第四章 竜族の興亡 第1話
魔の森の西端、岩山を削って作られた巨大な洞窟。
その奥深くで、黒竜族の総会が開かれていた。
天井から垂れる鍾乳石の間に、数十体の黒竜が円陣を組む。鱗は闇を吸い込み、瞳は炎のように赤く光る。
「……我ら黒竜族が、住処を追われるなど、前代未聞だ。」
長老プルーデントの低い声が洞窟に響く。
重厚な響きは岩壁を震わせ、若竜たちの胸にまで響いた。
「前代未聞? 笑わせるなよ、ジジィ!」
ソートレスが翼を広げ、岩を砕くほどの音を立てて立ち上がった。
若竜特有の血気盛んな声が、 洞窟の空気を震わせる。
「俺たちは、この世界最強の黒竜族だ! 誰が仕掛けたか知らねぇが、結界だか何だか知らん
モノにビビって尻尾巻いて逃げるなんざ、恥だろ!」
「ソートレス……」
プルーデントは深い溜息を吐いた。
「力だけで世界が回るなら、我らは神になっている。」
「神? 笑わせるな! 俺たちは神以上だだろうが!」
ソートレスは牙を剥き、炎を吐きそうな勢いで吠える。
「臆病な長老どもに、俺たちが最強だって証明してやるよ!」
「……よかろう。」
プルーデントの瞳が細く光った。
「ならば、試せ。あの結界を崩してみよ。それで判断する。」
「言ったな? 見てろよ、ジジィども!」
ソートレスは翼を広げ、洞窟を飛び立った。
魔の森の中心部。鬱蒼とした木々の上空に、黒い影が舞う。ソートレスだ。
彼は魔力を極限まで練り上げ、胸の奥で炎を凝縮する。
「これで終わりだ……!」
咆哮とともに、灼熱のブレスが放たれた。
空気が焼け、森が蒸発する。
だが――。
次の瞬間、世界が静止した。
ソートレスの巨体は、音もなく霧散した。
鱗も牙も、原子単位で消滅。
「……な、何だ……?」
遠くから見ていた黒竜たちは息を呑む。
プルーデントは目を閉じ、重く言った。
「理解したか。あれは、神の領域だ。」
沈黙。やがて長老たちは決断した。
「ここに留まれば、滅びる。我らは退く。」
黒竜族は、誇りを打ち砕かれたまま、別の大陸へと旅立った。




