍の壊滅を見届けた後、その場に、力尽きるかのように崩れ落ちた。彼の剣は血に濡れ、彼の体は、既にほとんどの血を流し尽くしていた。

朱威は、急いで関泰を抱きかかえた。関泰の体から流れる血は、朱威の装束を、深く、そして熱く染め上げていった。

「関泰...!関泰!しっかりするのだ!そなたは....そなたは衛国軍の....柱ではないか!まだ....逝くわけにはいかぬ....!」

朱威は、関泰の名を呼びながら、必死に止血を試みた。彼の瞳からは、熱い涙が流れ出し、関泰の、やつれた顔に降り注いだ。

関泰は、朱威の腕の中で、静かに、そして力強く笑った。その笑みは、武人としての深い満足感と、自らが衛国を護りきったという、安堵に満ちていた。

「朱威殿....申し訳ありませぬ....貴殿の....足を....引っ張ることになるようです....私の....武を....衛国を....護るために....使うことができました....この....関泰....武人として....とても幸せでした....」

関泰の声は、かすれており、その生命の灯火が、今にも消え去ろうとしていた。

朱威は、関泰の言葉に、嗚咽を漏らしながら、強く首を振った。

「何を言う!何を言うのだ!そなたは....関を....救った!雪忍を....討った!そなたは衛国の....英雄になったのだ!英雄は.....死んではならぬ!死んではならぬのだ....!....関泰....!」

関泰は、朱威の熱い涙を、静かに見つめた。彼の瞳は、夜明けの空を見つめていた。東の空は、既に朱色に染まり始めており、新しい日の始まりを告げていた。

「問題はないでしょう....私がいなくなっても、必ずや、衛国は勝利します.....張江殿、志文殿、なにより朱威殿、....あなたがいらっしゃるではないですか....英雄などという言葉は、あなた方にこそ......ふさわしいのです....私は、英雄などではないのです....母への孝も示せず....父の義を疑い.....主君であった、伯明様への忠も欠きました....英雄などではなかった....贖罪だったのです....ああ....母上、母上なのですね.....父上、なにを笑っておられるのですか....また三人で暮らせるのですね.....そろそろお迎えのようです....朱威殿、後を頼みます....」

関泰は、最後の力を振り絞り、朱威の手を強く握りしめた。彼の言葉は、武人としての深い愛情と、衛国への強い、揺るぎない忠誠心を物語っていた。

朱威は、関泰の言葉に、慟哭しながら、強く頷いた。

「必ず....!必ずや....勝利を....掴んでみせよう!そなたは....そなたは......何も心配するな!そなたの武と....忠義は....決して....無駄にはせん....!安心して逝け....幸せになるのだ......」

関泰は、朱威の言葉を聞き、静かに、そして満足そうに笑った。彼の瞳は、夜明けの光を浴び、一瞬だけ強く輝いた後、その目蓋を、永遠に閉じた。彼の命は、衛国軍の勝利のために、その場に散っていった。

朱威は、関泰の亡骸を抱きかかえ、声の限りに泣いた。

夜明けの空は、関泰の死を悼むかのように、深い朱色に染まっていた。

衛国軍は、また一人、偉大な武将を失った。朱威の悲しみは、計り知れないものであった。彼は、関泰の遺体を抱きしめ、天をただ見上げていた。

関泰の戦死の報は、夜明けと共に、衛国軍全体に、鉛のように重い影を落とした。

衛国軍本陣の張江ちょうこうは、その報を聞き、自らの剣を床に叩きつけ、絶叫した。

彼の顔は、長年の戦友を失った悲しみと、激しい怒りで歪んでいた。

「関泰....!そなたまで....!そなたまで私を....置いて逝くのか....!....友が....かけがえのない友が....次々と....倒れていく....!...私は無力だ.....」

張江は、天幕の床に、膝から崩れ落ち、声を上げて泣いた。彼の悲しみは、深く、そして激しいものであった。

志文しぶんは、関泰の死の報を聞き、静かに目を閉じた。

(関泰殿....貴方の....命は....衛国の....未来のために....散った....俺が....俺たちこそが....その未来を....護らねばならぬ....!)

志文は、自らの胸に手を当て、深く息を吸い込んだ。

彼の心は、悲しみに浸ることを許さなかった。彼は、衛国軍の将として、亡き将たちの遺志を背負い、自らの武を、最大限に発揮しなければならなかった。

彼の顔には、悲しみを超越した、冷徹なほどの決意が宿っていた。

関泰の隊の残存兵たちは、自らの副将の死を悼みながらも、朱威しゅいの指揮の下、再び武器を手に取った。

彼らは、関泰が命を賭して護った関門を、何としてでも守り抜くことを誓った。彼らの瞳には、悲しみと同時に、亡き将への感謝と、敵への激しい憎悪が宿っていた。

飛砂平原に、六日目の太陽が、悲しくも力強く差し始めた。その光は、関泰の血で染まった城壁を、無情にも照らし出していた。

衛国軍の将兵たちは、亡き将たちの遺志を胸に、最後の総力戦へと臨む覚悟を決めていた。彼らの顔は、疲弊しきっていたが、その瞳には、武人としての最後の覚悟と、勝利への強い願いが宿っていた。

連合軍もまた、六日目の開戦に備え、布陣を整えていた。

総大将魏鉄山ぎてつざんの主力が、衛国軍の中央戦線へと、突撃しようとしていた。その数は、前日までの激闘にもかかわらず、未だ一万騎を超える圧倒的な戦力であった。

衛国軍は、各将の奮闘により、七千騎ほどが残存していた。疲弊する衛国軍にとって、一万余騎の突撃は絶望的な重圧であった。

魏鉄山が、一歩前に進み出た。

「総員、よく聞け!我ら、連合軍の多くの同胞が散っていった!しかし、散っていた同胞は、その命を賭して、護るべき者を護る為に、奴らの多くを屠っていった!残された我々ができることはなんだ!!それは、一刻も早く、この戦を終結に導くことだ!この戦は、今日で終わる!いや、終わらせるのだ!己を信じろ!」

一瞬の静寂が、戦場を、より緊迫させる。

「全軍!突撃せよ!!」

一万余騎の突撃は、まさに、地を鳴らし、天を震わす、そんな突撃であった。

志文しぶんは、自らの薙刀を振るいながら、乱戦の中で、魏鉄山軍の猛攻を受け止めていた。

彼は、魏鉄山軍の精鋭を、次々と薙ぎ倒していった。

彼もまた、散って逝った者のために、倒れることはできなかった。

飛砂関では、主将の朱威しゅいが、関泰の亡骸を、静かに天幕に安置した後、再び城壁へと舞い戻っていた。彼の顔は、悲しみと、関泰の遺志を継ぐという、重い決意で固く引き締まっていた。

六日目の開戦と共に、朱威の元には、魏鉄山軍の一部隊が、関門の突破を試みるという報が届いていた。

朱威は、関泰が命を賭けて討ち取った雪忍の教訓を活かし、防御を固めていた。

「全軍、聞け!関泰は、この関門を護り、我々に勝利の機会を与えたのだ!関泰の犠牲を、決して無駄にするな!この関門は、衛国の心臓部だ!死んでも護り抜くのだ!」

朱威の言葉は、関泰の隊の残存兵たちに、新たな活力を与えた。

彼らは、亡き副将への忠誠を胸に、朱威と共に、飛砂関を護り抜くことを、改めて誓った。

朱威は、自らの薙刀を抜き放ち、関門を攻め立てる魏鉄山軍の一部隊に、猛然と反撃した。彼の薙刀は、関泰の仇討ちを誓い、火花を散らしていた。

朱威の戦いぶりは、まるで関泰の魂が乗り移ったかのように、激しく、そして無慈悲であった。

関門の攻防は、再び激しいものとなったが、朱威の武と、兵の奮闘が、飛砂関を護り抜いていた。

朱威は、関門を護ることで、関泰の死を、衛国の未来へと繋げようとしていた。

中央戦線で激闘を繰り広げていた志文しぶんは、魏鉄山軍の猛攻に晒されながら、深い孤独を感じていた。

彼は、今、衛国軍の将の中でも、最も武と知略に長けた存在であったが、その重圧は、計り知れないものであった。

(将が....友が....次々と....散っていった....彼らの重みが....この肩に....のしかかる....)

志文は、薙刀を振るい、敵を打ち払いながら、周囲の兵士たちの顔を見つめた。

彼らは、疲弊しきっていたが、志文の背中を見て、必死に戦い続けていた。志文の存在こそが、彼らにとって、最後の希望であった。

「止まってはならぬ!倒れてはならぬ!進むのだ!立ち続けるのだ!我らが護らずして、誰が護る!我らが戦わずして、誰が戦う!誇りをもて!愛する者を思い出せ!散って逝った者たちがそばで見ている!李岳が....李岳も、共に戦っているのだ!」

志文の言葉は、兵士たちの心に、再び火を灯した。彼らは、志文の指揮の下、魏鉄山軍の猛攻に、必死に耐え続けた。

志文は、乱戦の中で、自らの武を最大限に発揮し、魏鉄山軍の隊長を討ち取った。

彼の薙刀は、血に濡れ、彼の瞳は、勝利への強い願いに満たされていた。

志文は、関泰の死を無駄にしないためにも、この戦いを、必ずや勝利へと導かなければならないと、強く誓っていた。

彼の心には、亡き将たちの遺志と、衛国の未来を護るという、強い決意が宿っていた。


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