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にんじゃ(笑)  作者: むらべ むらさき
2 初めての、ダンジョン探索!全然思うように、いかないんですけど!?
9/14

9 イレギュラー発生

 さて、黒蜜の初戦闘からしばらく時間が経ち、時刻は現在昼の3時を過ぎた頃。

 そろそろ成長期の女子高生の若いお腹が鳴り始める頃合いではあるが......黒蜜はいくつか【フトンの術】に関する検証を行った後、飽きることなく小鬼討伐を続けていた。

 そのペースは中々に速く、彼女のレベルは既に3。

 【フトンの術】に続く新たなスキルは覚えていないが、ステータスはそれなりに強化されていることを黒蜜は感じていた。


 今も。


「グゲッ!?」


 霧の向こうにいる小鬼の位置を足音で判別し、そこに運動靴を投擲。

 額に命中した運動靴の威力に小鬼がたまらず尻もちをつくと、間を置かずに駆け寄ってもう片方の運動靴でその脳天を打つ。


「グギャーーーーーーッ!?」


 これだけで、終いだ。

 小鬼は赤い靄と魔石に変じ、討伐完了である。

 感知能力も打撃力も、レベル1の頃と比べればかなり上昇している。

 この事実に自分の成長を実感した黒蜜は、覆面の下でニヤニヤした。




 しかし。




 黒蜜が目指す『忍者』は、鋼の戦士。

 きっと『忍者』は、この程度の成長で調子に乗ったりしない。


 だから黒蜜はぐっと口元をへの字に引っ張って、気を引き締めた。

 それに、こんな風に調子が良い時こそ、油断をしてはならないのだ。


 黒蜜は、『忍者』も好きだがラノベも好きだ。

 だからこそ、わかる。


 ラノベのテンプレ的には、そろそろ主人公がイレギュラーに巻きこまれる頃合いだ。

 例えば、強力なイレギュラー個体に遭遇したり、転移罠を踏んでダンジョン最下層へと飛ばされたり。

 そんな危機的事態と遭遇し、主人公は窮地に追いこまれてしまうのだ。


 多少強くなっただけでニヤつくような三下キャラでは、そのイレギュラーを乗り越えることは不可能だろう。

 そういう奴は......敵の強さをわかりやすく読者に伝えた後、その無惨な屍をダンジョンに晒すことになる。


 黒蜜は、主人公か?

 それとも、やられ役の三下キャラか?


 もちろん......主人公である。


 そう、あらねばならない。

 幸いなことに、黒蜜は自らを自らの人生の主人公として据えることができるのだから。




 ......さて、そんなことを考えていた、ちょうどその時だ。




 ドスンッ!!




 霧のすぐ向こうから、そんな重々しい足音と、凄まじく禍々しい気配が届いたのは!


 『ほらほらほら、来たぁ!!』と、黒蜜は思った。

 そして慌てて両手に運動靴を構え、すぐに動き出せるように少し腰を落とす!


 口コミサイトを使った事前調査によれば、この小鬼洞窟上層には、小鬼しか出現しないはずなのだ。

 それなのに、どうしたことだ、この圧倒的な威圧感!

 おそらく、こちらに近づいて来たのは、上層ボス並みの力量を持つイレギュラー個体に違いない!

 きっと、“中鬼”......いや、中層以降に出現するという“大鬼”だ!

 大鬼クラスの魔物が現れたに、違いない!


 黒蜜は口コミサイトとラノベから得た知識をもとに敵の正体にあたりをつけ、冷や汗を流した。


 勝てるのか......?

 いや、勝つのだ!

 霧で見通せないが、恐ろしい気配の持ち主とは、もはやそれ程距離が離れていない。

 きっと、逃がしてはくれないだろう......。


 それならば、戦う!

 戦って、神の試練に、打ち勝つのだ!


 黒蜜は歯をガチガチと鳴らしながら、それでも蛮勇を振り絞り、覆面の下の瞳に闘志を燃やした!




 ドスン、ドスン、ドスン......!!




 ゆっくり、ゆっくりと。

 足音は、黒蜜に近づいてくる。

 同時に禍々しい気配はさらに強まり、少しでも気を抜けば、ビギナー探索者である黒蜜はその気配を浴びているだけで、意識すら失ってしまうだろう!


 しかし、負けない!

 鋼の戦士『忍者』を目指す『にんじゃ(笑)』は、歯を食いしばった!


 大鬼が......大鬼が、なんだって言うんだ!




 ドスン、ドスン、ドスン......!!




 そしてついに!

 足音の主が霧をかきわけ、黒蜜の前にその姿を現した!


 それは!


 その、魔物は!




 2メートルを優に超える全身を、漆黒の甲冑で包み!

 血で染まったかの如く真っ赤な、それでいてボロボロのマントをはためかせ!

 髑髏をモチーフにした兜で顔面を覆った、その魔物は!




「グオオ......我ハ、『疾速の魔王』......!世界、滅ボス......!!」




 低く、恐ろしい声で......そう、のたまったのだ!




 魔王かよ!?


 大鬼どころの話じゃないよ!?


 『世界、滅ボス』じゃないよ!?




 ......マジで、どうすれと!?




 黒蜜は内心では頭を抱えて転げまわりジタバタと暴れまくりながら、運動靴をぎゅっと握りしめた......!




 あ、でも、もしかしたら......実はこの魔王、本当は良い奴で、条件さえ満たせば仲間になる展開とか、あったりして......!?




「マズハ、貴様ヲ......血祭ニ、アゲル......!!理由ハ、楽シソウ、ダカラダ......!!」




 だめだ、こいつきっと純粋に人類の敵......!!

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