第十八章
翌日の授業中、俺は千姫の空いた席をぼーっと見つめていた。
心の中までぽっかり穴が開いたような感じで、先生の声は遠くへ行ってしまったようだった。
千姫が三日後に留学に旅立つと知っても、まだ現実味がなかった。
突然襲った不安に、体が冷たい波に飲み込まれるような感覚に包まれる。
千姫が本当に三日後にいなくなってしまうなんて、あまりにも急すぎる。
たとえ記憶になくても、心だけは彼女を覚えているみたいで……そんな彼女が遠くへ行ってしまうなんて、俺にはとても耐えられなかった。
今まで彼女とちゃんと話す時間も取れなかったし、どうしてこんなことになってしまったのか――そんな後悔ばかりが頭をよぎった。
失くした記憶を受け入れようと決めてはいたはずなのに、気づけば何もかも遅かった。
授業が終わる頃には、ペンを持つ手も震えていた。
ノートには乱れた線が走っているだけで、何ひとつ書けていない。
クラスメイトたちが次々と教室を出ていく中、俺だけは動けずにいた。
気づけば、ただ千姫の空いた椅子を見つめながら、時間が止まったみたいにぼんやりしていた。
三日後には、もう千姫と同じ教室で勉強することさえできないんだと思うと、息が詰まりそうだった。
それでも、何も言えないまま終わるのだけは嫌だった。
意を決して、俺はスマホを取り出す。
『出発する前に、もう一度会えないかな。ちゃんと話したいし、それに見送りもさせてほしいんだ。』
しばらくして、千姫から返信が届いた。
『ごめんね惠君。準備しなきゃいけないことが多すぎて、出発する前にはどうしても時間が取れそうにないの。本当にごめんなさい┭┮﹏┭┮』
ため息をつきながら、俺はもう一度メッセージを送った。
『そうなんだ……。じゃあせめて、空港まで見送りに行ってもいいかな。ちょうどその日は休みだし』
するとすぐに返事が来た。
『本当に?惠君。じゃあ駅で待ち合わせしよう。ちょっと早いけど、朝の六時に集合ね!遅れちゃダメだからね!』
そのメールを見て、この一日中、ずっと胸を締め付けていた不安と寂しさが、ほんの少しだけ軽くなった気がした。




