第十二章
放課後、俺は月を呼び止め、二人で一緒に家路についた。
「俺、女の子に好かれてるかも」
「ん? 前にフラれてからまだ一か月くらいしか経ってねーのに、もう告白されたのか? やるじゃん、お前。」
「告白ってほどじゃないけどさ。でも、向こうが俺のことどう思ってるかは、はっきり分かったんだ。」
「で、どうすんだよ?」と、月は両手を頭の後ろで組み、ガムを噛みながら軽い調子で尋ねてきた。
「向こうの気持ちが分かってる以上、告白するなら俺のほうからだと思う。」
俺は真剣に答えた。
「ってことは、告白するつもりか?」
この一ヶ月間、彩花と過ごしてきた日々を思い返す。初めはお互い言い争ってばかりだったのが、ゲームの中では親密な戦友となり、現実では彩花が俺に頼ってくれるようになって……
彼女が俺を好いてくれているのも伝わってきた。この一ヶ月は本当に楽しかった。まるで、かつてゲーム内でしていた恋愛をもう一度体験しているかのようだった。
そして彩花の性格は、かつてゲームで付き合っていた子にもとてもよく似ている。中学三年までの記憶しかない俺にとって、彩花に惹かれていくのも無理はなかった。
「なあ、その子なんだけどさ、前に俺がゲームで付き合ってた相手に性格がすごく似てるんだよ。」
「ってことは、お前その子のことが好きなんだな?」
「うん……そうだと思う。」
そう答えながらも、なぜか心の奥にほんの少し迷いが残っていた。
月は急に両手を頭の後ろから下ろし、表情を引き締めて口を開いた。
「けい、お前が今記憶を失くしているのはわかってる。だけど、高校三年間、お前が千姫をどれだけ愛していたかは、俺が誰よりも知ってるつもりだ。」
「正直、お前らは卒業したらすぐ結婚するんじゃないかって思ってたくらいなんだからな。それが今はどうだ? あんなに仲が良かったお前たちの想いが、記憶を失くしたくらいで全部消えちまうってのかよ?」
「俺は……」
一ヶ月経った今でも、千姫の姿を見るたびに胸がぎゅっと締め付けられる。俺は本当に引きずってないのか……?
「だって……千姫のほうから俺を振ったんだ……」
「それでお前、あっさり諦めちまっていいわけ? その上、ほかの女の子といちゃついていいわけ?」
「なんだよ……。お前、何に怒ってんだよ、月。」
俺は妙に軽い口調で言い返したかった。
「千姫にフラれたこと、俺はそれを受け入れた。それだけのことだろ。振られた人間が新しい恋を始めちゃいけないわけ? それに、こんなの全部お前が教えてくれたことじゃないか。女に固執しないって」
月は両拳を固く握りしめ、抑えきれない怒りに肩を震わせていた。俺たちの間の空気は一気に凍りつく。通りかかった生徒たちは皆、慌てて避けるが、その代わり俺たちに注がれる視線の数だけがどんどん増えていった。
「それにさ、なんでお前いつも俺に千姫のことばっか言うんだよ。もしかしてお前、千姫のことが好きなのか? だったら、俺たちが別れたことがお前にとってチャンスやろう?」
突然、月が飛びかかってきて、俺の顔に思い切りぶん殴った。
「お前まじで言ってんのか、そんなことがお前の口から出るなんて、思いもしなかったぜ!」
まともに拳をくらい、俺はその場に崩れ落ち、右頬に激しい痛みが込み上げてくる。
「なあ、けい。記憶を失くしたことで、お前が昔好きだったタイプの子を今は好きになっているっていうなら、それは別に責めない。だけど、記憶を失くす前にお前が一番好きだったのは間違いなく千姫なんだ。もしいつか記憶が戻ったら、そのときお前はどうするんだ?」
「お前には本当に失望したぞ。どうしてこの三年間の記憶を知ろうともしないんだ? 三年分忘れたからって、そんなにお前は変わっちまうのか? 将来お前が愛するはずだった人のことまで、忘れたからってもう愛せなくなるってのかよ?」
月はそう言い捨てると、そのまま背を向けて立ち去ってしまった。周囲の視線が一斉に俺に集まる中、残された俺はただ一人、呆然と立ち尽くしていた。




