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エピローグ

 あれから、七年。


 オスワルトは春の国。今日も穏やかな太陽が、国民たちの活気あふれる生活を見守ってくれていた。


 王宮の中庭に設置されている白い屋根の東屋で、ハンナはナーヤの入れてくれたお茶をゆったりと楽しんでいた。


 虹色の花の絨毯の上で、愛する夫と三歳になるかわいい娘アンジェラが楽しそうにじゃれ合っている。


 その奥ではハーディーラとルミエルネがもはや恒例になった口喧嘩を繰り広げていた。


(幸福、を絵に描いたような毎日だわ)


 恐れ多くなるほどの幸せな日々を、ハンナは神に感謝して噛み締める。


「それにしても……王妃さまの美しさは羨ましいかぎりです」


 隣に控えていたナーヤがハンナを見つめて、しみじみと言った。


「え?」

「年々、あでやかさを増していて、同性の私でも見惚れてしまいますわ」


 ハンナはふふっと口元を緩ませ、ナーヤに秘密を打ち明けた。


「エリーは魅了魔法も得意分野だから。別に頼んではいないのだけど、一緒にいるとなにか影響を受けるのかもしれないわ」


「えぇ? そんな素晴らしい魔法があるなら私にもかけていただきたいです! ついでに、この邪魔で仕方のないお肉も消し去ってくれないでしょうか?」


 ナーヤは自分のおなかをムニッとつまみ、憎らしそうにそこをにらんだ。


 たしかに……初めて会ったときよりさらにひと回りほど、彼女の身体は成長したように思う。頼りがいと包容力も比例するように増しているので、ハンナにとってはありがたいことだったが。


ナーヤはハンナをチラリと見て、小さくため息をつく。


「う~ん、でもやっぱり魔法の力だけではないですよね。王妃さまは私みたいに、朝からステーキを三枚食べたり、夜中にケーキ食べ放題パーティーを開いたり、していませんものね」

「ナーヤ。それは私だけではなく、世のほとんどの女性がしていないと思うわ」


 クスクスと笑い合うふたりの背中に「お母さま!」という元気な声が届く。


 王宮の正殿のほうから、こちらに向かって少年が駆けてくる。アンジェラの兄、エヴァンはもう六歳になった。


「おかえり、エヴァン」


 家庭教師による授業が終わったのだろう。


「お母さま。見て、これ。僕が魔法で咲かせた花だよ」


 エヴァンは背中に隠していた小さな花束をハンナに差し出す。


 深紅と白の二色の花びらが美しい、大輪の花だ。


「世界で一番美しいお母さまに、よく似合うと思って。もらってくれる?」

「もちろんよ。ありがとう」


 ハンナが頭を撫でると、彼はエリオットにそっくりな笑顔を見せてくれる。


 彼は父親によく似て、成績優秀で魔力にも秀でていた。


 困った点は……ややマザコンの度が過ぎている点くらいだろうか。


 彼は庭で咲き誇る虹色の花に目をやり、不満そうに眉をひそめた。


「お父さまの虹色の花は少し下品だと思うんだ。お母さまには僕の花のほうがずっと似合うよ!」


 言って、エヴァンは自分の花をハンナの髪に飾ってくれる。


「ありがとう。似合うかしら?」

「もちろん! だって、お母さまのための花だからね」


 少々母愛が強すぎるが、鼻高々にしている息子があまりにも愛らしくて、ハンナはふふっと頬を緩めた。


「そうそう。僕ね、魔法の才能があるって先生に褒められたよ。きっとお母さまに似たんだろうって」

「そうね。エヴァンの魔法は本当にすごいわ。将来が楽しみ!」

「絶対に六大精霊使いになるよ。だって叶えたい夢があるから」


 エヴァンは両手を大きく広げ、瞳をキラキラと輝かせた。


「まぁ。なにかしら?」


 かわいい息子の無邪気な夢を楽しみにしていたのに、エヴァンはそのかわいい顔に邪悪な笑みを浮かべる。


「それは当然、お父さまを消すことさ。僕が六大精霊使い、そして立派な王になれば、あの人はもう不要だろう。お母さまには、僕がいれば十分だと思うし……」

「聞こえてるぞ、エヴァン」


 後ろ暗い計画を語るエヴァンの首根っこを、エリオットがつまみあげる。


「仮にも父親に対して、冗談でもそんな発言は――」


 父親らしく真面目に説教をしようとした彼を遮って、エヴァンはベ~と舌を出す。


「僕は本気だからね! 覚悟しておいてよ」


 呆れてものが言えなくなっているエリオットの後ろで、ハーディーラとルミエルネがクスクスと笑っている。


「父親そっくりだな」

「アンジェラも大変ねぇ。こんな父と兄で。困ったときは私が助けてあげるからね!」


 ルミエルネに抱き締められたアンジェラはキョトンと小首をかしげている。


 エリオットはハンナの隣に腰をおろして、ぼやく。


「君を巡るライバルは手強くなる一方だな。消されないよう、私も精進せねば」


 真剣に表情を引き締めるエリオットがおかしくて、ハンナはぷっと噴き出す。


「私は世界一、幸せな妻。そして世界一、幸せな母にもなれました。――エリオットさまの愛のおかげです」


 甘やかな声でささやいて、ハンナはそっとエリオットの頬に唇を寄せた。


                                                                                         END




 

 

 

  

 

 





完結です!

最後までお付き合いくださった方、本当にありがとうございました。

あと少しで150ポイント達成なのでブクマ、下にある評価欄に☆を入れてもらえたら嬉しいです。

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