#2 その場が明るくなる魔法
御託はいい、さっさと戦闘んぞ
いや、戦闘なんてないんだけどね───ホントだよ?
なぜか僕、アイルの家に魔法使いが郵送された、その少女の名前はマホ。本人曰く、仕組みが解れば魔法で何でも再現出来るそう。
その曖昧な定義を何とかしてはっきりしたいが、前の空を飛ぶ魔法も、なぜ出来たのかはまるっきり謎だ。まだわからないことだらけだが少しずつ解き明かしていきたい。
そうだな、魔法を科学する、「マジックサイエンス」とでも言おうか。
というか、解き明かすというより、本人に直接聞くのが早いか?
「なあなあ、魔法が使える条件って細かい決まりはないのか?」なんとなく答えはわかっていた。
「わかんない!」だろうな、くそが!
「じゃあ、そうだな、調べるのにもデータが足らない。屋根裏掃除を、魔法で手伝ってくれるかい?」
「もちろん!マホは魔法が使えるの!」
「へえ、どんな?」答えは予想できていた
「空を自由に飛ぶ魔法!」
「その答えは予想外だった!だがそれはいま使えねえな」
今回は───人間掃除機を作ろう!
はしごでよじ登り、天井の板を一枚とってできた小さな穴から天井裏へ出る。暗くてよく見えないが、まあ何とか目を凝らして掃除しよう。
しかし、後ろを振り返ると、どさりと、はしごから落ちてしまいぐったりと倒れたマホの姿があった。
「おい!大丈夫か!」僕もすぐ梯子を下りる、飛び降りる!どんと床が響くがお構いなしにマホへ駆け寄る。
僕が肩をゆするとそのたびにグワングワンと前後に揺れるマホの体。まるで力が入って無く、一瞬嫌な想像が頭を埋める。しかしそんな心配はなかった。少女はぱちぱちと瞬きをして、こちらを覗きこむ
「あっ......ごめんね」
「いや、謝らなくてもいいが。大丈夫か?」
「うん大丈夫、ごめんごめん」
「だから謝らなくてもいいって」
「暗いところが怖いの......ほんと、ごめ───」散々謝るなと言ったせいか、歯切れ悪く言葉が切れた。
「えへへ、ありがとう」笑ってごまかした。
「どういたしまして」謝られるよりも感謝される方が僕は好きだ。それにこいつは不安がってるより、笑ってる方がかわいい。いや僕は全人類、笑ってる方が好きだがな。
「暗所恐怖症か......そうだ、光り輝く魔法とか作ってみたらどうだ?」そう、「ルーモス」的なね。
じゃあ今回は───やっぱり人間掃除機を作ろう。それも、光るやつをね!
「モノってどうやって光るんだろう」
うーん、マホにしては、至極真っ当な問いだ。いや、いつもこいつは好奇心旺盛だったかな?
しかしその問いの答えを僕は持ち合わせていない。
「色々仕組みはありそうだ、豆電球にLED、それぞれ仕組みは違うだろう」
「どれを魔法で作ればいいの!?」
そんなの決まっている
「豆電球だろう。古いものの方が仕組みが単純な気がする」
「なるほど、じゃあ今から調べるのね!それじゃあ図書館に────」
「土曜日はダメだ!土曜日だけは図書館にいけない!」
「そんな!」
特に理由を尋ねては来なかったので僕も言わない。それほど大したことでもないしね。
「まあ、豆電球の仕組みは理科で少しやったんだ。やるだけやってみよう」
こいつの魔法の限界も知りたいしね。どれだけの情報があれば、どれだけ解ればいいのかを調べてやる!
「とりあえず豆電球の仕組みを教える、僕が口頭で伝えられるだけ伝える。それで魔法ができるのか、教えてくれ」
「りょうかいです!」ビシッとポーズをとるマホ。
「まず豆電球は───」
豆電球、電流を流し、それが細かくぶつかり合う摩擦熱を利用して発光する。かいつまんで、それだけ伝えてみた。
「どうだ?できそう?」
「うーん、魔法をかけてみるよ。摩擦……だったよね、やってみる」
「あ、そうだこれ」僕は単一電池を取り出した。
そのまま何も起こらず少したち
「うーん、どうすればいいか、わかんないや。イメージが持てない!」
やはり魔法で大切なのはイメージなのか、想像力によって魔法が強くなるのは結構お決まりのパターンだよな。
「じゃあ……実験でもやってみるか?」
理科でやった、豆電球の実験を。理科は、座学よりも、実技だ!百聞は一見にしかず。
ということで、各家庭に一つはあるだろう豆電球と乾電池を持ってきて実験開始。
「まずここと、ここを繋いで」電線の両側をもって電池につける
「おお!」
豆電球が光る。シンプルで、単純だ。
「どうだ?イメージ沸いたか?」
「うん!わかった気がする!」さっきの説明と視覚的情報のダブルパンチ、意外といいかもな。
じゃあ実験パート2だな、魔法が発動できるかどうか。
「アイル、これ持ってて」実験に使った乾電池をそのまま渡される。
「いっくよお!」
不思議な感覚が体を巡る。僕に魔法が発動されたのか!乾電池を利用して、僕の左手を発光させているみたいだ。前は魔力をつかってぶっ倒れていたが、エネルギー源は意外となんでもいいのか?
そんなたわいもないことを考えていたが、なんか変、明らかにおかしい!
「あっつう!いたい!」
僕の叫びを聞いてすぐ魔法を解除するマホ。
「どど、どうしたの?」
膝から崩れ落ちる。大丈夫……じゃない。手が……熱い。急いで冷やさないといけないと脳が理解するが体は動かない。
「み、みず───」これじゃまるで喉が渇いて死にそうな人みたいじゃないか。
「水!み、水!」
魔法を舐めていたかもしれない。実験には、危険がつきものだな。
僕の手は火傷跡がくっきりついていた。
「いや、やっぱり水はいいや、大丈夫、問題ない。続けよう」結構無理してそう言った。
それは、強がりは伝わってしまったらしく、か細い声がマホから発せられる。
「私の……せい?私の、魔法のせい?やっぱり、私はいらない子?」自問自答か、いや、自答はしていない。ぶつぶつと繰り返す。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」
「謝るな、いいんだ。それよりも、魔法を作ろうぜ」強がりだった。けど、謝られたくなかった。不安で下げる頭は、いつみても、いいものだとは思わない。
希望で浮かべる笑顔が、人の一番いい顔だろう?
「今の問題点は多分、手のひら全体に魔法を発動したことだ。そうだな……爪先だけ光らせるってのはどうだ?」爪には神経がないってどこかでみた気がする。
「や、やってみりゅ───やるよ。い、いいんだよね?」
「もちろん、かかって───いや、かけてこい!」
魔法が自分へ発動される感覚を覚えた。
爪の、先が光り輝く。ダメ元で言ったが、ちゃんとここまで、指の爪先指定なんていう細かい操作ができるのか!
光を確認したのち解除される。熱によって少し爪の先が変形している程度で済んだ。
「これで、屋根裏掃除できるね!」明るさを取り戻したマホが元気に声をかけてくる、そう言えば目的を完全に見失っていた。
しかし今回の収穫は大きいぞ。魔法の発動条件が何個か分かった。
一つ目、魔法は何かに付与する形でしか発動できない。
二つ目、付与する先のものについての理解はあまり必要ないし精密にかけることが可能。
三つ目、事象が起こる仕組みをイメージできれば起こせる。
あとはエネルギーが必要だったり……まあこんなところだ、基本僕の憶測という形になってしまうが仕方あるまい。とりあえず、魔法の三箇条ということでここに制定する。
「さてと、屋根裏掃除はじめるか!」二度目だが、関係ない。魔法は無条件でわくわくする。
「ちょっとまって、明るくしたところでそれだけじゃ掃除できなくない?」
よく気付いたな。そう、明るくするだけじゃ掃除にならないが───僕の推理が正しければもう、人間掃除機はできているはずだ。
ハシゴをあがって、マホも上にあげ、爪を光らせてもらう。
「けほっけほっ。ほこりっぽいね」今度は倒れない。
「そうだな、早く終わらせよう。お前は僕の後ろで、今からいう魔法を発動してくれ」
言葉で、発動して欲しい魔法を説明した。応用編だ。「自由に空を飛ぶ魔法」は気圧の差によって引き起こる浮力を利用したものだった。
掃除機を作るとは言ったが、掃除機の仕組みを使うとは言ってない!
僕は、僕の手の前の空間を、ぽっかり真空にしてもらう。空気は的がでかい。だから魔法に使いやすく、動かしやすいのだろう。現に、こうやって、ここに真空が生まれているのだから。僕の手の中の空気を大雑把に、しかし正確に僕の方へ流す。すると一瞬手の中に真空が生まれ、すぐさまあたりの空気が流れ込み、埋まる。この吸引力を利用してホコリを集める!
爪の光は電池を使っているが、掃除機は魔力を使用している。昨日わかったが、魔法はあまり長い時間持続できない。魔力切れとの時間勝負、とっとと蹴りをつける!ホコリを集め、ホコリを集め、ホコリを集め、超高温と化した爪で燃やす!
屋根裏を走り回るが、僕が走ったあとにはホコリ一つたたない。あるのは火と、爪の光だけだ。
「も、もうむりっ!」
「これで終わりだ!」
ばたっとマホが倒れ、あたりは暗くなる。
魔力切れギリギリで掃除を終えた。どれだけ走ってもホコリのたたない屋根裏。掃除完了だ。秘密基地みたいでワクワクするな。
火を放つこともできるとなると……本当に攻撃魔法みたいなものも作れちまうかもな。
まあそんなもの平和な現代日本じゃ使う機会がさらさらないが。
そう、普通ないのだ、そんな物騒なもの使う機会なんて。
だから使う機会が今後くるなんて、この時は思ってなくて当たり前なのだった。
戦闘なんてありません、この小説はほのぼの日常ものですからね。
「ルーモス」とは、ハリーポッターに登場する、光を灯す魔法です
ほなまた。