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物木勇と美少女3

 蒸し暑さと秋らしい涼しさが交わる季節。時刻は昼を大分過ぎたあたり。


 すっかりお祭りモードの紫蘇高校では、学校内を楽しげな学生たちや、客が行き交っていた。

 いたるところにさまざまな模擬店が立ち、活気であふれている。


 勇は、学校内を歩きながら、物珍しそうに楽しげな学生たちの様子を眺めていた。勇の通っている宜敷高校には、生徒達のやる気が皆無なため、文化祭はないからだ。

 中学時代にも文化祭があったとはいえ、準備はもちろん、当日の登校すらほぼサボっていた勇には無縁な行事だったのだ。

 今日、勇は紫蘇高校の文化祭へ一人でやってきた。その理由は、ゆらぎに誘われたからだった。あれから勇は二、三度ゆらぎに会いに喫茶店を訪れていたのだが、その内、ゆらぎに文化祭に誘われたのだった。ゆらぎは、メイド喫茶をするのだと言っていたが。

 ふと、たこ焼き屋の看板が目に入る。そういえば、ゆいかの高校の文化祭は今日だと言っていたような。……まぁ、どうでもいいか。とはいえ、たこ焼きは食べたい気分だったので、たこ焼きを買う。たこ焼きが出来るのを待っている間だった。後ろで列を作っていた男性客たちの話し声が聞こえてきた。


「なぁ、知ってるか?この高校、選りすぐりの美少女を囲って、ハーレム作ってるヤツがいるらしいぞ」

「けしからんなぁ。うらやましいヤツ」


 勇はその話を聞いて、なんとなく不愉快になった。別段、倫理観についてとやかく言うつもりはない勇だったが、乱れた男女関係は、配偶者がありながら他の男のもとへと行った母親を思い返させるのだ。たこ焼きを受け取った勇は、ゆらぎの言っていたメイド喫茶の開かれる教室に向かって、歩いていたのだが。ふと、ある場所に人だかりが出来ているのに気付いた。勇は、なにか出し物でもやってるのかと思って、足を向けたのだが……。そこにいたのは、メイド服を着たゆらぎだった。


「はい、チーズ」


 ゆらぎは笑顔で小さな子供と写真を撮っていた。そして、それが終わるとまた次の相手と写真を撮る。その列が途切れることがないのだ。たしかにゆらぎはどこぞの女神のようなルックスはしているが、これではまるで客寄せのマスコット人形だなと勇は思った。そして、顔を上げたゆらぎが勇に気付く。


「あっ、物木さん」


 ふんわりと微笑むと勇に近寄ってくるゆらぎ。勇は小さく笑うとゆらぎに声をかけた。


「会いに来たぞ」

「はい。私、嬉しいです。物木さんが来てくださって」


 聞けば、ゆらぎは数時間前からこうして写真を撮られ続けているらしかった。メイド喫茶はどうしたのかと聞けば、開店から数時間で完売終了となったらしい。


「物木さん、せっかく来てくださったのに、申し訳ありません」


 そう謝るゆらぎだったが、列に並ぶ男性客がゆらぎを呼ぶ。


「メイドさ~ん、おしゃべりしてないで早く戻ってきてよ~」

「あっ、すみません」


 笑顔ながら、微妙に息が上がっているというか、どことなく疲れがにじんでいることに気付いた勇はゆらぎの腕を掴み、強引に引っ張っていく。「おい、どこに連れてくんだよ」男性客が不満を言う。だが、勇が睨み付けると黙ったのだった。


「あの……物木さん」


 そうしてしばらく歩いた後、腕を離す勇。

 勇は立ち入り禁止のロープがかかっている非常階段の中へと入っていく。


「物木さん、いけませんよ。ここは立ち入り禁止です」

「いいから、来いよ」


 そう言って、言葉少なに手をさしのべる勇。若干体調の悪そうなゆらぎは、勇と目をあわせる。そして、頷くとしっかりとその手を掴むのだった。

 そうして、しばらく階段をのぼり、途中で座る二人。勇は、ゆらぎに昼食をとったのかとたずねる。食べたと答えるゆらぎに勇は聞く。


「水でいいよな」

「あっ……私も行きます……」

「休んでろ」


 勇は短くそう言うと、水を買いに行ったのだった。ゆらぎは、勇の好意に甘えることにしたのかそのままその場に座っていたのであった。

 十分後、水を手に持った勇が、ゆらぎにそれを差し出す。ゆらぎは微笑みながら、申し訳なさそうに感謝するのだった。水を一口飲んだゆらぎはふぅ、と息をつく。


「ありがとうございます、物木さん」


 勇は、照れを隠しながらたこ焼きのパックを開けた。それを食べながら、勇はゆらぎに話を振る。


「このガッコ、美少女を集めてるヤツがいるんだって?」

「……はい。います」

「ムカつくよな。そういうフラチなヤツ」

「……そうですか」


 ゆらぎは、考え込むような仕草をしていた。勇は、ゆらぎは女神のような美少女ではあるがそんなヤツにひっかかるような人間ではないと確信していたのでなにも聞かなかった。ゆらぎはにっこりと微笑むと、勇に手を差し出すように言う。


「物木さん、お礼になるかは分かりませんが……これを」


 ゆらぎが、ポケットから出したのはラッピングされたクッキーだった。勇の手の上に乗せると、ゆらぎは手でハートを作り、なにかを口ずさむとクッキーに向かって手のハートを寄せる。


「萌え萌え、メイドの愛をご主人様におすそわけです。おいしくな~れ」


 美少女メイドにこう言われた人間は人によって、様々な反応を見せるだろうが勇は正直言って、かなりハマった口だった。何百回でも見たい、そんな具合に。あまりに魅力的なメイドっぷりに放心していた勇だったが、正気に戻るとそれを隠すようにクッキーに食らいつくのだった。


「美味しいですか?」

「ああ、美味い」


 ゆらぎの愛が入っているせいだろうか。余計そう感じた。心なしか、市販のクッキーより甘さ控えめな気がする。勇がそう言うとゆらぎは両手をあわせて喜んだ。


「甘い物が苦手なご主人様のために甘さ控えめのクッキーをご用意していたんですよ。物木さんは甘い物は……」


 勇はなんとなく、気になって話を止める。


「あのさ」

「はい?」

「敬語、止めたら?あんたの方が一個上だし」

「すみません……これは、小さな頃からの癖なんです。一緒に住んでいた祖母が敬語で話していてそれを真似しているうちに自然と……」


 勇はそうなのかと思った。ゆらぎは無理なく敬語を話すとどことなく感じていたが、そんな背景があったとは。

 とはいえ、勇は納得はしなかった。


「じゃあ、勇って呼べ」

「え?」

「物木さんだとまるっきり他人行儀じゃねぇか」


 拗ねたように勇がそう言うと、ゆらぎは微笑んだ。


「はい、それでは勇くんと……呼ばせて頂きますね」


 勇は赤い顔を隠すように、そっぽを向く。そんな勇を見て、ゆらぎは嬉しそうに笑うのだった。

 


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