心配
文化祭当日。屋上。
シソジロウは屋上から、文化祭の賑わいを眺めていた。ちなみに、屋上はいつもは生徒に解放されているが、文化祭では関係者以外立ち入り禁止……ということになっている。関係者とはすなわち、ハーレム部員たちである。
美少女たちは、現在、クラスの友人たちと思い思いに文化祭を楽しんでいるはずだ。まぁ、中には一人でいる者もいるかも知れないが。……天とか。
ハーレム部の開いたメイド喫茶は、千円を握りしめた生徒たちが長蛇の列を作り、あっという間に品物が売り切れてしまったのだ。なので、午前中から、美少女たちは文化祭を遊ぶ側に回っているというわけである。
シソジロウにとって、文化祭とは、普段美少女たちと触れあうことの出来ない一般生徒たちに、美少女を見せびらかす……もとい、美少女たちと接する機会を与えるのが文化祭という日であったので、今日は美少女たちと遊ぶことはしないのであった。
シソジロウは燕尾服の襟をゆるめると、小さく笑う。
そんな時だった。屋上の扉が開いたのだ。
ん?と不思議そうに振り返るシソジロウ。
そこに立っていたのは、わたあめやら焼きそばやらを持った炉々子だった。メイド喫茶のなごりで、メイド服を着ているのだった。
「あっ、シソジロウいたー!」
炉々子は嬉しそうにそういうと、シソジロウに向かって駆け寄ってくる。シソジロウはやれやれと笑うと、炉々子にたずねる。
「他のクラスメイトたちはどうしたんだ?」
「うん。わたし、迷子になっちゃったのかも!」
そういう炉々子に仕方ないといった感じで席をすすめるシソジロウ。
テーブルの前にある椅子に座る炉々子。ちなみにこれは例の用務員に屋上まで運ばせたものだ。
炉々子は美味しそうにわたあめを頬張りながら、文化祭で起きたことを語り始める。雪花が射的でお菓子を当てたこと。天はさっさとグループから抜けて行ってしまったこと。迷子になってしまったこと。
……そして。
「ゆらぎちゃんがね、お客さんと写真を撮ってたんだぁ」
メイド服を着たゆらぎとの写真撮影コーナーは、そんじょそこらの模擬店よりもすごい列になっていたらしい。
ゆらぎは律儀に、無償で客たちと写真に写っていたそうだ。炉々子も客に、写真をせびられ、しばらく撮られていたそうだがその内あきて、ゆらぎも誘って出て行こうとしたのだが、ゆらぎは苦笑して「もう少しだけここにいます」と言ったのだという。
シソジロウはそれを聞くと、目を伏せた。
客が生徒のもとに殺到するなど、そんなことになれば、教師や風紀委員が黙っていないはずだが、シソジロウ絡みのことに巻き込まれたくなかったため、あえて見て見ぬふりをしたのだろう。
だが、話はそれで終わりではなかった。炉々子がクラスメイトたちと合流したり、迷子になったりを繰り返しながら、迷子になったタイミングで数時間後に、再び、同じ場所に行くと、ゆらぎはまだ写真を撮られていたのだ。炉々子がゆらぎに声をかけようとしたその時だった。ゆらぎを囲む輪の中から、刺々しい銀色に染めた髪をした少年が、ゆらぎを引っ張っていったのだそうだ。
それを耳にしたシソジロウの瞳がきらりと光る。
炉々子はわたあめの棒をしゃぶりながら続きを話す。
そして、少年がずんずんと歩いて行くものだから、炉々子は声をかけられず、ゆらぎたちは最終的に立ち入り禁止の非常階段へと入っていったのだという。炉々子が非常階段前へたどり着いた時、ちょうど少年は、炉々子に気付かずにどこかへ行ったそうだ。
「非常階段の中に入ったら、ゆらぎちゃんがいてね。さっきの男の子は誰かって聞いたら、この前の交通事故の命の恩人だって言ったんだぁ」
そうして、炉々子はゆらぎが少しぼーっとしていたので、お腹が減ったのだと思い、なにかを買ってくると言い残し、買い物に行って非常階段に戻ったところ、中には誰もおらず、驚いたのだという。
「ゆらぎちゃん、どうしたのかなぁ」
普段ゆらぎが約束を破ることなどなかったので、よほどの事情があったのかも知れないとも炉々子は言う。
炉々子はそこまで話終えると、にっこりと笑った。
「でも、シソジロウがいて良かった!一緒に焼きそば食べよっ!」
シソジロウは、炉々子の世話を焼きながら、文化祭で賑わう下を見下ろす。
そして、不敵に笑ったのだった。




