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俺と理路紺太と美少女


 運命の日。紺太の胸は動悸が止まらなかった。……ついに、この日が来たのだ。


 待ちに待った炉々子とのおでかけの日である。

 今日、紺太はある決意をしていた。そう、炉々子にこの溢れ出る気持ちを告白するのである。連日のプレゼントにより、好感度はマックスのはずだ。炉々子はおおよそ良い返事をくれるだろう。そして、二人は結ばれる……。

 それが紺太の思い描く素晴らしいハッピーエンドだった。……ちなみに炉々子が成長し、ババアとなった時点で交際は解消する予定である。


 いつもの児童公園で落ち合った炉々子は例の白いワンピースを着ていた。ということはおパンツはあのくまさんなのだろうか。紺太は顔がだらしなく緩むのが分かった。紺太はいかんいかんと気を引き締める。今日は勝負の日なのだ。一瞬の油断もしてはいけない。

 とはいえ、隣を歩く炉々子の愛らしいこと。炉々子とは、これから男女の仲になっていくかも知れないのだ。鼻歌交じりの炉々子にいつもと違ったときめきを感じながら、バス停まで歩いて行く。


 そうして二人はバスを待っていたのだが、紺太はその時、視界の隅にサングラスにマスクをした男を見かけたのだった。……新手の不審者だろうか。炉々子はこれだけ可愛らしいのだから、きっと炉々子のファンに違いないと紺太は思った。そして、炉々子の隣にいる優越感に浸り、男をにやりと振り返る。男はさっと電柱の影に隠れたのだった。


「あ、来たよ!」


 音を発しながらやってきたバスに乗り込む二人。運良く席の空きがあり、炉々子と席に座る紺太。あの不審者も滑り込むようにバスに乗り込んできた。紺太はそれに少しばかり驚きを感じながらも、やはり炉々子のファンなのだと確信する。と、炉々子はにこにこと笑いながら、紺太に声をかけてくる。


「紺太おにいちゃん、汗がすご~い!」

「ははっ、これは青春の汗というものでありますよ」


 炉々子と共にいることで紺太は甘酸っぱい青春をびんびんと感じているのだった。


「ふ~ん、せいしゅんせいしゅ~ん」


 炉々子は楽しげに口ずさむ。意味は分かっていないらしい。ここで妙にこまっしゃくれたことを言われれば、紺太としては萎えたところだったが、やはり、炉々子は紺太の理想のロリである。天真爛漫なロリ界の妖精。紺太は炉々子に愛を捧げようと決意するのだった。……少なくとも、炉々子がロリの間は。

 そうしてしばらくバスは走り、街中へたどり着いた。


「とうちゃく~!」


 炉々子はバスから降りると嬉しそうにはねまわる。

 通りは人でいっぱいだった。本日は休日なので、そのせいもあるだろう。炉々子の愛くるしさは人混みの中でも人目を惹いていた。

 しかし、炉々子と街を歩いていて分かった。炉々子はまるでじっとしていないのである。興味のあるものを見かけると、紺太のことなどまるっきり忘れてそこに向かって一目散に走って行く。見失うわけにはいかない紺太はそんな炉々子を追いかけているうちにへとへとになってしまった。


「ろ、炉々子殿ぉ……」

「?おにいちゃん、どうしたの?」


 炉々子はきょとんとしてへぇへぇと犬のように息をする紺太を見上げる。

 ロリ、おそるべし。なんたるパワーだ。普段、児童公園で発揮している元気の良さは伊達ではないのである。


「そんなに急がれては自分、迷子になってしまうであります」


 捨てられた犬のような顔で嘆く紺太。自分で言っておいてなんだが、どちらかと言えば迷子になるのは炉々子な気がするのだが。

 炉々子はそれを聞くと納得がいったようにうんとうなずいた。そして、紺太に向かって、笑顔で手を差し出す。


「はい、紺太おにいちゃん。迷子にならないように手を繋ごう?」


 ほんの少し年上ぶったその口ぶり。紺太にとってはジャストミートの威力だった。なんと、なんといじらしいのか。紺太はあへあへいいながら、炉々子の手を握った。小さくすべすべとした柔らかい手。紺太の顔は自然と満開の笑顔になった。

 炉々子に手を引っ張られながら、歩く紺太。

 紺太は、今という時が永遠に続けばいいと願う。


 そして、思ったのだ。

 告白するなら、今かも知れない……と。


 突然、ぴたりと足を止めた紺太に炉々子は不思議そうに振り返る。「紺太おにいちゃん?」

 紺太はそんな炉々子に一世一代の願望を告げた。


「炉々子殿、自分の彼女になって欲しいのであります!!」


 炉々子はぽかんと口を開けて、紺太を眺めていた。駄目だったか?紺太は背中に汗が流れ落ちるのを感じる。好感度の調整をミスったのか……やはりもう一押し、ぷるピアグッズをプレゼントしておくべきだったか。紺太はそう後悔したのだが。


「ぅぅんーっと、それっておままごと?」

「え、」


 今度は紺太が驚く番だった。まさか、流された?紺太は一瞬疑った。だが、炉々子の表情には紺太をやりこめてやろうなどという不純なものなど欠片もない。おそらく、純粋に告白の意味を理解出来なかったのだと……紺太は感じた。炉々子はにこにこと笑っている。


 紺太の中に邪な考えがよぎった。

 そうだ。おままごとだと言ってしまえばいい。

 そうして、毎日、炉々子と恋人になればいいのだ。


 紺太の顔に歯茎をむき出しにした笑みが浮かぶ。純粋な炉々子を騙すようで少し心苦しいが、紺太にはとてもあらがえない誘惑だった。


「そう……であります」


 そうして、紺太は炉々子に返事を返したのだった。

 炉々子は元気よくこう言った。


「それじゃあ、わたし彼女になる!」


 その言葉を聞いた途端、紺太の胸はバラ色に染まった。ついに、理想のロリと付き合うことに成功したのだ。自分はやりとげた。紺太は幸せでいっぱいになった。


 ――それから、二人は子供服専門の店に入ったり、おもちゃ屋に入ったりして買い物を楽しんだのだった。

 買い物を楽しむ炉々子はきらきらと輝いていて、こんな素晴らしいロリが彼女なのだと思うと誇らしい気分だった。

 この日は紺太にとって、かけがえのない思い出となる予感がした。


 そうこうしている内に、別れの時間が近づいてきたのだった。炉々子は本日は塾の日なのだそうだ。なので、昼を少し過ぎた時間に、お別れということになった。

 紺太はさりげなく街の路地裏へ炉々子を連れてくると、名残惜しそうに言う。


「炉々子殿……彼女になってくれてありがとうであります」

「ふふっ、わたしもたのしかったよ!おままごと!」


 紺太はにやりと笑う。この場に人気はない。そして、炉々子の肩を掴んだのだった。


「?紺太おにいちゃん?」


 まんまるとした目を向けてくる炉々子に紺太は告げる。


「炉々子殿……別れのキッスでありますよ」


 そういうと、唇をむにょんと突き出して炉々子の唇に顔を近づける紺太。炉々子は事態が飲み込めていないのかぼーっとしている。

 今だ!紺太はそう思った。……のだが。


 瞬間、身体に凄まじい勢いで何かがぶつかってきた。


「ぼぉうふ!?」


 身体が地面を転がる。タックルされたのだと遅れて気付いた。何事かと顔を上げた紺太の目の前に立っていたのは、サングラスにマスクをした……例の不審者だった。


「おっ、お前はっ!!炉々子殿を狙う不審者!!」

「ふしんしゃ?」


 炉々子は不思議そうに隣にいる不審者を見上げる。


「……不審者はどっちだろうな、紺太おにいちゃん」


 不審者はマスクでくぐもった声を出すと、顔からサングラスとマスクを取り除いた。そこから現れたのは……高校生ほどの若輩者の顔だった。すると、炉々子は驚いたような声を上げる。


「シソジロウ!」


 シソジロウ?紺太は眉をひそめた。なんだか知らないが、この若輩者は炉々子の知り合いらしい。シソジロウはふっと笑うと炉々子の頭を撫でた。


「偶然だな、炉々子。こんなところで会うなんてな」

「うん!本当だね!ふふっ!」


 炉々子はシソジロウに頭を撫でられ、嬉しそうに目を細めている。紺太はその光景を見て、なにか非常に腹が立った。炉々子は自分の彼女なのに、あの不躾な若輩者はなんだ。いくら自分が炉々子に口づけをしようとしていたからといって、タックルすることはないだろう。紺太は立ち上がると、声を荒げた。


「貴様ッ!炉々子殿から離れろ!!」


 シソジロウは肩をすくめるとやれやれと笑った。


「紺太おにいちゃん?お前が命令できる立場じゃないってのはわかるよな?」

「なんだと?」

「通報しなかっただけありがたく思えってことだ」


 この若輩者はなにを言っているのか。自分と炉々子は付き合っているのだから、キッスをしようが勝手ではないか。紺太はシソジロウの馬鹿にしたような口調に苛立つ。

 シソジロウは紺太を上から下まで見下ろすと、小馬鹿にしたように言った。


「その格好は、ギャグでしてるんだよな?」


 今日の紺太の服は、みりえるの大きく載ったTシャツ。それに桃色のはっぴを羽織っているのだった。紺太は憤った。こやつは我々の正装を侮辱しおった。そして、こうして服装をあからさまに馬鹿にしてくる連中の正体は相場が決まっていた。


「貴様!!さてはオタク狩りだなッ!」


 シソジロウは片眉を上げ、まるで「なにいってんだ、こいつ」と言った表情をする。

 だが、その邪悪な正体は白日のもとに露見したのだ。紺太がそう叫ぶと、シソジロウは言い逃れが出来なくなったのか、困ったような顔をする。

 この若輩者は炉々子の知り合いであろうとも、どうやら紺太の敵らしかった。

 紺太はシソジロウを指さすと唾を飛ばしながら言う。


「貴様のようなヤツはこの世の平穏のために生かしてはおけん!」


 紺太はそういうとポケットの中にあったアレを取り出した。

 そう……防犯スプレーである。紺太は時折、オタク狩りの被害にあっていたので、防犯のため日頃から持ち歩いていたのだ。

 紺太は叫び声を上げシソジロウめがけて走りながら、防犯スプレーを押したのだが。……噴射口が逆だったのだ。当然、スプレーは紺太に向かって発射される。


「ぐぁあああ!!!目がっ!!目がぁあああ!!」


 紺太は目を押さえながらのたうち回った。

 それを見たシソジロウは腹を抱えて笑った。炉々子は不安げにシソジロウに抱きついて、紺太を見ている。


「ははっ、はははっ!!あんた、すげーなお笑い芸人やったら?才能あるぜ」


 紺太は充血した目でシソジロウを睨み付ける。そして、その隣にいる炉々子も。……炉々子はひどく怯えたような表情をしている。きっと、自分の心配をしたいが、そこの若輩者の手前そうすることが出来ないのだろう。

 ――悪の手先め!!

 紺太は勢いよく立ち上がると、シソジロウに殴りかかった……のだが。ズンっと腹に鋭い衝撃が来る。「か……はっ……!!」息が出来ずに折り曲げた身体。腹にはシソジロウの拳がめり込んでいた。

 紺太は腹を押さえてその場にうずくまる。シソジロウは冷酷な声で言った。


「もう、炉々子には近寄らないよな?」


 この若輩者は自分と炉々子との仲を引き裂こうとしているのか。炉々子と紺太は純粋に愛し合っているというのになんたること。紺太はあまりの理不尽に義憤に燃えた。


「断る!!」

「そうか」


 短くそう返すとシソジロウは紺太をぐりぐりと蹴りつける。


「痛いッ痛い痛い―――!!」

「やめてあげてっ!シソジロウ!」


 紺太は片目を開ける。そこにあったのは炉々子の姿だった。シソジロウの足を持ち、この蛮行を止めようとしている。やはり、炉々子は自分の救世主だった……紺太はそう思うと涙した。


「ろ、炉々子殿ぉ……!」

「紺太おにいちゃんは悪い人じゃないよ!わたしたち、いつも一緒に遊んでる友達なんだよ!ひどいことしないで!」


 シソジロウはふっと笑う。


「馬鹿だな。炉々子。これは遊びなんだぞ?」

「え?」

「喧嘩ごっこだ。……紺太おにいちゃんはなぁ、これが大好きなんだぞ?」


 なんて馬鹿げたことを言うんだこの若輩者は。紺太は首を横に振ろうとするが、シソジロウの足に頭を地面に押さえつけられる。

 こんな馬鹿げた言葉、炉々子が信じるわけがない。紺太はそう確信して、炉々子を見たのだが。

 シソジロウの言葉に炉々子は感銘を受けたように頷いていたのだった。その目は澄み切っていた。


「そっかぁ。そうだよね。シソジロウがそんな酷いことするわけないもん。喧嘩ごっこだったんだね!」

「ろ、炉々子殿……?」


 シソジロウの足から手を退かす炉々子。紺太は絶望していた。無理矢理身体を起こすと、炉々子の身体にすがりつく紺太。


「喧嘩ごっこなんて嘘八百であります!この若輩者は自分にただ暴力をふるっていただけで……」

「ほら、炉々子。紺太おにいちゃんは照れてるんだよ。お前もパンチしてあげろ」

「うんっ!」


 炉々子はそう元気にうなずくと、紺太の頬に向かって思いっきり拳を見舞った。なまじ喧嘩慣れしていない分、手加減というものがないそれはかなりの攻撃力をほこっていた。紺太は地面にひれ伏したのだった。


「痛い……」


 紺太は頬をおさえながら、涙を流した。

 拳が痛かったからだけではない。炉々子からの攻撃が辛かったのだ。

 炉々子は自分ではなくシソジロウを信じているという事実がたまらなく悲しかった。


「わーい!やったー!」

「ノックアウト、だな」


 シソジロウが勝者をたたえるように炉々子の片手を上げさせると炉々子は嬉しそうに笑っていた。

 紺太には、炉々子がひどく遠い存在に見えた。紺太は心の中で必死に炉々子に手を伸ばすが、とても届かなかった。


「炉々子殿……ぉ」


 そんな時だった。

 ぴゅーっと風が吹き、それらは炉々子のワンピースをめくりあげさせたのだ。

 露わになったのは……ぷるピアのプリントがされたおパンツだった。

 それは、紺太がプレゼントしたものだった。


「そ、それは……自分がプレゼントしたおパンツ!」


 つい口に出していた。炉々子はにこにこと微笑んでくる。


「うん、これ、お気に入りなんだぁ」


 自分のプレゼントしたものを肌身離さず、身に着けてくれていたとは。紺太はそれを見て嬉しく感じた。そして、思い出したのだ。ロリ専門カメラマンとして大切なことを。炉々子と出会った頃のひたすらに楽しかった記憶が頭を駆け巡っていく。

 思い出の中の炉々子はひたすらに愛らしかった。では、今は可愛くなくなったか?否……それは違う。今も紺太の理想のままの姿をしている。では……ロリ専属カメラマンとしてやることはひとつだ。

 そして、紺太は思い直したのだ。炉々子と付き合うことは出来なかったが、これからは影ながら炉々子がババアになるまで見守っていこうと……。

 そう、紺太が希望に目をキラキラとさせて決心した時だった。

 シソジロウは面倒くさそうに頭をかいて言う。


「なぁ、炉々子。お前、いくつだ。俺と同級生だろ?」


 炉々子が、この若輩者と同級生?紺太は一瞬ひどく驚くも、素早く考えを改める。この若輩者は、酷く早熟なナリをしているが十才以下の年齢だったのだ。もしくは、シソジロウは小学校を何浪もしたのだろう。いや、それがあり得るならば、炉々子が天才児で高校まで飛び級したという線も考えられる。

 そんなことを紺太が延々と考えていた時だった。

 炉々子が可愛らしい声でシソジロウに返事をした。


「今度の誕生日で十七才になったよ。わたしの方がシソジロウよりちょっとだけおねえちゃんだねっ」


 紺太は瞬間、耳を疑った。


「じゅうななさい……じゅうなな……」

「?紺太おにいちゃん?」


 紺太は某有名絵画のように、口と目を大きく開け、耳をふさいだ。

 このあどけない少女が十七才?嘘だ!嘘だ――!!

 だが、紺太は思い出した。

 炉々子が児童公園に訪れるどの年齢の子供たちからも「炉々子おねえちゃん」と呼ばれていたこと。

 そして、炉々子の着ていた制服……あれは近隣の紫蘇高校の制服ではなかったか?

 紺太は信じられないと言った風に叫んだ。


「炉々子殿はロリババアだったでありますかッ!?」

「ろりばばあ?」


 ロリババア。つまりはロリの外見をしたババアである。

 そう呼ばれるものは稀にいるのだが、それは一才や二才そこらで誤差と言えるものが多かった。それほどまでに紺太のロリセンサーは正確なのだ。


 それが十七才だと?もう杖をつくようなババアじゃないか。


 紺太は、裏切られたという気持ちでいっぱいになった。多分、アイドルや美少女キャラに彼氏がいたと発覚して怒り狂うオタクたちよりも、その怒りは激しい。

 今までの輝かしい思い出の数々はなんだったのか。あの美しい写真の数々はゴミと化したのだ。ロリ専属カメラマンとして、許しがたい愚行だった。


「うわぁああ、くそっくそぉおおお!!」


 悔しそうに地面を叩く紺太。炉々子は怯えたように紺太を見ていた。


「紺太おにいちゃん……?」


 その愛くるしい声に、憎悪が身体を駆け巡った。

 ロリの皮を被ったババアめ。

 顔を狂気に染め、叫ぶ紺太。


「おにいちゃんなんて呼ぶんじゃねぇ!!このババア!!」


 紺太は今日買ったプレゼントを炉々子に投げつける。

 炉々子はびくりと肩を揺らすとみるみる瞳に涙をためた。


「ふぇ……紺太おにいちゃんが怒ったぁ……」


 炉々子はしくしくと泣きながら、シソジロウに抱きつく。

 シソジロウはやれやれと首を振りながら、その頭を撫でた。

 紺太は炉々子が泣くのを見て鼻で笑うと、その場からきびすを返すのだった。


 当然、振り返りもせずに。


◆◆◆

◆◆◆


 日差しが刺すように降り注ぐ、それは激しい猛暑である。

 夏休み中の紫蘇高校には、いつものような活気はない。

 ……その代わりといってはなんだが。

 グラウンドではもくもくと黒い煙が上がっていた。その火元では、数々のおもちゃやらぬいぐるみやらが一カ所に集められて燃やされていたのだった。


「おいも、もえろーもえろー」


 そこには、紺太に貰った貢ぎ物をくべる炉々子がいた。ぽいっと、ぷるピアのパンツが火の中に投げ捨てられる。ぱちぱちとパンツは跡形もなく燃えていった。

 シソジロウは炉々子の頭を撫でると言った。


「よく出来たな、炉々子」

「うん、えへへ」


 そんな二人をあきれたように眺める、ハーレム部員たち。焼き芋をするという名目であるが、紺太からの貢ぎ物の処分のための口実だというのはあきらかである。


「こんな真夏に焼き芋って……はぁ」

「……ゴミに出すだけでは駄目だったのでしょうか……?」


 しゃがんだシソジロウは芋に棒を刺しながら、焼き加減を確かめる。


「炉々子、この後、家に来るか?かき氷、食べ放題させてやるぞ」

「本当!?シソジロウ」

「ふっ、もちろんだ。俺は約束は守るからな」

「わーい、やったー」


 炉々子は嬉しそうにその場を走り回る。いつもの無邪気な炉々子だ。ゆらぎがおっとりと注意を促すと、走るのを止めてシソジロウの隣に座り込む。


「楽しいね、シソジロウ」


 そう言っていた炉々子だったが、ふっと悲しげに瞳を揺らすと、呟く。

 それは寂しげな顔をしていた。


「ねぇ、シソジロウ……シソジロウは、どこにも行ったりしないよね?」


 おそらく、紺太のことが心の傷になったのだろう。あんなに仲が良かったのに、振り返りもせずに行ってしまった紺太。

 シソジロウは、炉々子の目を見てにっこりと笑う。


「当たり前だろ?」

「ホントに?」

「ああ、本当だ。俺を信じろよ、炉々子」


 それは大好きなシソジロウからの言葉だった。炉々子は弾むように返事をする。


「うん、信じるっ!」


 炉々子はその言葉と同時にシソジロウに向かって飛びつく。

 そしてその頬にキスをしたのだった。

 他のハーレム部員たちは驚きに目を見開いていた。


「ず~っと一緒にいようね?シソジロウ」


 輝くような炉々子の笑顔。シソジロウはにっこりと微笑むのだった。

 だが……その背後ではたき火に負けず劣らず燃え上がるものの姿があった。


「……抜け駆けなんて良い度胸ね。クソチビさん」

「私もシソジロウくんのほっぺにキス……しちゃってもいいですよね?ふふっ」

「あ。今日、納豆食べてきちゃった。でも、許してね。しそっちゃん」

「シソジロウ先輩、キス、してもいいですか……?」


 シソジロウはあつあつの焼き芋を手でもてあそびながら、呟いた。


「ふー、やれやれだぜ」



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