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耳かき

 放課後、ハーレム部部室。


「あらあら、困ったわね」


 ソファーに座り、耳かきを手に持ったゆらぎが、困ったように顔に手をやる。ゆらぎの太ももの上にはシソジロウの頭がある。シソジロウはニヤリと笑いながら、争いの中心を見ている。

 今回の争いのもとはシソジロウの耳かきをする権利についてだった。いつも、ゆらぎがシソジロウに頼まれてやっているこのお手入れに、ハーレムの一部の部員たちから不満が出たのだ。耳かき。それは、シソジロウと仲睦まじく密着できるチャンスである。

 そして、今回特に食いついて来たのはこの二名だった。


「わたしがする!」

「ボ、ボクにやらせてください」

「えー!港ちゃん、後輩は先輩をうやら、うやや……?」


 そこまで言ったものの、炉々子の視線は空中をさまよう。パイプ椅子に座り、優雅に紅茶を飲む天が口を出す。


「敬うよ」

「そう!うやまうべきだと思うよ、港ちゃん!」


 舌をもつれさせながら、なんとか言葉を口から出した炉々子。パイプ椅子から立ち上がり、どや顔をしている。天はすかさずツッコミを入れた。


「身の丈に合わない言葉を使おうとするからなかなか出てこないのよ」

「そっか~難しい言葉が話せないのはわたしの背がちっちゃいからだったんだね」

「一体どんな勘違いをしているのかしら、この幼児は」


 安心したように頷いている炉々子に天は小馬鹿にしたように、くいっと口の端をつり上げた。港はパイプ椅子に座りながら、思い詰めた表情をし手を握りしめると呟く。


「そう言われても、これだけは譲れません」


 炉々子は困ったように腕を組む。港もなかなかに頑なだ。お互いに譲れないものがあるのだろう。シソジロウはくぁっとあくびをすると二人に言う。


「別に、天にしてもらってもいいんだぞ」


 驚いたようにシソジロウを向く炉々子と港。天は眉をひそめながら、無言を貫く。何も反論を言わないということはまんざらでもないらしい。

 炉々子は焦ったように拳を振り上げると、港に言った。


「それじゃあ、じゃんけんで決めよう!」

「は、はい!」

「「じゃーんけーん……」」


 ぽん。と手を出した時だった。結果は二つのパーに、チョキ。驚いたように三人目の人物を見つめる炉々子と港。無表情で手をチョキにしているのは……天だった。小さく目を細めると、パイプ椅子から立ち上がる天。


「私の勝ちね」

「ふぇーん!ゆらぎちゃーん!」

「そ、そんな……」


 ゆらぎに泣きつく炉々子と呆然とする港。そんな時だった。部室の扉ががらりと開く。


「ただいま……っと。うわぁ、なんかそーぜつだね」


 しくしくと泣く炉々子や悲しげにうなだれる港を見て苦笑する雪花。シソジロウは天に膝枕をされながら楽しげに言う。


「うん、お前の太もも、なかなか良いな。天。あーでも、こっからの景色はゆらぎの方がダイナミックだったな」

「そう。お望みなら、その余計なことしか言わない口にコレを突っ込むけど?」

「ははは、怒るなよ」


 雪花はソファーの前に立つと、シソジロウたちを見下ろす。口調は明るかったが、その目は笑っていなかった。


「ふーん、てっちゃんが耳かきかぁ。ずいぶん楽しそうなことやってるんだね?」

「だろ?お前もやりたいんだろ、雪花」

「うん、やりたいな」


 すると、天と雪花の視線はかち合い、ばちばちと見えない火花を散らす。


「少しは遠慮するということを覚えたらどうかしら?」

「うん、そーだね。てっちゃんも譲り合いという言葉を覚えるといいよ」


 自身の頭上で行われている冷たいやりとりを聞きながら、シソジロウは楽しげに笑うと、呟いた。


「ふー、やれやれだぜ」


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