1 私立どんぶり高等学校入学式
「......ですので、新入生の皆さん!どんどん、挑戦してください!私たち、私立どんぶり高等学校の教職員一同......全員が!あなた方の挑戦を、全力でサポートします!以上ッ!」
......まだまだ肌寒い四月の体育館に響く、実に熱のこもったスピーチが終わった。
やけに日焼けしていて歯が不自然に白い、髪形がオールバックでノーネクタイなイケオジ校長先生の、入学式における式辞だ。
割と聞きごたえのある内容だったので、この日どんぶり高校に初登校したおおよそ300名の一年生たちは、割と強めの拍手を送った。
「ブラボー!!」
「アンコール!アンコール!」
教職員やご来賓の皆様からも、歓声があがる!
......しかし、しっかりと拍手はすれども、だ。
新入生たちはその実、気もそぞろなのだった。
その後に続く、涙を誘うPTA会長祝辞、そして緊迫感をはらんだ血まみれの生徒会長挨拶。
いずれも、新入生たちは集中して話を聞くことはできなかった。
......これは、彼らが不真面目であるということを、意味していない。
しょうがないのだ。
だってこれは、人生に一度しかない高校の入学式であり......。
この後。
彼ら、彼女らの人生を左右する......一大イベントが、待ち構えているのだから。
◇ ◇ ◇
「えー、富阪生徒会長、ありがとうございました。救護班は可及的速やかに、生徒会長を保健室へとお運びください」
司会を務める、校長先生に比べると地味で個性のない教頭先生が、保健委員に担架で運ばれる生徒会長には目もくれず、原稿をガン見しながら式典を進行する。
いよいよだ。
新入生たちは、各自に配られた式次第を血走った目で見つめ、手のひらににじむ汗を真新しい学生服でぬぐう。
いよいよなのだ。
「えー、それでは、えー、いよいよ次のプログラムで、えー、本式典も終了であります」
窓から差し込む日の光で眼鏡を真っ白に光らせながら、教頭先生はそこまで原稿を読み終え......息を深く吸った。
そして!
「ロール神官......入場ォーーーーーーッ!!!」
突然、絶叫した!
「「「「「うおおーーーーーーッ!!!」」」」」
新入生たちも、その絶叫に応じて雄たけびをあげ、パイプ椅子から跳ねるように立ちあがり、拳を高く掲げる!
すると、どうしたことか!
突然体育館の窓全てに漆黒のカーテンが閉められ、室内の照明が全て落ちる!
そして......そして!
ステージ中央のみがスポットライトに照らされ、周囲に超自然のスモークが漂い始めた!
<<<待たせたな、どんぶり高校の新入生諸君......!>>>
その時だ。
突然新入生たちの脳内に、成人男性の声が響いた。
【念話】だ!
それと同時に、ゴゴゴゴ......という低い音と共に、ステージ上に丸い穴が開き。
そこから......台がせり上がり始めた。
その台の上にいる、全身真っ白な装束を来た髭の男こそが、【念話】の発話者であり......。
先程教頭先生から紹介のあった......そして新入生たちが、今か今かと待ち構えていた......ロール神官、その人である!
<<<さて、今さらワシが野暮な挨拶をする必要も、ねぇだろう......心の準備は、良いな?>>>
足場の台がステージ上の演台よりも高くなったその時。
その神官は高く飛び跳ねて空中で三回転宙返りをしてからステージ上に降り立ち、そう、新入生に向かって語りかけた。
そして。
<<<さぁ......“ロール授与の儀”が、始まるぜェーーーーーーッ!!!>>>
ロール神官が、そう宣言した、その時!
「「「「「うおおーーーーーーッ!!!」」」」」
新入生たちは再び沸き立ち、再度放たれた集団大絶叫は......体育館のカーテンを吹き飛ばして、ついでに窓ガラスを全部割った!
高校の入学式って、ちょっとどんなだったか覚えてないんですけど、多分こんな感じですよね。