#1 空を自由に飛ぶ魔法
初めて書きますどうも筆銀です
主人公は男です、女っぽい名前だと思ったので書き残しておきます。
分数の掛け算に頭を悩ませていたころ、ピンポーンとインターホンの音が聞こえる。
「はーい」大きな声で返事をするが、聞こえているかどうかはわからない。
すぐさま玄関へ飛び出し扉を開ける。
「お届け物です」目の前の配達員さんは大きな箱を持っている。玄関の自転車が邪魔そうだったのでどかし、その箱を家の中に置いてもらった。
「アイル、どうかしたの?」僕の後ろで母さんが僕を呼び、そして箱を見て驚いた。配達員さんはすでに去ってしまっていた。
「その箱……なに?」
「母さんがわからないなら僕もわからないよ」
「そうよね、ここであけちゃいましょうか」
その言葉を待ってましたと言わんばかりに、いいや、僕はその言葉を待っていた。ガムテープをビリビリと剥がしダンボールを開封していく。
「ああ、ハサミくらい持ってきたのに」頬に手を当て首を傾げながら、やれやれとでもいいたげに後ろから声がしたが、お構いなしに大きな段ボールを開けていく。
ガムテープを剥がし終わり、パカッと開封すると、そこには、僕と同じくらいの歳の少女が、古ぼけた白いローブを着て、同じく古ぼけた白い帽子を抱えて座っていた。白い、と表したが、どちらかというと汚れで薄い茶色っぽい。
その少女は目をぱちっと開き僕を見つめた。
「私マホ!よろしくね!」いきなり飛び出し、抱きついてくる少女を引き剥がし、たずねた。
「君は……誰?」知りたいのは名前じゃない。大きな段ボールから出てきた少女、わからないことだらけで困った。
マホ、と言ったか。その少女が段ボールから飛び出てきた時に落ちたであろう封筒を母が拾いあげ、中を読む。
母は驚きに満ちた表情で一歩後退り、こちらを向いていった。
「とりあえずご飯にしましょう、マホちゃんも一緒にね」
僕は状況が飲み込めずにいたが、素直に従うことにした。
カチャカチャとなる箸の音は声にかき消される。いつもの家族団欒の時間、夕食だ。しかしいつもとまるで違うのが、謎の少女の存在だった。
「マホはね、魔法が使えるの!」
そんな衝撃の一言から始まる食事が今まであっただろうか。いやない、世界中探してもない、断言する、ない。
「へえ、どんな?」母が尋ねる、流石に順応が早すぎないか?
「うーんとね!うーんとね……!」何かを思い出すかのように天井を見上げる。
「わかんない!」はっきりと、薄い胸を張って言う。そんな堂々とする場面じゃないと思うよ。
「そっか、わかんないか」母が笑いながら反応する。やっぱこの人順応速度早すぎるよな。
ちなみに僕は「はぁ」と腑抜けた声を出すことしかできなかった。
そのまま特に何事もなく……いや何事もありすぎたような気もするが、何事もなく、夕食は終わった。
僕が自分の部屋で、元々お父さんの書斎だったものを受け継いだ部屋で。飛行機の模型を眺めながら本を読んでいると、突然そいつは現れた。
「アイル!よっ!」ドアを蹴り破るかのごとく盛大な入場をかましたマホは、あたかもそこにいるのが当たり前というふうに、すぐにあぐらをかいて座った。
「アイル、何かやりたいことはない?悩みはない?マホはね、魔法が使えるの!」
「へえ、どんな?」何かを思い出すかのように天井を見つめる。
「空を飛ぶ魔法……とか?」わかんないんじゃ、ないのか。
「面白いじゃないか」本気でそう思った。僕も、飛びたい。人は無い物ねだりをする生き物だ。ちらりと飛行機の模型に再度目をやった。かなり精密にできているらしいが、小さくて僕にはよくわからない。
「やってみせてよ」僕の顔は思い切り、キラキラしていたと思う。非現実的なものに憧れを持つ年頃だ、何はともあれ、見たい、非常に見たい、浪漫がある。
「えっえと……そのお、へへっ!」目がオリンピックで優勝できるくらい華麗な泳ぎを見せたのち、笑って誤魔化された。
「できないんだな?」
「はひぃ、すびませむう」マホはその場にうつ伏せて言う。土下座させてるみたいな形だ。
「いや、謝らなくてもいいが。魔法、使えないのか」少し期待していた分、がっかりした。魔法や錬金術など、非科学的なものに興味を持つ年頃だから。
「そ、そんな目で見ないでえ!使える!魔法使えるから!だからマホのこと捨てないでえ!」飛びかかり、抱きついてくるマホを引き剥がす。んなペットみたいな、それに捨てるも何も僕にはどうしようもできん。母さんが決めることだ。
「魔法が使えるのは本当なんだな?」
マホはぶんぶんと首がはち切れそうになるほど振りまくる。
「へえ、どんな?」まあ、答えはわかっているが、わかっているが
「わかんない!」くそがよ。
「魔法を使える証拠は?」
一拍おいてマホは言った
「ない」と。
けれど
「調べれば使える」と。
そして、使うのではなく
「魔法を作る」と。
マホは魔法を作ることを専門にした魔女だと、いわれた。
僕たちは図書室に来ていた。閉館時間ギリギリだが、空を飛ぶために必要そうな情報を手当たり次第集めた。
鳥の図鑑、飛行機の仕組み、あと魔法の本など借りた本は多種多様。書斎に帰ってそれらを読む。
どうやら仕組みがわかれば魔法が作れるらしい。
「鳥の羽をはやしたりできないのか?」
「人間の体についても調べないとできないね」マホはニコニコでなんだかワクワクしている。段ボールに入っていた時抱えていた帽子は、魔法使い感溢れる大きなとんがり帽で、今マホは明らかにオーバーサイズなそれをかぶって鼻歌を奏でていた。
魔法を作るのは楽しい作業なのかもしれない。いいや、少なくとも僕はそう思っていた、楽しい作業だと。
「ヘリコプターと飛行機って、仕組み大体同じなんだ……これで飛べないかな?」
「アイルの腕とかにつけるとなると、やっぱり人間の体のについて調べないといけないよ」
うーんと、マホが頭をひねる。人体の仕組みを理解するとなると、ハードルがなかなか上がる気がする。いや、自分たちの体が参考になるかも?でもやっぱり難しそう。
「なあなあマホ」
「ん?」
僕たちは深く考えすぎていたのかもしれない
「仕組みが解ればいいんだよな?」
「うん、わかれば大体なんでも」
僕らは仕組みに囚われすぎていた、歯車に囚われすぎていた。歯車が噛み合い、行き着く結果に、答えは隠されていたんだ!
そう、浮力そのものを理解してしまえばいい!
格好つけてみたが「浮力」を理解するのは大変そうだ。浮力を生み出す仕組みに囚われすぎていたが、逆に仕組みはいい補助剤になっていたと思われる。歯車一つ一つが絡み合って結果にたどり着くわけで、歯車に着目していたのを、いきなり結果に着目してしまったら、一気に上下左右全部不明な状態になるだろう。
やっぱり着実に一歩ずつだ。一つ一つの構成パーツ、歯車から見るべきだ。
「浮力を発生させるのはこの形だよね」図鑑の飛行機の仕組みの部分を、羽を指差して言う。
「けどこの形を再現するなんて無理よね」
「そうだな、無理だ。でもどうやって浮力が発生するか解れば、再現できるんじゃないか?」
マホははっとしたようにこっちを向いた。しかしその後首を横に振る
「いやいや、それが、いやその方がきっと難しいでしょ?」それはそう。
しかし道は開いたし、共有もできた。あとは調べるだけだ。
あれから、1時間くらい経っただろうか。僕たちは家の前に立ち、実験することにした。向かい風、玄関から運び出した自転車にまたがる。普通に漕いだらなかなか進まないだろう。
浮力は下から上への力だ。じゃあそれを発生させるために必要なことは?
それすなわち、気圧の差だ。本質的には羽の形も関係ない!
下の気圧を上げ、上の気圧を下げる。そのための羽の機構、そしてその機構は。
空気を曲げる!
小さな飛行機模型から得られるものは大きかった。百聞は一見にしかずというやつだ。あれでテストをし、仕組みを理解した。
解れば出来る、大体なんでも。
「いくぞマホ!」
「りょおかい!」
僕が自転車を漕ぐと、まるで飛行機の羽がついてるかの如く機体が浮かび上がる。
目の前の空気が上下に曲がり、ふわあっと浮かび上がる。
「これが……魔法か」解れば出来る。空気だって曲げられる。これの応用で、台風だって起こせるかもしれない。
少なくとも、空を自由に飛びたいな、という全人類の希望は、ここで叶ったといえよう。いや、50センチほどしか浮き上がってないし、自由に空を飛んでいるとは言えないが。
しかし、可能性に満ち満ちた魔法の世界。僕は今日。そんな魔法の世界へ片足を突っ込んだ。
ガタンっと自転車が落下し僕も転ぶ。少しの間だったが、50センチだったが。
最高にワクワクした。浪漫を感じた。
「あはは、いい顔してるよ、アイル」はあはあと、息があがって、その台詞とは裏腹に、マホの顔色は全く優れていない。
「マホさ、今日めっちゃ楽しかったよ!」とびきりの笑顔を僕に見せたのち、マホはその場に倒れた。
「魔力切れです」マホの口から、さっきからの声とは明らかに違う、機械的な音声が流れた。
このまま起きないのではないかという不安が一瞬頭をよぎる。
僕はとりあえずマホを寝室に連れて行き、寝かせる。
家族が一人増えたということでいいのかな?
「とりあえず、これからよろしくな、マホ」
寝顔を見てると、不安は自然と消え去った。このまま起きないのではないかという考えはもう起きなかった。
この魔法使いと、明日は何をしようかと、それで頭がいっぱいだった。
お読みいただきありがとうございます
未熟者ですがよろしくお願い致します