美少女たちの運動会
秋の高い空の下。
紫蘇高校のグラウンドでは美少女たちがラインの引かれた地面に立ち、真剣な表情で前をにらみ付けている。
雪花が首からぶら下げた笛を手に持ち、美少女たちに言った。
「はい、それじゃあ位置について。よーい、どん」
鳴り響く笛の音。駆け出す美少女たち。
一番になったのはもっとも運動神経の良い天ではなく……港だった。
ゴールで微笑むシソジロウは、キョロキョロとする港の肩を叩く。
「一番だぞ、港」
「えっ!本当ですか!」
そういわれた港は、巻かれていた『目隠し』をとるのだった。
美少女たちがやっていたのは、目隠し徒競走だったのだ。
その他、参加者たちはというと――。
「あらあら、どちら様でしょうか?」
「あはは、ゆらっちゃん。あたしだよ」
「なんにも見えないー!怖いよー!」
「ちょっと!離しなさい!」
目隠しをされたゆらぎはスタート地点の雪花の顔を不思議そうに撫でているし、同じく目隠しをした炉々子は天にしがみつき、結果天のズボンがおちそうになり走る所ではなくなっているのだった。
港は苦笑して、言う。
「ええっと、ボクでも一番になれて嬉しいです」
この目隠し徒競走は、大抵の競技を普通にやらせれば、天が一番になるのは目に見えているので、シソジロウが考案した特別競技であった。ちなみに港と炉々子の運動神経はわりと悪く、ゆらぎはわりと良い方であった。別格なのは天で、雪花も運動神経はかなり良かったが、足の故障の影響で足に違和感が残っているのである。
もちろんこの目隠し徒競走もハーレム部の活動であり、これらの競技はハーレム部限定の『運動の秋!美少女だけの運動会』の一部だった。ちなみに紫蘇高校の体育祭は春に行われている。
グラウンドは貸し切りにしてこの行事は行われる。秋の大会シーズンで外せないこの時期に、こんな天災のような出来事を運動部たちは、雨か槍が降ったものとして諦めているのだった。
シソジロウ考案の競技は、他にも色々とあり……本日だけでもかなりやらされたのだった。
そんなこんな休憩時間となり、ハーレム部員たちは屋上にいくとレジャーシートの引いてある、水筒やらバスケットなどが置かれた場所に座るのだった。側で控えていた例の、高齢の用務員に声をかけるシソジロウ。
「後で片付けしとけよ」
雪花と港がにこやかに言葉を交わす。
「うーん、涼しいや」
「もうすっかり秋ですね」
ゆらぎはバスケットを持つとハーレム部員たちに声をかける。
炉々子は楽しげにゆらぎにたずねる。
「ゆらぎちゃん、それなぁに?」
「ふふ、おやつです」
そういうと、バスケットを開けるゆらぎ。中には、クッキーやマフィンなど、様々な甘いお菓子が詰め込まれていた。天は少し眉をひそめて呟く。
「運動後にこんな甘い物を食べるの?物好きね」
「すみません。実は作りすぎてしまったお菓子を持ってきたんです」
「私たちは残飯処理の豚あつかいというわけ?ふーん」
「わたしは豚さんでぜんぜん良いよ!美味しそう!ぶひぶひ!」
ゆらぎは苦笑すると皆にお菓子をすすめる。美少女たちは、にこやかにお菓子をつまむのであった。甘い物好きで、アップルパイを嬉しそうに頬張る港に天は皮肉げに言う。
「あまり食べ過ぎると本物の豚になるわよ」
「むぐっ!!」
「まぁ、食欲の秋とも言うしな」
甘いおやつタイムはこうして、過ぎ去っていったのだった。
美少女たちはその後、様々なスポーツに励み、あっという間に、時刻は夕刻になっていた。本物の体育祭とは違い、どこかゆるい雰囲気があるとはいえ、美少女たちは本気で挑んだので汗だくであった。
「みんな、よく頑張ったな」
そうして、シソジロウは美少女たちに運動会の成績の結果発表をする。
優勝者は――ゆらぎであった。ゆらぎ以外の美少女たちが悔しげになる。
今回の優勝景品は、読書の秋ということでシソジロウの誕生時から現在までの写真が集められた写真集であった。
「あー、いいなぁ。赤ちゃんのしそっちゃん」
「……今度、貸しなさい」
羨望の眼差しで見られながら、写真集を受け取るゆらぎ。ひどく曖昧な微笑みを浮かべていたのだった。
◆◆◆
「これで最後っと……」
「クッ、私がビリから二番目なんて……屈辱だわ」
「あはは、てっちゃん。どんまいどんまい」
ワースト1、2の雪花と天は競技で使った競技用具をしまいに来たのだった。今日は運動会で体力を使ったため、皆で片付けなどということはなく、その他の成績の者はすでに帰宅についている。
これは一種の罰ゲームということだった。ハーレム部は意外と厳しいのだ。
二人がそうして、片付けをしている最中だった。
後ろの扉が急に閉まったのだ。慌てて、扉を振り返る二人。
「ちょっと!!まだ中にいるわよ!!」
だが、そんな叫びが聞こえていないように扉に鍵がかけられる。
扉をどんどんと叩く二人。
「開けてよっ!開けてっ!」
だが、足音はどんどん遠ざかっていく。
雪花と天は顔を見合わせるのだった。
「……行っちゃったね」
「……はぁ、よりによってあなたと閉じ込められるなんて」
「あは。たしかにてっちゃんと一緒だったら思いっきり喧嘩になりそうだよねぇ」
「人ごとみたいに……まったく」
天は体育マットの上に座ると、顔をしかめる。
「ほんと、嫌なニオイ」
「そう?あたしは嫌いじゃないかなー。なんか、運動するぞって気分になって」
「……素晴らしい感性をお持ちね」
「あはは、よく言われるー」
欠片も思っていなさそうに言う天。雪花も、体育マットの端に座るのだった。
雪花は天に様々な話をふる。天は愛想なく返事を返していき、最終的に食いついた話題がコレであった。
「しそっちゃんってさぁ、実はうなじフェチだと思うんだよねぇ」
「ふん、なによ。うなじって」
天は興味がなさげな態度を装っているが、無視しない時点で実際にどう思っているかはあきらかだ。
「ほら?良くあたしって、みんなの髪くくって遊ぶよね?そういう時、しそっちゃん微妙に機嫌良いって言うか。あたしが今日、髪くくってて、視線感じるなーって思ったらしそっちゃんいたし」
「……ふん。それだけじゃ、どうだか分からないじゃない」
「あたしの勘はけっこー当たるよ?」
「確定とは言えないわ」
そういいながらも、天は自身の髪を触るのだった。
そんな中、くしゅんと雪花がくしゃみをする。寒そうに己の肩をさするのだった。
「あー、寒い。室内とはいえ、冷えるんだねぇ」
「…………」
「てっちゃん、そっち行ってもいい?」
「別に、構わないけど」
「ありがと、てっちゃん」
にこやかに微笑みながら、天の隣に座る雪花。体育倉庫内は真っ暗だったが、目が慣れてきた二人にはそこそこ見えるのだった。窓から月の明かりが倉庫内に入ってくる。天が寒そうに手に息をふきかけた。雪花はそんな天の手を握る。天は怪訝に雪花を見た。
「なに?」
「あのさぁ。ここって、結構寒いよね?風邪、ひいちゃうといけないからさ……」
雪花はにっこりと笑った。
「暖めあわない?二人で」
「は?馬鹿じゃないの?」
天は真っ赤になった。雪花は優しく微笑むと天をマットに押し倒す。
「ちょっ、ちょっと……!」
天は口ではそういうものの、何故かあまり抵抗をしないのだった。
……こういう時の雪花には、なにか魔性の魅力があるのかも知れない。
「はいはい、脱いじゃお脱いじゃお」
雪花は天の服を脱がせると、自身の服も脱ぐ。
暗闇の中、下着姿になる二人。美しい白い肌が月明かりに照らされる。
そのまま抱き合うと雪花は幸せそうに笑うのだった。
「あー、暖かい」
「……これは、緊急事態だからしてるだけ、そうよ」
「そうそう、仕方ないよねぇ」
ブツブツとつぶやく天に調子をあわせる雪花。
天は、眉をつり上げると雪花に言う。
「もう充分暖まったわ。離れましょう」
「えー、もうちょっと……寒いし」
「なによ、離れなさいよ」
「ふふ、やだー」
そんな時だった。
体育倉庫の扉が開き、二人に光が差した。
「「えっ」」
雪花と天の驚く声が響く。
扉の前に立っていたのは……シソジロウだった。
シソジロウは口笛をふくと、にやりと笑う。
「おいおい、俺も混ぜてくれよ」
かあああと赤面する雪花と天。
二人はシソジロウに向かって叫びながら、服を投げつける。シソジロウはそれを軽々避けると笑いながら、きびすをかえすのだった。




