第二十四章
放課後、俺たちは商店街のヘやって来た。
今日の目的は、このヘアアクセ屋。彩花が『かわいいヘアピン欲しい! 前輩も一緒に選んで!』なんて言い出したから、こうやってここまできた。
店内のヘアアクセコーナーには、猫やウサギ、カピバラまで、いろんな動物モチーフのヘアピンがずらりと並んでいる。
(……いや、カピバラのヘアピンって、女の子にはどう考えても似合わないだろ)と心の中でツッコんでいると――
「じゃーん!」
彩花はもうカピバラのヘアピンを手に取り、前髪に留めてニヤリと変顔してみせた。思わず笑い声が漏れる。
意外と似合ってて、しかも妙に面白い。
「じゃあ俺が買ってやろうか? このカピバラのやつ」
「バカ、これは“バカかわ”でしょ? なんか私のことバカにしてる感じするし」
彩花は俺の足を軽く踏んで抗議してきた。
「はいはい、じゃあ俺が選んでやるよ。彩花お嬢様にピッタリなやつをね」
俺は棚を見回しながら、ふと一つのヘアピンに目を奪われた。
桜の花びらをかたどったヘアピン――見た瞬間、胸の奥がざわめいた。どこかで、この光景を知っている気がする。
隣で夢中になって選んでいる彩花の横顔を見ながら、俺はその桜のヘアピンを手に取った。
(……どこかで見たことがある)
次の瞬間、脳裏にいくつもの映像がフラッシュのように走った。
――桜の木の下。
風に舞う花びらの中で、俺の胸にすがりついて泣きじゃくる少女。
少女の頬を伝う涙は止まらず、途切れ途切れの声が俺の胸に滲みこんでいく。
「……ずっと一緒、惠君」
ほんの一瞬の幻のような断片なのに、胸の奥を鋭く締めつける切なさがこみ上げてくる。
無意識のうちに顔が青ざめていたのかもしれない。
彩花がすぐにそれを察して、心配そうに駆け寄ってきた。
「前輩、どうしたの? 具合悪い?」
俺は小さく首を振り、桜のヘアピンを棚に戻した。
その仕草を、彩花は黙ったままじっと見つめている。
やがて彩花は、俺が戻したヘアピンをそっと手に取り、鏡の前で髪にあててみた。
その瞳には、一瞬だけ複雑な色が走った。
「……桜かぁ。なんかちょっと切ないね」
「どうして?」
問いかけても、彩花は小さく首を振るだけで、答えようとはしなかった。
代わりにヘアピンを棚に戻し、今度は小さなうさ耳のヘアピンを手に取る。
「やっぱり、こっちのほうが可愛いでしょ!」
そう言ってうさ耳のヘアピンをつけ、いたずらっぽくウインクしてみせた。
その仕草があまりに可愛くて、俺は思わず吹き出してしまう。
「うん、すごく似合ってるよ。最初に会ったときの彩花を思い出すな……まるで凶暴なウサギだったなぁ」
「誰が凶暴なウサギよ! このバカ前輩!」
彩花はぷいっと横を向いてみせたが、今回は蹴ったり叩いたりはしてこない。
その代わり、どこか満足げにうさ耳のヘアピンを外し、レジへと向かっていった。
帰り道、彩花は俺の手をぎゅっと握りしめて離さなかった。
まるで、俺がふっと消えてしまうのを恐れているかのように。
夕陽に照らされた影はどこまでも伸びていき、普段はおちゃめな彩花の横顔も、今はどこか柔らかく見える。
彩花の手が、歩きながらわずかに震えた。
そして、ためらうように口を開いた。
「……前輩、もしいつか記憶が戻ったら、私のこと……選ばなくなっちゃうのかな」
小さな声。風に紛れて消えそうな問いだった。
俺は立ち止まって、彩花の瞳をまっすぐに見つめた。
「そんなことない。俺はもう決めたんだ。彩花と一緒にいるって!だから記憶がどうなろうと、俺はお前と一緒にいたいんだ!」
「……うん、わかった......」
彩花はうつむき、小さく呟いた。
けれど握った手は、さっきよりずっと強くなっていた。




