2 ロール授与の儀
<<<お主がこれより演ずべきロールは......『戦士』だ!>>>
「うおーーーッ!やったぜッ!」
<<<お主がこれより演ずべきロールは......『魔法薬職人』だ!>>>
「やった、生産職!私ダンジョン潜る自信もないし、良かった!」
新入生たちは列をなしてステージに登り、そこでロール神官の持つロール水晶に手を当て......それを光らせる。
その光こそが、ロール神の福音である。
その光は水晶から飛び出ると空中で一塊になり、宙に浮かぶ文字を形作るのだ。
そして、その文字に記されたものこそが......ロール!
その文字が表示された瞬間に、彼ら彼女らはそれぞれの適正にあった“ロール”、即ち“役割”が与えられた“演者”となり、授けられたステータスやスキルと共に、新たな人生を歩み始める。
ロール授与の儀とは、太古の昔から、人類が脈々と受け継いできた、秘術であり......世界設定に裏打ちされた、『高校デビュー』なのだ!
ちなみに、高校に入学しない場合も、お近くの行政機関やダンジョンの入り口にお越しいただくことでいつでもロール授与の儀を受けられるので、ご安心ください。
「どう、どう?ステータス画面、見えた?」
「ちょ、オレ『斥候』とか、できる気がしないんですけどー!?」
「グオオ......世界、滅ボス......!!」
新入生たちは、新たな人生のスタートに大興奮だ!
既にロールを授けられた者たちは、自身のロールやスキルを友達に教え合い、わいわい楽し気に騒いでいる。
儀式を受けるため列に並ぶ者たちも、皆期待に胸を高鳴らせ、笑顔だ。
とにかく入学式会場は熱気と興奮に包まれ、騒然とした有様だった。
体育館の隅に一列に並ぶ教職員たちも、それを叱るでもなく、ニコニコと見守っている。
だが、しかし。
そんな、賑やかな会場の中、ただ一人。
静かに、沈黙を続け......未だにロール授与の列に並ばず、パイプ椅子に座り続ける女子生徒が、いた。
その生徒が“女子生徒”だと断定できる理由......それは彼女が着こむ制服が、黒いセーラー服であるからだ。
......そしてこの、なんだか妙な描写をする理由。
それは......彼女が黒いスカーフを用いた覆面をしていて、顔全体を隠しているからに他ならない。
顔つきから、性別を判断できないのだ。
艶々と黒く輝く前髪が漏れてはいるが、彼女の容貌についてはそれ以外の情報を、得ることができない。
彼女がどんな顔つきをしているのか......周囲の新入生たちは、誰一人として覗き見ることはできないのだ。
というか、明らかに変な奴なので、ほとんどの新入生たちは彼女から距離を置いていた。
この女子生徒は......何故このような恰好をしているのか?
同学年の仲間達に対する、これから始まる三年間のファーストインパクトをドブに投げ捨ててまで、何を求めているのか?
その答えは......彼女が得たいと希っている、ロールにこそ、ある。
彼女は......この二話目にしてようやく登場したこの物語の主人公、影山黒蜜は。
......『忍者』に、なりたかったのだ。
◇ ◇ ◇
どうすれば、自分がなりたいロールを、授かることができるのか。
この問いに対する完全な解を、人類は未だ得ていない。
しかし、ロール授与の儀を受ける前の行動に気を配る事で、ある程度望んだジャンルのロールを授かる“傾向がある”......とは、言われている。
例えば、日ごろから力仕事をしている者は『戦士』などのロールを授かりやすいし。
熱心に勉学に励んでいた者は『学者』などのロールを授かりやすい。
ただし、割と例外も多いのが困りものではあるのだが......。
とにかくそういう知識がこの世界には常識として根付いているため、『忍者』になりたかった黒蜜は、常日頃から“忍者っぽい行動”をとり続けていた。
例えば、忍者は容易く正体を明かさないと思うので、顔は完全にスカーフによる覆面で隠す。
戦闘に耐えうる体力を身に着けるため、自由に使える時間はほぼ全てを体づくりのためのトレーニングに費やし。
パルクールやボルタリングの訓練を行い。
筍の上を飛び跳ね。
休日にキャッチボールをする親子の子どもといつの間にかすり替わって、キャッチボールをしながら投擲技術の向上に努め。
常に気配を消し、誰とも話さない(ただし、恰好が恰好なので、かなり目立つ)。
そんな行動を、とり続けてきた。
......小学校入学以前からだ!
憧れの......『忍者』へと、至るために......!
「えー、他にまだ、ロール授与の儀をまだ受けていない新入生の方は、えー、お早めに列へと並びください」
概ねの新入生が各々のロールを授かり、儀式を受けるための列がかなり短くなったその時、ついに黒蜜は立ちあがった。
そして、音もなくステージ上へと登壇し、列の最後尾に並ぶ。
彼女がここまで動かなかった理由......それは、目立たないためだ。
儀式を受けるのが後ろになればなるほど、他の生徒たちは自身のステータスやスキル確認に夢中になるため、目立たない。
『忍者』は、目立ってはいけない。
それが、影山黒蜜の考えだった。
しかしその実、スカーフの覆面で顔を完全に隠している黒蜜は、かなり目立っていた。
さらには、パイプ椅子から立ちあがる事で周囲の生徒はその事実に気づいたのだが......この黒蜜、背中にテープで、段ボールでできたお手製忍者刀をはりつけている......!
(((((なんだコイツ......!?)))))
多くの新入生たちは、驚愕と共に黒蜜に注目した。
(((((迂闊に触らんとこ......)))))
しかし同時にそうも思ったので、誰も黒蜜には声をかけなかった。
だから黒蜜は、『自分は忍べている』という勘違いを、正せなかった。
◇ ◇ ◇
<<<次の者......前へ!>>>
黒蜜の脳内に、ロール神官から【念話】が届く。
無言のまま前に進み出た覆面女子高生を見てロール神官は内心で動揺したが、豊富な人生経験でもってその精神を凪へと抑えこんだ。
<<<さァ......ロール水晶へ、手をかざすが良い>>>
そして忠実に職務を遂行する。
黒蜜はその【念話】に従い、ソフトボール大の水晶へ手をかざした。
すると......次の瞬間!
「「「「「!!!」」」」」
ロール水晶が、本日一番の輝きを見せる!
大量の光が放出され、ステージ上に......文字を、形作っていく!
<<<こッ、これはァッ!?>>>
さすがのロール神官も、驚愕を隠しきれない!
これ程のレア演出......彼の長いロール神官人生においても、見たことがない!
そして......ステージ上に満ち溢れていた光が、おさまる。
影山黒蜜の、ロールが決定したのだ。
ステージ上には、その時。
この会場にお集まりの新入生、保護者、教職員、来賓の皆様全てが視認できるような巨大な文字で、影山黒蜜のロールが記されていた。
そこには......こう、書かれていたのだ。
『にんじゃ(笑)』......と!
主人公出ました!
名前は“かげやまくろみつ”と読みます。
物語が......始まる!