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#3 歌が上手くなる魔法

コメディを描こうとしたんですが、オチが思いつきませんでした。

一番大事なのにね……爆発オチでもしてやろうかな

「僕は歌が下手です」

「わたしを昼寝から起こして開口一番がそれ?」

かなり打ち解けて、マホは毎日無防備に、大っぴらに昼寝するようになっていた。書斎はそれほど大きくない、マホの昼寝は邪魔だが、物を頼む立場でなかなかそんなことは言えまい。

「なので、歌が上手くなる魔法をください」

「いいよ!マホは魔法が使えるの!」

「へえ、どんな?」

「わかんない!歌って何?」

「魔法以前の問題じゃねえか!」そもそも会話にすらなっていなかった。

いいか、歌ってのはなあ



♪少年熱唱中♪



「これが、歌だ」


そう言うと、首を絞められた。下手すぎて、脈絡なく、首を絞められた。

抵抗しようと苦し紛れに出た声はくぐもった低音。

「ぷはあ!そ、そんなひどかった!?」


「この、死んだ魚のような音が───歌?」

「そこはふつう目だ!」


「じゃあ、この腐った納豆みたいな音が───」

「納豆は初めから腐ってるよ!」


「じゃあこのゲロ以下みたいなにおいが───」

「五感で訴えてくるのをやめろ!」思いっきりにおいっつったぞこいつ。


僕の歌、そんなひどい?

「ど、動悸が止まらないよ……あれ、目から水が」

「そんなにひどい!?」こいつの目から水なんて一滴も出てないけど。

「ひどいってもんじゃないわ、死んどい」

「デスボイス!?」

「耳栓つけるね、会話もしたくないかも」

「そんなにひどい!?」

「あ、魔法でなんとかすればいいんだ!」

「へえ、どんな?」

答えは予想できる、ようやく会話の軌道が戻「あなたと距離を置く魔法」

「そんな答え予想できてたまるか!」せめて耳栓にして!

はあ、「まあ今聞いての通り僕の歌は散々なんだが」自分で言ってて恥ずかしくないのか、いや、死んどいよ。

「そうね、散々よ」人間の自虐は否定されることを前提としてるんだぜ?

「まぁ私歌知らないんだけどね」こいつ何もわからない状態で俺を批判してたのか!?いや、最初から言っていた!「歌って何?」と。

「そこでお願いなんだがな、魔法で歌を上手くしてくれねえか?」もう構わず話を続けた。

「できるなら、してあげたいわね、できるなら」

「季語がない、二点」

「アイルの歌、二百円」

「払う価値ありと!」

「ください」

「慰謝料だった!」

一つ目のできるならには……魔法でできるかという意味だろう。

二つ目のできるならには……歌が下手すぎって意味が込められてないか?

「御名答!」

「当たってて欲しくなかった!」」

まあ、そんなこんなで、僕たちの三回目の魔法作りがはじまった。


書斎にあったCDで、歌を聴かせた、さっき歌った曲だ。マホの表情は……絶句。口をあんぐり開いてこちらを見た。口を、あんぐり開けて、こちらを見た。

「え、これ、ほんとに同じ?」ぼそっと呟やいたのち、「やべっ」という感じで口を塞ぐ。その言葉が、仕草が、僕の心を酷く抉った。真の本音、という感じで心が痛い。


「まず声が悪いよね」

「こ、こえ───ですか」

「そうそう、音程が取れてないのよ」

なんかコーチみたいで怖い、具体的に言えば目つきが!魔法関係なくないか!?

「そうね、こうするのよ」


♪少女熱唱中♪


「は?」それしか声が出なかった。あれ、目から水が。これは、感動の涙!?

「さっきまで歌の存在も知らなかったやつが……どうしてそこまで!?まさか魔法の力か!?」

「解れば、大体、なんでもできるのよ」

それがここまで通用するのかよ。

「じゃ、じゃあ僕も」「まだ無理」

どうして!

「今のは魔法じゃないもの、ただ単に私の歌が上手いだけよ」まじかよ、こいつ。

「じゃあ、魔法を作りましょうか」僕は項垂れてそういった。

「そうね、比較対照がいると楽々々(らくらくらく)よ!」

「々が一個多い、ちなみにそれの読み方はラララだ」

というか比較対照って……あはは、頂点と底辺。まさしく対照的だ。

「歌が下手くそになる仕組みを理解して魔法にしましょう!」

自分の才能がわかったからか、今日はやけにやる気だなあ。

「まず、なぜ私は歌が上手いのか、なぜアイルは歌が下手くそで聞いていられなくて、腐った納豆みたいなのか」

そんなに腐ってるのか僕の歌は。

「歌ってみると、理由がわかったわ」

はいはい、聞こうじゃありませんか。

「まずアイルは音程が取れてない」ぐさっ!

「そしてリズムが合ってない!」ぐはっ!

「声が腐ってる!」え?

「そんな感じね」「最後聞き捨てならねえよ!」

「いつもの声はいいの、別に不快感はないわ」「それならよかった」

「歌うと不快感しかないわ」

「いやどうやったらそんなことに!?」

「私が知りたいくらいよ、もう、ちょっと同情するわ」「同情するなら金、いや魔法をくれ!」

絶望的な会話だな。そんな今後人生で使うことのない単語が口からこぼれ出た。


「まあ、原因もわかったことだしなんとか解決に持っていきましょうか」

「そうだな、僕にはどう解決したらいいかさっぱりわからんが」

「音程は、そうね私が取りましょう」

「そんなことができるのか?」

「音の高さなんて所詮は空気の振動よ、私はここ最近空気を使うのがとても上手くなったの」

「そんな精密な操作ができるほどに!?」

「嘘つきました、そこまでできるとは自分でも思ってません」

変な期待させやがって。

「でもたしか───」マホがそう言いかけたとき僕の首のあたりがぐいっと締め付けられた。

「うぁ?おい、どうなって───たす、たすけて」苦し紛れに出た声はくぐもった低音だった。

これが本当のデスボイス……そんな冗談を言う余裕なんてなかった。

「ぷはぁ!何してくれんだ!」咄嗟に思い切り怒鳴ってしまう

「あ、ごめ、ごめんなさい、別に悪気はなかったの、ごめんなさい。ほんとよ、今回のはほんとに悪気はなかったの───」さっきまでは悪気あったのか。

「ああ、それ以上謝るな。別に怒っちゃいない」さっきまであれだけずけずけ言っておいて、その反応されると……まあ俺のために魔法を作ってくれてるんだ、僕は文句言える立場じゃない。

「目的は喉の開閉で音程を操作するためなんだろう?さっき、首を絞めたら、声が低くなったから」それを聞いて、やったんだろう。

「うん、流石に手荒すぎたから、やめておくね」

「いや、それでやってくれ、一番楽だろう」そう、楽々々(らくらくらく)だ三重楽、らくらくら、いやラララ。

てかさっき少し首締めただけでえげつない魔法を入手してんじゃねえ。首の締め方を理解したとかやめてくれ。

まあ、いいか。これで歌が少しでも良くなるなら。

「どれくらい喉を締めればどれくらい音程が変わるか、調べてみよう」僕が提案した、魔法の実験だ。実験して魔法を作り(今回の場合魔法を作りにあたってはただ首を絞められただけで実験は微塵もしてないが)魔法で実験する。マジックサイエンスのはじまりだ!


「あ

  ー

   ー

    ー

     ー

      ー

       ー

        ー」


綺麗な右肩下り。そして、苦しい。

音は振動なのでその震え具合を変えれば高さが変わる。喉を閉められなくとも、上を向き、喉を全開にして大きく声を出すと声が高く。顎を引き喉を閉じると、声が低くなる。

これは喉が開いていればいるほど、そこで音が反響し、高くなるからである。だから首を絞め、音が反響しづらくなると、だんだん音が低くなってゆく。

人は無理して声を出せば500Hzくらい出る、まだ声変わりしてない僕が頑張ってこれくらい。

そんで持って喉をしっかり閉められると、200Hzくらいまで下がる。

そして、約490~260、これがドレミファソラシの範囲。

つまり喉をうまく調整すれば、僕は自由に歌えるのである。

僕は楽器かよ!

まあ楽器だ。演奏者の技量にかかっている

「そういえば、魔力の消費は大丈夫なのか?かなりすぐ倒れてたと思うんだが」

「ああ、それなら心配ないよ、さっき寝たばっかりだしね」

魔力って睡眠で回復するのか……「いや、正確には睡眠と食事と───そう、人の三代欲求よ。それを満たせばいっきに回復していくわ」寝起きなんて特にね、魔力たっぷりよ、とそえる。

「それに───生命力を犠牲にして強制的に魔力をつくってるからね」

「へえ、食って寝たら回復するのかあ、思ったより単純……おいまて、寿命を縮めてるってことか?」

「いやいや大丈夫よ、寿命もなにもないもの、魔法使いにはね」

「いやいや、生命力を犠牲にして無事なわけないだろう、たとえ魔法使いだったとして、基本は人と変わらないじゃないか」

「だ、大丈夫だって───」明らかに、無理をしている。見てわかるぐらいの疲弊、命を削っていると言うのか?僕のために、こんなくだらない悩みのために?

「はいはい、練習練習」いきなり喉が閉まる。

「むっぐぅ」く、苦しい。

「はい発声」厳しく睨まれた僕はおとなしく声を上げる。もう従うしかなかった。

「あ

  ー

   ー

   ー

    ー

        ー

              ー

   ー

      ー

 ー」

調整のためしっちゃかめっちゃか!もちろん苦しい。

これは音感の世界だから僕にはどうにもならない。まかせたぞ、マホ!


任せっきりだなあ今日、ほんとに。


少し経つと、はあはあと二人の息が上がる。一つは疲れ、もう一つは苦しさで。

魔力切れが近くなり、その場に突っ伏したマホを寝室まで運ぶ。本当に大丈夫なのか?いや大丈夫じゃないだろう。

「はあ、はあ。ありがとう」寝室に運び、寝かせたマホが言った。

「こちらこそ」本当にこちらこそありがとう。今日は、頼ってばかりだな。

「そういえば、どうして歌がうまくなりたいの?」

今まで伏せてたのはそれ相応の理由がある、漢字三文字で羞恥心というのだが……僕は一度部屋に戻り、マホにチラシを手渡す。

「なるほど」

そのチラシは、半ば強制的に開催されてしまった、アカペラ発表回。

僕が歌が下手なことを笑おうと言う催しである(ちがう)。

開催日は明日、今日まで頑張って練習していたが……そんな付け焼き刃じゃだめだった。それに焼いても、錆だらけの鋼をつけたところで刀は強くならない、腐るだけだ。

「これは───地獄ね」

「そこまで言うか!」

「まあ大丈夫よ、私に任せておきなさい」

「おう、頼もしいぜ。よろしくな」

「ふふふ、いつでも頼ってね」

どうしてこいつは、僕にここまでよくしてくれるんだろうか。

ありがたいことこの上ない。が、無益な善行は怪しい。ただより高いものは無い。まあ、疑っても仕方がないけど。

「じゃあ明日に備えてゆっくり寝てくれ、僕は席を外すから」寝れば、魔力は回復するらしい。

「わかった、少しだけ栄養価の高い物を食べさせてくれない?」そうか、飯を食わないとエネルギーは生み出せないよな。

無から有は生み出せないと、何かの法則が言っていた。


一度台所に戻り、ミネストローネを作って寝室まで運ぶ。

「はいあーん」それ食べさせてもらう側が言うことあるのかよ。

「───はいあーん」スプーンですくって差し出す。ミネストローネは意外と作るのが簡単で栄養価が高いため、ウチでは重宝されている。

「お、おいしい!アイル料理できたのね」

「まあ少しだけね」

「じゃあ、ぐっすりさせてもらうわ」

「どうぞ、ごゆっくり」

マホは、そのまま気絶するように眠りに落ちた。

このまま起きないなんてことがないのは、知っている。

「また明日、よろしくね」僕は布団をかけて、頭を撫でた。彼女の髪はボサボサだが綺麗な色をしていて、そして静かな寝息を立てていた。


翌日、朝、そして日曜日。

「昨日はありがとね、ミネストローネおいしかったよ」

開催場所は家の前

「魔力もばっちぐーだよ」

オーディエンスはクラスメイト

「いや、こちらこそありがとう」

演奏者はマホで

「こっちもコンディションおっけーだ」

僕は楽器

「じゃあ、行こうか」

僕たちは、アカペラ発表会へ、本来ならば僕が恥をかくだけの場へ、足を向けた。


少年熱唱少女奮闘中。

うおおおお!いつもと違いちゃんと音が取れてる。声はこの際置いておくとして、音程が合うだけでいつもと違う、うまく聞こえる!

オーディエンスも沸いている、マホもこちらを見て笑っている、でも、息が苦しい。それは変わりない。

少年少女は奮闘し、それは観客まで届いてゆく。

歌い終えたときには、妙な達成感を覚えた。僕は何も成していない、成したのはマホだ。

あとで目一杯恩返ししなくては。


拍手が巻き起こる、ここでもまた達成感。

しかしやはり何も成し遂げていない僕に達成感を感じる資格はないだろう、とも思った。


家にまだ浸して

「すごかったよアイル!」

「すごいのはマホだ、手伝ってくれたお礼させてくれ」

「そんな、いいよ。私はここに住まわせてもらってるお礼をしてるだけだから」

「いや、ここにマホを住まわせているのは僕の母であって僕ではない。だから、僕からお礼をさせてくれ」

「そう、じゃあ───」

マホは、こちらに飛びついて、抱きついてきた。

僕は引き剥がさなかった。

「私と、契約して?」耳元でそうささやく。僕に断る道理はなかった。

「じゃあ契約成立ね」

そこでマホは倒れた。多分、魔力切れだろう。

マホを寝室まで運ぼうと立ち上がったその時、僕はがくりと膝をついてしまった。

意識が朦朧としてゆき、マホの横に、僕も眠るように倒れた。

後日談というか、今回のオチ


契約後、目が覚めたのは次の日の深夜だったが、特に変わりない日常がまた訪れた。


何か変わったことがあったとするならば

マホのボディタッチが増えたことと、アイルがそれに抵抗の意を示さなくなったことくらいだ

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