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第九章

「つまり千姫先輩に振られたってわけね?」少女はポテチを頬張りながら、俺が屋上に来た理由を漫然と聞いていた。


「だから先輩が、ここ数日ずっと死人みたいな顔してたんだね。」


「まったく、もうー その顔を見るびに気分を悪くさせるんだから」少女はもう片方の手で携帯ゲーム機を操作し、パズルゲームのようなものをやってる。時折「クリアー!」というゲーム音が聞こえてくる。


 俺はとっさに彼女のポテトチップスを奪い取り、一気に自分の口へ流し込んだ。「お前に関係ないだろ!」


「ちょっと、あたしのポテチ、何すんのよ!」少女は慌てて俺の手から袋を取り返したが、中身はすでに空っぽだった。


 彼女は裸足のまま勢いよく立ち上がり、俺の腰を思い切り蹴った。「まあ、先輩が失恋したことを念じて、今回はこれで許してあげますね」


 そう言って、彼女は再び腹ばいになってゲームの続きを始めた。ポテチがなくなり両手が使えるので、今度は「モンスターハンター」というゲームを起動する。


 俺は少し気まずくなり、口いっぱいに頬張ったポテチを黙々と噛み砕いた。屋上には再び静寂が訪れ、少女のゲーム機から聞こえる攻撃音だけが響いていた。


 しばらくして、彼女が口を開いた。「失恋なんてくだらないことより、ゲームでもやりません?」


「ゲームか……最後にやったのは……」俺は中学二年の頃にしていたネット恋愛のことを思い出した。


 記憶喪失の俺にとってそれはつい一年前の出来事のように感じられるが、その時以来ゲームにはまったく触れていない。でも……ゲームの世界に没頭するのも悪くない選択肢かもしれない。


「俺もモンハンやってみようかな。中学の頃からやりたいと思ってたんだ」


 少女はモンスター討伐に熱中したまま、漫然とした声で返した。「毎日ポテチ三袋持ってくれるなら、連れて行ってあげなくもないんですけど」


「どんだけ食いしん坊かよ!」


「イエスかノーにしてください」


「わかったよ!もうー二袋じゃダメ?」


「じゃ決まりね!」


 最後のモンスターを倒すと、彼女は立ち上がり、俺の隣にしゃがみ込んできた。「二年三組、稲葉彩花。今日から先輩が私の子分だから、よろしくです」そう言って、彼女は少し照れくさそうに片方の袖で口元を隠した。もう片方の手はそっと差し出されており、白く細い指先は今にも引っ込めてしまいそうだ。


「子分ってのはなんだよ…三年二組、浅川惠。よろしくね」俺も手を差し出し、そっと彼女の手を握った。小さなその手は少し冷たいが、とても柔らかい。


「あと、彩花って呼んでください。敬称もいりません。なんか先輩に彩花ちゃんって呼ばれたらキモイんで」


「うわーまじで傷つくわ。彩花様」


「それも却下!敬称の意味わかってます?なんかバカにしてません?」


 やがて予鈴のチャイムが鳴り、俺たちはそれぞれのクラスへ戻ることにした。家に帰ったら一緒にモンハンをやろう、と俺たちは約束し合った。


 こうして、千姫に振られたせいで灰色に沈むと思っていた学校生活は、彩花のおかげで日に日に楽しいものになっていった。昼休みになると、俺たちは決まって屋上でゲームをするようになった。


「早く早く! 左、左! 隠しアイテムがあるよ!」彩花が興奮気味に俺の手を引っ張る。


「どこだよ? 俺には見えないけど……」俺は少し焦りながら操作を続けた。


「もしこれがFPSだったら、先輩とっくに死んでるよ! あの箱の裏だってば、ジャンプすれば取れるんだから!」


 俺はジャンプを試したが、またしても失敗してしまった。「あああああちくしょう、また落ちた……。なんでこのゲームこんなに難しいんだよ……」


「下手くそなんだから。ほら、貸して」彩花はそう言って素早く俺のゲーム機を取り上げると、二、三回の操作であっさりとジャンプして見事に宝箱をとってみせた。


「すげーな。お前みたいなテクは、俺には真似できないよ。本当に下手くそなんかもね」


「練習すれば誰だって上手くなるよ。最初から上手かった人誰もいないし。自分なんか、始めた頃は先輩よりもずっと下手だったんだからね。毎日コツコツ練習した成果がこれ!」


「そんなやる気を半分でも勉強にな……」俺は苦笑した。


「そういえば、お前って成績いいほうなの?」


「むむむ……ゲーム中に成績の話をしちゃうダメ!卑怯だよ! あなた...もしかしたら...リアルの敵か!?」


「ってことは、救いようがないほど成績悪いんだな」


「少なくとも親に怒られるほど悪くないもん!」


「そっか。それならいいけど。俺はさ、三年間の記憶をなくしちゃってて、授業の内容が全然頭に入らないんだ。正直、高1からやり直さないといけないくらいで、このままだと来年は留年しそうなんだよな」


 彩花はゲームの手を止め、ふと顔を上げた。「千姫先輩ってずっと学年トップなんでしょ? 別れたとはいえ、頼めば勉強くらい見てくれるんじゃない?」


「うーん……。でも今、彼女とは正直すごく気まずいんだ。それに男として女の子に勉強を教えてもらうのはちょっと恥ずかしいっていうか……」


 彩花はニヤニヤしながら俺の頬をつついてきた。「ゲームじゃ他人に助けを乞うザコのくせに、よく言うわ」


「お前....本当に好き勝手言いやがる!」


 彩花は少し小首をかしげ、好奇心ありげに尋ねた。「記憶喪失ってさ、そういう人初めてみたから、やっぱりいろいろ困ったりする?勉強以外に」


「いや......今のところは特にないけど……ただ、最近、何か大事なことを忘れてしまっているような気がするんだ……」

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