#1-29 最後の死闘
瞭商戦死の報せは、文衡の心に、深い絶望の楔を打ち込んだ。
忠実な配下を、自らの策の失敗によってまた一人失ったという事実は、守戦の名将としての彼の誇りを、根底から揺るがした。
(瞭商….そなたまで逝くとは。許せ....私の判断が、そなたの命を散らした.....)
文衡の顔は悲嘆に暮れ、その瞳は深い悲哀を映し出していた。
彼は、配下である臥延や羅仁の刃でありながら、自らにも忠誠を誓った瑛武の死とはまた異なる、責任という重圧に苛まれていた。
彼らは、文衡の堅守を支える要石であり、彼らを失ったことで、鉄壁の陣は、内部から脆くなっていた。 そして瞭商は、文衡の常に傍らで、共に業を背負った友でもあった。
しかし、文衡はすぐに、その悲嘆を、固い決意で覆い隠した。
玄岳国軍の生命線、雷鋒への道を守るという責任感が、彼を動かした。
「全軍に伝えよ!瞭商を討った夜叉の隊は、必ず退路を確保しようと留まる!ゆえに殲滅はせん!こちらの犠牲をこれ以上増やすことはない!鉄豪殿が汪盃を討つまで、我らはここで耐えるのだ!山脈の入り口の防衛に全力を注げ!一歩も動くな。陣をさらに固めろ!」
文衡は、志文の軍を殲滅することを諦めた。
林業と夜叉の奮戦とその壮絶なまでの忠義、そして文衡自身に深く焼き付いた志文の武、なにより、堅守にこれ以上、綻びを出すわけにはいかなかった。
勝敗は、時との勝負に変貌した。
志文の隊が、文衡の堅陣を打ち破り、雷鋒のいる山脈の奥へと到達する。
鉄豪が汪盃の隊と志文の援軍を殲滅する。
そのどちらかが達せられれば、おのずと勝敗は決まってゆく。
戦場全体が、極限の消耗戦と総力戦に突入していた。
そして、志文は恐るべき策に、右翼の勝敗、ひいてはこの戦の勝敗を賭けた。
文衡の堅陣の深部で、志文は、林業の隊に夜叉の隊を庇わせながら、離脱させたのだ。
傍から見れば、夜叉が重傷を負ったため、その重傷の夜叉を連れ、林業が撤退するという、極めて自然な状況であった。
しかし、それは右翼を志文の隊だけにするという、愚策ともとれた。
(志文め……夜叉を逃がしたのか。重傷の者を抱え、林業の隊と共に退いた……これは、一見、自然な撤退に見える。だが……)
文衡の脳裏に、かつて宋燕が、囮となって壁山軍の後方から出現し、挟撃を完成させた光景が、鮮烈に蘇った。
文衡の幕舎には、残る将である戸尖と兎機がいた。
「文衡様、これは紛れもない好機です。志文の隊は壊滅寸前。今こそ全軍をもって包囲殲滅すべきです!」戸尖が血走った目で進言した。
しかし、兎機は首を振る。
「志文の狙いはそこだ!林業の隊は、志文の隊に勝るとも劣らぬ練度と士気を保っていた。あの隊が、夜叉の重傷を隠れ蓑に、戦場近くの林で伏兵となって潜んでいると見るべきだ。我々が志文を包囲し、殲滅に手間取れば、林業に背後から襲われ、逆に我々が殲滅される!」
文衡は、深く頷いた。林業の隊の練度、そして志文の非情なまでの知略を考えると、それが最も合理的な予測であった。
(志文は、常に相手の一歩先、そして心理の裏の裏を読む。壁山を失う恐怖、瞭商を失った焦燥……この心理状況で、志文の隊を包囲するなど、まさに死を意味する)
文衡は、恐るべき罠を警戒し、志文の隊を包囲せず、ただ攻勢を強めるに留めた。
殲滅ではなく、防衛。文衡の選択は、常に最も安全な道を選んだ。
文衡の攻勢は苛烈であった。
志文の隊は、すでに壊滅寸前。兵士たちは、極度の疲労と、精神の摩耗で、もはや立っているのが不思議なほどであった。
しかし、彼らは倒れなかった。
彼らの眼前に、血まみれの薙刀を振り、一歩も退かずに敵兵を斬り捨て続ける、指揮官・伯志文の背中があったからだ。
志文の武は、すさまじかった。彼は、文衡軍の組織的な抵抗の中央に立ち、一瞬の隙も与えず、まるで舞を舞うかのように薙刀を振るった。その動きは、悲哀や感情を一切排除した、ただ勝利に到達するためだけの、純粋な武であった。
(殿を護らなければ....命を賭すのだ....!!)
兵士たちは、志文の背を守る盾となり、槍となり、極限の状況で奮戦した。
志文の隊は、文字通り、魂の灯火だけで戦い続けていた。
しかし、文衡が攻勢を強めるにつれ、その堅守と猛攻の前に、兵士たちは一人また一人と、静かに倒れていった。
一刻程、経ったであろうか。 既に、志文の隊の多くは、その命を凄絶に散らしていた。
志文自身も、無数の傷を負っていた。もはや、立っているのが、不思議なほどであった。
その時であった。
戦場全体を覆う喧騒とは異なる、一際高い歓声が、文衡の背後、白狼山脈の奥深くから響いた。
「オオオオッ!」
その喚声を聞いた瞬間、文衡の全身に、激しい寒気が走った。背筋を這い上がった戦慄が、彼の思考を一瞬で停止させた。
(まさか……まさか!)
文衡は、志文の策の真の全貌を、完全に理解した。
志文は、全てを見据えていたのだ。
壁山を宋燕で挟撃し戦死させたことで、文衡は「志文の伏兵」という幻影に囚われると読んでいた。だからこそ、夜叉と林業の隊が自然に撤退する状況を作り、それを罠だと錯覚させた。
(真の狙いは、伏兵ではなかった....奴は我が軍など、眼中になかった....奴は....奴は、常に、雷鋒様を狙っていたのか....)
林業と夜叉の隊は、夜叉や重傷者を本陣に搬送し、返す刀で、猛烈な急行軍を編成し、白狼山脈のもう一つの入り口へと向かっていたのだ。
鉄豪が汪盃軍の殲滅に全軍を集中している今、山脈の入り口、つまり雷鋒の本陣へ続く道は、完全に無防備であった。
林業と夜叉の隊は、志文と文衡の死闘の間に、その入り口を突破し、雷鋒に届く道筋を築いたのであった。
(狂気の策だ....なにが...なにが...貴様をそこまでさせるのだ....)
もし文衡が、志文の隊を包囲していれば、志文の隊は確実に全滅していた。
志文は、自らの命を囮にし、文衡が「罠」を恐れる、その心理に、全てを賭けたのだ。
文衡は、雷鋒の状況を即座に脳裏で確認した。
雷鋒は、鉄豪を助けるために一度出陣した際、林業と夜叉の隊に阻まれ、戦力を減らした状態で本陣に戻っていた。さらに雷鋒の本陣からは、鉄豪や文衡の戦場を目視できなくなっていた。鉄豪は汪盃の本陣に猛攻を仕掛けたため、雷鋒からその姿を確認するのは困難であった。文衡の陣は山脈の入り口まで後退したことで、山脈の木々に隠れ、その姿を、完全に見失っていた。
(もし、山脈伝いに林業と夜叉の隊が、入り口を目指せば.....雷鋒様からはその姿は見えぬ...)
(雷鋒様の軍は、今や一万にも満たぬ……!私は、林業の隊が罠だと考え、最も安全な道を選んだはず。だが、最も安全な道が、最も危険な罠であったとは!)
文衡は、自身の隊の半分を迅速に雷鋒のもとへ送るべきか、それともこのまま志文を討つべきか、一瞬、思考した。
この一瞬の思考。軍を指揮する者が、命運を決する戦場で、指示を止めるという絶対的な失態。
文衡の軍に、微かに緩慢さが生じていた。
現場の将兵たちが、文衡からの指示が一瞬途絶えたことで、志文の隊の連突の穴を塞ぐのが、わずかに遅れたのだ。
その一瞬の穴を、志文は見逃さなかった。
志文は、獣のような咆哮を上げ、全軍に最後の突撃を命じた。
塞ぎきれなかった穴は、志文の隊にとって、最後の希望であり、生と死の境界線であった。
志文の隊は、もはや兵士ではなかった。
彼らは、槍が刺さっても、刀が折れても、止まらなかった。
彼らの体は、文衡の堅陣の兵士たちを、容赦なく押し潰していく。
(ここで文衡を逃がせば、限界で戦う林業と夜叉の隊が、挟撃される!)
その狂気にも似た責任感が、志文と隊を突き動かしていた。
彼らは、ただ文衡の首を取ることだけを狙っていた。
志文は、最後の力を振り絞り、文衡のもとへ馬を疾駆させた。
彼の隊の兵士たちは、志文を、文衡へ行かせるための生きた道となり、次々と盾になり果てていった。
しかし文衡は、逃げなかった。
(ここで志文の突破を許すことは、雷鋒様を危険に晒すこと!そして、私が志文を見誤った責任を、ここで果たすのだ!)
薙刀が交錯する。
文衡の武は、雷鋒への忠誠心と、死なせた配下への責任の重さによって、凄まじい力を発揮した。
しかし、志文の武は、その上を行っていた。
「謀将ではなかったのか……志文、貴様は猛将であったか....」
文衡は、志文の知略を警戒するあまり、武を軽視していた。一刻もの間、自身の軍の攻勢を凌ぎ切り、反撃までしてくる志文らの気力、そして、眼前に立つ志文の圧倒的な武に、文衡は戦慄した。
志文と文衡の薙刀は、激しく交錯した。金属音が響き渡り、火花が散る。だが、限界を超えた志文の一撃が、ついに文衡の薙刀を弾き、その鎧を断ち割った。
文衡は、口から血を噴き出しながら、馬から崩れ落ちた。彼の瞳は、志文の背中、そしてその遥か奥の山脈を、一瞬だけ見つめていた。
(皆、すまぬ....この文衡、やはり、愚将であった....)
文衡は、空を見上げながら、昔日の日々を思い返していた。
「文衡様!我らがいる限り、貴方様に、指一本触れさせませぬ!」
「おい、瞭商!貴様は弱いのだ!俺の後ろにいろ!俺が、お前も、文衡様も護ってやるよ!」 瑛武は、豪快に笑った。
「ふん!瑛武、貴様は、黙っていろ!この脳筋が!貴様がおらずとも、私と臥延がいれば事足りるわ!!」
「お二方、少し、お静かに。この臥延、今、妻に手紙を書いておる!」
「けっ!まったく、軍舎で、手紙だと?どうかしてるぜ!士気が下がるわ!」
「なんだと!瑛武!貴様、我を愚弄したのか!」 瑛武がもう一度、豪快に笑う。
「やめよ!そなたらは皆、私の大切な将だ。そなたらは、私が護る」
三人は、照れくさそうに笑っていた。 それに釣られて、文衡も、声を上げて、笑った。
(あの日々に還れるのか....悪くはないかもな....) 文衡の瞳は、静かに、空を見つめていた。
玄岳国軍副将兼右翼総大将 文衡戦死。
志文は、その血まみれの薙刀を振り払い、倒れた文衡を一瞥することもなく、馬首を白狼山脈へと向けた。
彼の道は、友の命と、敵の絶望の血によって、開かれたのであった。
志文が文衡を討ち果たした瞬間、右翼の勝敗は決していた。
それは物理的な衝撃というよりも、玄岳国軍右翼の魂の崩壊を意味した。
「文衡様が……討たれた!我らが総司令官が!」
文衡の隊は、数日にわたる消耗戦と、志文の狂気的な攻勢の前に、すでに疲弊の極みにあった。
そこに、主将の死という決定的な打撃が加わり、組織的な抵抗は不可能となった。
残された将である戸尖と兎機は、必死に隊をまとめようと奔走した。
「落ち着くのだ!文衡様は逝かれたが、我らの使命は終わっていない!雷鋒総帥をお守りするのだ!志文を追え!」
戸尖と兎機は、総崩れとなりつつある兵士たちを叱咤し、志文たちの後を追わせた。
彼らに残されたのは、もはや義務感のみであった。
彼らは、志文の突破を許した罪を、雷鋒の救援という形で贖おうとしたのである。
その頃、汪盃の軍と鉄豪の軍がぶつかる戦場は、すでに血の海と化していた。
汪盃の軍は、文字通り壊滅状態にあり、羅清と李岳の奮戦、そして宋燕、衛射、姜雷の奇襲によって、かろうじて戦列を保っているに過ぎなかった。
鉄豪は、山中から響く文衡軍の異常な喚声、そして直後に訪れた静寂に、激しい違和感を覚えていた。
「斥候!ただちに山中を探れ!文衡の陣に何が起きたか、そして雷鋒総帥の身に危険が及んでいないかを確認せよ!」
鉄豪の決断は速かった。斥候がもたらした情報は、彼の予感を確信へと変えた。
山脈を突破した志文の残党、そして文衡隊の壊滅。
「裏をとられたのか……!」
鉄豪は、目の前の汪盃軍の掃討を諦めた。彼の優先順位は、玄岳国軍の勝利ではなく、雷鋒の命へと切り替わった。
「陣護、要亥!そなたら二将に、汪盃の残党の制圧を任せる!私は、総帥の救援に向かう!」
鉄豪は、自らの精鋭部隊を率いて、白狼山脈へと馬首を向けた。
彼の判断は、軍の指揮官として極めて的確であったが、それは同時に、汪盃に最後の賭けの機会を与えることでもあった。
(鉄豪が退いた……!志文殿が、文衡を突破したのだ!)
汪盃は、鉄豪の背中を見て、確信を得た。
「全軍!反転攻勢を仕掛けよ!鉄豪軍を、一兵たりとも志文殿のもとへ行かせるな!これこそ、我々の最後の総力戦だ!」
汪盃軍は、羅清、李岳を先頭に、鉄豪配下の陣護と要亥に猛攻を仕掛けた。宋燕、姜雷、衛射の三将もまた、その背後を固めるように、渾身の力を込めて敵陣へと斬り込んでいった。
しかし、「玄岳四堅」の鉄豪の配下は、伊達ではなかった。
陣護は堅実な防御で汪盃の猛攻をいなし、要亥は鋭い反撃で、攻撃の矛先を無力化していた。汪盃の軍の猛攻は、彼らの防陣に、致命傷を与えることができなかった。
宋燕の紅い槍、姜雷の荒々しい薙刀、衛射の正確無比な弓、そして李岳と羅清の死力を尽くした剣戟も、二将の冷静沈着な対応の前では、ただの消耗に過ぎなかった。
汪盃軍と志文の援軍は、すでに疲弊し、もはや、文衡配下の軍を、突破するだけの余力はとっくに尽きていた。
汪盃軍第一将・桓策は、この状況を冷静に見つめていた。
時間は、鉄豪に味方していた。
(このままでは、雷鋒を討つ前に、鉄豪が、志文殿を討つだろう。志文殿の策を無駄にはできぬ……)
桓策は、心の中で、主君・汪盃に静かに呟いた。
(凡庸な私に、信を寄せ、将として扱っていただき、感謝します.....この忠節.....、今こそ返す時......最後まで、愚かな私をお許しください....)
彼は、自らの隊に最後の力を振り絞らせ、陣護と要亥の防陣の境界へと、数騎を率いて、死突を敢行した。
「全軍!道を開けろ!我に続け!」
桓策は、自らの命を顧みず、玄岳国軍の将兵の密集する箇所へと、その体を叩きつけた。
彼の剣は、両将の隊の連携が最も緩む一点を狙い、突き進んだ。
壮絶な奮戦の末、桓策は、二将の防陣に、一瞬の、しかし決定的な穴を開けた。
桓策には、無数の刃が刺さっていた。
汪盃旗下第一将 桓策戦死。
汪盃は、愛する配下の壮絶な死を、馬上で見届けるしかなかった。彼の瞳から、一筋の熱い涙が流れたが、悲しむ暇はなかった。
「李岳!羅清!行け!桓策の穴を広げろ!」
汪盃の号令の下、李岳と羅清が、壮絶な討ち死にを遂げた桓策の穴へと突撃し、その道を広げ、確保した。そして、姜雷、宋燕、衛射の三将の隊が、その穴を突破し、鉄豪の追撃へと向かった。
汪盃と、彼に残された羅清、李岳らの隊は、残された陣護と要亥の軍の殲滅に専念した。
山中へと入った鉄豪は、その足取りの重さに苦しんでいた。彼の軍は、疲労の極致にあり、当初の十五万の軍勢は、この死闘で一万にまで数を減らしていた。
(総帥の救援を急がねば……だが、この疲労で、山道を急ぐのは限界か)
しかし、鉄豪の想定より遥かに速く、宋燕、衛射、姜雷の三隊が、山中で彼の軍に追いついた。
「貴様を雷鋒のもとへは行かせぬ!」宋燕の紅い槍が、鉄豪の背後に迫る。
鉄豪は、すぐに山岳戦を展開した。
山道の狭隘な地形を利用し、三将を雷鋒のもとへ行かせるのを遅らせる、最後の防衛策であった。
彼は斥候からの情報で、文衡隊の壊滅と引き換えに、志文隊もまた壊滅に近い状態であると聞いていた。
ここで時間を稼げば、雷鋒が志文らを討ち果たせると踏んだのだ。
しかし、三将の連携は、鉄豪の予想を超えていた。
衛射の弓部隊は、地形の有利を最大限に活かし、遠方から正確な射撃を敢行した。
鉄豪の配下の隊長たちを次々と射殺し、軍の指揮系統を麻痺させた。
宋燕は、少数の手勢でゲリラ戦を展開し、側方から神出鬼没に現れては攻撃を仕掛け、すぐに消えることを繰り返した。
そして正面には、姜雷が鬼の形相で、凄まじい武威をもって薙刀を振り回していた。
鉄豪の隊は、疲労と低い士気、そしてこの三面攻撃により、完全に追い詰められていた。
姜雷が、突如として正面の攻勢を強めた。
同時に、宋燕の隊が側方ではなく背後から現れ、そして衛射の隊が両側面から一斉に攻めかかった。
完全に包囲された。
乱戦の中、鉄豪は残存兵と共に死力を尽くして戦ったが、もはや隊の数は二千騎まで減っていた。兵たちは、鉄豪を逃がすため、自ら囮となった。
(皆、すまぬ.....)
鉄豪はなんとか包囲を突破した。。
しかし、撤退する鉄豪の背中に向けて、衛射が渾身の一矢を放った。
「衛射!無駄だ、もう深追いは……!」宋燕が叫ぶ。
しかし、矢は鉄豪の鎧の隙間、心臓の少し下を貫いた。
「ぐっ……!」
うめき声をあげながらも、鉄豪は、その傷口を布で固く縛りつけ、雷鋒のもとへと、必死に馬を走らせた。彼の意識は、すでに朦朧としていた。
(志文様の軍は、雷鋒の軍とほぼ同数。鉄豪自身も負傷しただろう。鉄豪の軍はもはや、寡兵。問題は陣護と要亥の援軍....)
宋燕、姜雷、衛射の三隊は、鉄豪軍の掃討を諦め、すぐに汪盃の軍へと援護に戻った。




